2024年4月から医師の時間外労働上限(原則960時間以下、救急病院等では1860時間以下など)が適用される。しかし、「年間960時間以下」が適用される、年間救急車受け入れ台数1000台未満の2次救急では、3割程度が「年間960時間以下の達成」が難しい。また3次救急等の3割程度では「9時間以上の勤務間インターバル確保」が難しい―。

 日本医師会が4月10日に公表した「医師の働き方改革と救急医療に関する日本医師会緊急調査の結果」から、こういった状況が明らかになりました(日医のサイトはこちら)。

 多くの救急医療機関では「医師の増員」で対応する考えを示していますが、医師の少ない地域では難しく、また多くの医療機関で「医師の増員」に動くため、競争が激化する可能性もあります。地域で「医療提供体制の再編・統合」等を進めていくことが、これまで以上に求められそうです。

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1 救急車1000台未満の2次救急、3割程度で年間960時間以下の達成が困難
2 半数近くの救急病院が「医師増員で対応」するとしているが、実現可能性は?
3 3次救急等の3割、「9時間以上の勤務間インターバル確保」が困難
4 救急病院の3−7割、大学病院の医師引きあげで救急医療に支障が出る可能性
5 7割の救急病院、タスク・シフティングについて「十分な検討が必要」との考え
救急車1000台未満の2次救急、3割程度で年間960時間以下の達成が困難
 厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が3月末(2019年3月末)に報告書をとりまとめ、次のような方針が明確になりました(関連記事はこちら)。

▽2024年4月から「医師の時間外労働上限」を適用し、原則として年間960時間以下とする(すべての医療機関で960時間以下を目指す)

▽ただし、「3次救急病院」や「年間に救急車1000台以上を受け入れる2次救急病院」など地域医療確保に欠かせない機能を持つ医療機関で、労働時間短縮等に限界がある場合には、期限付きで医師の時間外労働を年間1860時間以下までとする

▽また研修医など短期間で集中的に症例経験を積む必要がある場合には、時間外労働を年間1860時間以下までとする

▽2024年4月までの間、全医療機関で「労務管理の徹底」(いわゆる36協定の適切な締結など)、「労働時間の短縮」(タスク・シフティングなど)を進める
医師働き方改革検討会1 190328
医師働き方改革検討会2 190328
 
 日医では、▼2次救急医療機関等(救急告示病院などを含む)▼3次救急医療機関および小児救命救急センター▼総合周産期母子医療センターおよび地域周産期母子医療センター―を対象に、「今後5年間で、医師の時間外労働を年間960時間以下にすることは可能か」などの点について緊急調査を実施。1739施設が回答を寄せています(2次救急等:1568施設、3次救急や周産期母子医療センター:171施設)。

 まず「今後5年間で、医師の時間外労働を年間960時間以下にすることは可能か」という点については、次のように40−70%の医療機関で「すでに概ね対応できている」と答えていますが、難しい医療機関、さらに「分からない」との回答も少なくありません。

【すでに概ね対応できている】
▼救急車1000台未満の2次救急等:70.9%
▼救急車1000台以上の2次救急等:48.4%
▼3次医療救急・小児救急:41.4%
▼周産期母子医療センター:44.4%
▼その他:70.1%

【医師の半数程度は可能】
▼救急車1000台未満の2次救急等:7.8%
▼救急車1000台以上の2次救急等:18.2%
▼3次医療救急・小児救急:20.4%
▼周産期母子医療センター:22.2%
▼その他:11.9%

【医師の3分の1程度は可能】
▼救急車1000台未満の2次救急等:3.1%
▼救急車1000台以上の2次救急等:6.2%
▼3次医療救急・小児救急:3.7%
▼周産期母子医療センター:11.1%
▼その他:1.5%

【ほぼ不可能】
▼救急車1000台未満の2次救急等:4.9%
▼救急車1000台以上の2次救急等:7.2%
▼3次医療救急・小児救急:12.3%
▼周産期母子医療センター:―
▼その他:7.5%

【わからない】
▼救急車1000台未満の2次救急等:13.3%
▼救急車1000台以上の2次救急等:20.1%
▼3次医療救急・小児救急:22.2%
▼周産期母子医療センター:22.2%
▼その他:9.0%

 年間960時間以下が適用される「救急車1000台未満の2次救急等」でも、3割が「5年間での960時間以下達成が難しい」状況が再確認できます。国や都道府県、医療勤務環境改善支援センターによる支援が求められるほか、地域の医療提供体制の再編を進めていく必要がありそうです。例えば、地域において、患者のアクセスに配慮した上で、複数の「救急車1000台未満の2次救急等」の救急医療機能を特定の病院に集約(救急医も集約)することなどを、地域医療構想調整会議などで検討していくことが重要でしょう。
医師働き方改革調査(日医)1 190410
 

