妊婦の血液で胎児のDNAを分析しダウン症など染色体異常を調べる「新出生前診断」について、日本産科婦人科学会は、実施施設の拡大を目指した新たな指針の運用を当面見送ることを決めた。

 新指針は、産科婦人科学会の理事会で正式に承認されたが、運用については、厚生労働省が立ち上げる検討会の議論を見極めるまで凍結するという。

 胎児の異常を調べる手法は、「産むか産まないか」という命の選別につながりかねない。産科婦人科学会に任せたまま実施施設が増えれば、「妊娠を続けるかどうか迷って妊婦が心理的負担を抱え、安易な中絶が増えかねない」と懸念する声もあり、国がようやく重い腰を上げた形だ。

 産科婦人科学会が認めているのはダウン症など3種類の染色体異常を調べるだけだが、遺伝子検査技術の進歩に伴って、このほかにも多くの病気が生まれる前に調べられるようになっている。どこまで容認するのか社会全体で議論を深める必要がある。

 新出生前診断は、2013年から臨床研究として始まった。採血だけで済み、妊娠早期に比較的高い精度で異常を検出できる。

 従来の指針では、妊婦や家族の気持ちに寄り添い、検査を正しく理解してもらうため、高度で豊富な知識を持つ遺伝専門医が常駐し、遺伝カウンセリングができる施設に限って実施を認めてきた。全国で約90の認定施設がある。

 しかし、16年ごろから指針を無視して検査したり、産科婦人科学会が認めていない35歳未満の妊婦を対象にしたりする無認定の民間クリニックが増加。異常があるという結果が出たのに十分なカウンセリングや確定検査が受けられなかった妊婦が、認定施設に駆け込むケースも起きている。指針には、強制力も罰則もなく、事実上の“野放し”状態で、無認定施設の数も不透明だ。

 新指針では、妊婦が無認定施設に流れるのを防ぎ、認定施設が少ない地域でも広く検査できるよう大幅に要件を緩めた。産科婦人科学会指定の研修を受けた専門医がいて、小児科医と常に連携している分娩[ぶんべん]可能な施設であれば検査を認める。遺伝専門医や小児科医の常勤も問わないことにした。

 女性の社会進出に伴い、出産年齢の高齢化が進み、不妊治療とともに新出生前診断への関心も高まっている。産科婦人科学会の調査では染色体異常が見つかった妊婦の9割が中絶を選んでいる。

 出生前診断の実施施設が急速に拡大すれば、妊婦の不安をあおり、安易に出産を控える風潮につながりかねない。日本小児科学会などは「出産後の医療や支援の現状を説明する機会が失われる」と批判している。

 出生をめぐる医療技術は進歩しているが、人の命を左右する倫理的な問題点が広く認識されないまま実施施設が拡大し、検査が普及することがあってはならない。国や学会任せにせず、国民的な議論が必要だ。


引用元:
新出生前診断 倫理面含め国民的議論を(熊本日日新聞)