■子供の前で「ネガティブな決め付け」発言していませんか?
この子は算数ができないタイプ
この子は運動音痴なのよね
この子はシャイで人前で話せないのよ

簡単な計算につまづいていたり、周りの子が軽々と飛び越えられる跳び箱が飛べなかったり、知らない人の前でなかなか話そうとしない子を前にすると、確かにそんな風に思ってしまうのも自然なことかもしれません。それでも、そうした考えはひとまず胸の中にしまっておき、子供の前では、なるべく口にしない方がいいでしょう。

子供は、周りの人が自分のことをどう捉えているかをよく見ています。日々変化し成長する子供達に、早い段階でこうしたネガティブな「決め付け」をしてしまっては、その子の可能性を狭めてしまいかねません。


■「ステレオタイプの脅威」の研究が示すネガティブな決め付けの影響
周りのネガティブなイメージが、その人やその子のパフォーマンスにどのような影響を与えるかについては、社会心理学で有名な研究があります。社会心理学者クロード・スティール博士とジョシュア・アロンソン博士は、「黒人は白人より学業面が苦手」というネガティブな「ステレオタイプ」(個々人の「決め付け」の集合)が、どのように学生のテスト結果に影響するかを研究しました。

結果、テスト前に人種を強調された場合は、実際に黒人の学生は白人の学生よりスコアが悪く、強調されなかった場合では、白人の学生と同じ、もしくは白人の学生より良いスコアをはじき出したといいます。

スティール博士とアロンソン博士は、周りの持つネガティブな決め付け通りに、人々がネガティブなパフォーマンスを生み出してしまうこの現象を「ステレオタイプの脅威」と名づけました。そして1995年に両博士によって発表されて以来、これまで300以上の様々な「ステレオタイプの脅威」の研究が報告されています。例えば、

・女子は男子より数学が苦手
・女性は男性より交渉が苦手
・女性は男性より運転が苦手
・白人男性はアジア男性より数学が苦手
・白人は黒人よりスポーツ能力が劣る
・経済的に恵まれない家庭の子は学業面で成功できない
・米国の小学生の男子は女子に学業面で劣る

これらの研究で分かったことは、こうした「ステレオタイプ」を強調されることで、多くの人々や子供達がその通りの結果を出してしまうということです。例えば、テストの前に性別を尋ねられた場合、女子は男子より数学のスコアが低くなり、人種を確認された場合、白人はアジア人より低い点数を取ってしまったといいます。

こうした「ステレオタイプ」を一つ一つみると、「本当にそうよね」と思わず頷いてしまうものもあるかもしれません。それでも周りを見回しても、数学が得意な女子も、運転が得意な女性も、確かにいますよね。また「本当にそうよね」と感じるのも、ひょっとしたら、多くの人々が巷に溢れる「ステレオタイプ」に影響を受けその通りに振る舞い、「ステレオタイプ」を繰り返し確かなものとしているためなのかもしれません。

実際、黒人の子供達が、自分にはどうせ無理だからと、初めから学業面に時間や努力を注ぐことを諦め、結果的に学業面の弱さが「再生産」されているという報告もあります。

いずれにしても、「本当にそうよね」というネガティブな決め付けによって、目の前の子供達の可能性を狭めてしまうことは避けたいですよね。「できないできない」と周りから言われながら「できる」ようになるというのは、まだまだ経験も知識も圧倒的に少ない子供達にとって、とてつもなく難しいことです。


■まずは周りの大人がネガティブな決め付けを口にしないこと
●「うまくできない」のも「成長の過程」と捉える
成長というのは、「一直線」に上を向いて伸びていくわけではありません。時に下降し、横ばい状態が続き、ぐぐっと伸び、また後退し、そんな「でこぼこな線」を描きつつ、少しずつ伸びていきます。

ですから、そうした成長の過程を切り取り、「この子は〜だ」と決め付ける言葉を、まずは安易に口にしないことです。子供は日々変化しています。横ばいに見えるのも、その後一気に伸びる準備をしている時なのかもしれません。

●改善へ向けて具体的サポートをする
簡単な計算に苦労しているのなら、手に取ることのできる物を用いた練習により「数のセンス」を身につけることで、よりスムーズにできるようになるかもしれません。跳び箱を飛べない子も、より適した姿勢を身につけることで、高い段が飛べるようになるかもしれません。

ある場面では一切話すことができなくなってしまう子は、場面緘黙(かんもく)症の専門家などによる適切な働きかけを取り入れることで改善していくでしょう。長い目で見守りつつ、その子自身のペースでその子なりに改善していけるよう、具体的なサポートをしていきましょう。


■子供自身に跳ね返す力をつけましょう
●失敗を乗り越えさせ達成感を積み重ねる
何度も失敗を乗り越え何かができるようになった!という体験を持つ子は、ちょっとやそっと周りからネガティブな言葉をかけられても、「でも頑張るなら、私/僕にだって、できるようになるんじゃないかな」、そう跳ね返すことができます。

●用いる言葉を変える
普段子供と交わす言葉を変えてみましょう。

どうせ無理→どうしたらできるようになるかな
できるわけがない→他にどんなやり方があるだろう
難しすぎる→これは時間と努力が必要ね

子供達が、ネガティブな決め付けを跳ね返せるような言葉をかけてやりましょう。

●ネガティブな決め付けを跳ね返し活躍する人々の例を示す
「ステレオタイプの脅威」を跳ね返すには、「ステレオタイプ」から外れる「例外的」な人物像を示すことが効果的と分かっています。女性の数学者や、経済的に恵まれない家庭に育ちつつも学業面で成功した人々を示し励ましていくのです。

天才とされたアインシュタインも学校では「落ちこぼれ」だったしね、ウォルト・ディズニーなんて「想像力とアイデアに欠けている」という理由で新聞社を首になったのよ。そうネガティブな決め付けを跳ね飛ばし大成功した多くの人々の生き様についても伝えてやりましょう。

筆者の知り合いに、子供時代からパイロットに憧れ、日本で短大を卒業した後アメリカに渡り、今はジャンボジェットパイロットのキャプテンをしている日本女性がいます。小さな頃から、「パイロットなんて男の仕事だから無理」と周りから繰り返し言われ、でも飛行機が大好き!と夢を追い続けた末のことです。話を聞くと、彼女の親御さんは常に、「あなたがしたい思うのなら誰が何と言おうと思う存分やってみなさい!」そう声をかけ続けたそうです。

子供は、今も、そしてこれからも、様々な「ネガティブな決め付け」に出遭うでしょう。周りにいる大人として、子供達がそうした決め付けを跳ね返し、可能性を最大限生かしこれからの世界へと羽ばたいていけるよう、助けていきたいですね。

参考資料:跳ね返せ!子供の力を狭める「ステレオタイプの脅威」(https://allabout.co.jp/gm/gc/454524/)記事下段に記載
(文:長岡 真意子(子育てガイド))

引用元:
やってはいけない!子供へのネガティブな決め付け発言〈ニフティニュース)