立病院・公的病院等改革の内容や、2018年の病床機能報告結果は、地域医療構想に記載された「2025年における病床の必要量」からはかけ離れたものとなっている。期限を区切って改革内容を再検証するとともに、追加的な補助金による病床規模の削減(ダウンサイジング)、診療報酬の加算・減算などによる病床再編などを進める必要がある―。

 5月31日に開催された経済財政諮問会議で、有識者議員からこういった提言が行われました。

公立病院・公的病院等の改革内容を「見える化」し、再検証を進めよ
 画期的な白血病等治療薬「キムリア点滴静注」が保険収載され、薬価が3349万円に設定されています。こうした医療技術の高度化、高齢化の進行(2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となる)などに伴い、医療費をはじめとする社会保障費は増加を続けます。

 そうした中で、2025年から2040年にかけて、高齢者人口の増加度合いそのものは鈍化しますが、高齢者を支える現役世代(生産年齢人口)が急激に減少していくことが分かっています。これは、社会保障制度の基盤が極めて脆くなることを意味し、安倍晋三内閣では、社会保障制度の維持に向けた「改革」の検討を進めています。

 経済財政諮問会議の有識者議員(▼竹森俊平議員:慶應義塾大学経済学部教授▼中西宏明議員:日立製作所取締役会長兼執行役▼新浪剛史議員:サントリーホールディングス代表取締役社長▼柳川範之議員:東京大学大学院経済学研究科教授)は、5月31日の会合で次のような事項を骨太方針2019(経済財政運営と改革の基本方針2019)に盛り込むよう提言しました。

(1)都道府県が主体的な役割を果たすガバナンス構造の確立
(2)次世代型行政サービスの推進
(3)インセンティブ改革の推進
(4)見える化の徹底・拡大

 まず(1)では、▼医療提供体制(医療計画)▼医療費適正化(医療費適正化計画)▼国民健康保険の財政運営▼健康寿命の延伸―の責任主体である都道府県が、受益と負担の均衡確保に向けて主体的な役割を果たせるガバナンス構造を確立する必要があるとし、次のような改革を推進するよう求めています。

▽病床機能報告結果や、公立病院・公的病院等の機能改革の内容を見ると、「地域医療構想における2025年の病床の必要量」等に沿ったものとなっておらず、「民間医療機関では担えない機能」に重点化し、2025年に達成すべき医療機能の再編、病床数等の適正化に沿ったものとなるよう、適切な基準を新たに設定し、期限を区切った見直しを求める。民間病院についても病床数の削減・再編に向けた具体的な道筋を明らかにする

▽地域医療介護総合確保基金について、国が主導する実効的な PDCA サイクルを構築するとともに、成果等の検証を踏まえ、必要な場合には「追加的な病床のダウンサイジング支援」を講じる

▽国民健康保険の都道府県化(財政責任主体)を契機として、国保の法定外繰入等の早期解消を促すとともに、国保の都道府県内の保険料水準の統一や収納率の向上など受益と負担の見える化に取り組む先進・優良事例を全国展開する

▽「健康寿命に影響をもたらす要因」に関する研究を行うとともに、毎年の動向を各地域単位で把握可能な客観的な指標に基づいて施策を推進する

地域医療構想の実現に向けては、2018年度中にほとんどの公立病院・公的病院等が「機能改革案」をまとめ、地域医療構想調整会議で合意が得られましたが、「形だけの合意になっていないか」との指摘が多方面から寄せられています。今後、「地域の医療機関ごとの診療実績」をもとに、合意内容の再検証を進め、必要に応じて▼一部機能の再編・統合(例えば、がん医療について民間と公立等が競合し、民間に余力が十分な場合には、がん機能を当該民間病院に集約するなど)▼病院全体の再編・統合(例えば地域に公立病院等が複数あり、非効率な体制となっている場合には、合併等を進め、効果的・効率的な医療提供体制を目指す)―などの方向が議論されています。今夏には各医療機関の診療実績データが示される見込みで、そこから再検証が本格的に実施されることになるでしょう(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
経済財政諮問会議 190531の図表
 
また(2)では、▼2020年度の本格稼働を目指す「全国保健医療情報ネットワーク」の期限を定め、レセプトに基づく薬剤情報や特定健診情報を全国の医療機関等で確認できる仕組みを構築する▼生まれてから学校、職場に至るまでの健診・検診情報を2022年度までに標準化された形でデジタル化し、蓄積を推進するとともに、予防等への分析・活用を進める―など次世代型サービスの実現を求めています。

 
さらに(3)では、▼地域医療構想の実現に向けた「補助金の活用による病床削減」「加減算双方向での診療報酬の大胆な見直しによる病床機能の転換」を進める▼インセンティブの評価指標について、「アウトカム指標の割合」を計画的に引き上げる▼後発医薬品の使用割合向上、糖尿病の重症化予防等に向けたインセンティブが十分に機能しているか、第三期医療費適正化計画で見込まれた1人当たり医療費の地域差縮減効果が発揮されているかを検証し、必要な対応を検討する▼国保や健康保険組合だけでなく、協会けんぽや後期高齢者医療制度についても保険者別の評価やそれに基づく交付金等の財政インセンティブの配分を見える化する―など「インセンティブが十分に機能しているか」を検証するよう強く求めています。

2020年度の次期診療報酬改定において「地域医療構想の実現」に向けたどのような点数設定が行われるのか(基本料や加算の引き上げ、施設基準の厳格化など)、諮問会議でも注目度が高まっています。

 
一方、(4)では、改革の進捗状況を国民が認識できるよう、▼すべての公立病院・公的病院等の具体的対応方針を構想区域別に見える化し、「2025年に達成すべき病床数等に沿ったもの」となっているか、「民間で担えない機能に重点化」されているかを検証する▼40−50歳代の特定健診・がん検診受診率の向上に向け、保険者別の取り組みを見える化する(年齢階層別の特定健診等の実施率、がん検診と特定健診の一体的実施の有無、効果的な受診勧奨などナッジの活用等)▼糖尿病の重症化予防に関する成果を見える化する観点から、「都道府県別の透析医療費」だけでなく、「糖尿病性腎症による年間新規透析患者数」「糖尿病有病者数」などの都道府県別のデータを見える化する―よう求めています。

 
なお、こうした改革内容について、▼年金・介護については、法改正も視野に本年末(2019年末)までに▼医療等のその他の分野については、2020年の骨太方針に―取りまとめを行うよう要請。本年(2019年)夏以降に「給付と負担の議論」が行われますが、それに先立って「財政と社会保障制度等の重点課題」を整理することを提案しています。

引用元:
追加的な補助金、診療報酬の加算・減算により病床機能の再編や病床削減を進めよ―経済財政諮問会議で有識者議員(メディ・ウォッチ))