半数近くの救急病院が「医師増員で対応」するとしているが、実現可能性は?
 「5年間での960時間以下の達成が難しい」救急部門に対し、今後の対応方針を聞いたところ、▼現状維持:25%▼医師の増員:48%▼救急患者の受入制限、救急対応時間の制限:17%▼救急医療機関の返上:1%▼その他(医師間の業務調整、タスク・シフティングなど):3%▼未回答:6%―となっています(2次救急等に限定しても同様の傾向)。
医師働き方改革調査(日医)2 190410
 
 また、多くの勤務医は「他院での勤務」(アルバイト等)を行っています。この点、「自院と他院の勤務時間を通算するのか」という点については今後の検討課題に位置付けられていますが、仮に「通算」が行われた場合には、「今後5年間で、医師の時間外労働を年間960時間以下にすること」への見通しは少し厳しいものとなり、▼現状維持:17%▼医師の増員:52%▼救急患者の受入制限、救急対応時間の制限:21%▼救急医療機関の返上:0%▼その他(医師間の業務調整、タスク・シフティングなど):3%▼未回答:7%―となっています。
医師働き方改革調査(日医)3 190410
 
医師の増員を検討している救急部門がありますが、地域によっては医師確保が困難なこともあり、また多くの病院で「医師確保」競争を行うことになるため、今後、救急医療の制限(患者受入れ制限や救急医療機関の返上)をする医療機関が増えてくることも予想されます。これは、地域の住民・患者にとっては不幸な状況を生むことになります。個別医療機関ではなく、地域の医療機関・行政(広域の都道府県や国も含めて)全体で適切な医療提供体制の確保に向けた検討を急ぐ必要があるでしょう。

3次救急等の3割、「9時間以上の勤務間インターバル確保」が困難
 また、医師の時間外労働上限は一般の労働者より長くなる(年間960時間であっても、いわゆる過労死ラインに近い)ことから、医療機関には▼連続勤務時間は28時間以内とする▼勤務と勤務との間に9時間以上のインターバルを設ける―ことが求められます(年間960時間以下の医療機関では努力義務、年間1860時間以下の医療機関では義務)。

 「9時間以上の勤務間インターバル」の実現可能性については、次のような状況が分かりました。

【すでに概ね対応できている】
▼救急車1000台未満の2次救急等:68.2%
▼救急車1000台以上の2次救急等:51.5%
▼3次医療救急・小児救急:51.2%
▼周産期母子医療センター:44.4%
▼その他:62.7%

【医師の半数程度は可能】
▼救急車1000台未満の2次救急等:6.5%
▼救急車1000台以上の2次救急等:12.2%
▼3次医療救急・小児救急:14.2%
▼周産期母子医療センター:22.2%
▼その他:4.5%

【医師の3分の1程度は可能】
▼救急車1000台未満の2次救急等:2.0%
▼救急車1000台以上の2次救急等:6.2%
▼3次医療救急・小児救急:6.2%
▼周産期母子医療センター:―%
▼その他:1.5%

【ほぼ不可能】
▼救急車1000台未満の2次救急等:10.7%
▼救急車1000台以上の2次救急等:12.9%
▼3次医療救急・小児救急:6.8%
▼周産期母子医療センター:11.1%
▼その他:19.4%

【わからない】
▼救急車1000台未満の2次救急等:12.6%
▼救急車1000台以上の2次救急等:17.3%
▼3次医療救急・小児救急:21.6%
▼周産期母子医療センター:22.2%
▼その他:11.9%
 
 「救急車1000台以上の2次救急等」「3次医療救急・小児救急」「周産期母子医療センター」の多くでは、「9時間以上の勤務間インターバル」が義務化されると考えられますが、現状では3割程度で「難しい」状況が伺えます。
医師働き方改革調査(日医)4 190410
 
 
勤務間インターバルの確保が難しいと答えた医療機関を対象に、今後の対応方針を聞いたところ、▼現状維持:28%▼医師の増員:46%▼救急患者の受入制限、救急対応時間の制限:13%▼救急医療機関の返上:1%▼その他(医師間の業務調整、タスク・シフティングなど):2%▼未回答:10%―となっています。
医師働き方改革調査(日医)5 190410
 
しかし、前述のように「医師増員」はそう容易ではなく(医師数がそもそも少ない地域もあり、また各医療機関が医師増員を考えるため競争が激化する)、やはり救急医療の制限を考える医療機関が今後増加してくる可能性があります。

救急病院の3−7割、大学病院の医師引きあげで救急医療に支障が出る可能性
 また、大学病院からは多くの医師が地域の医療機関へ派遣されています。この点、大学病院でも時間外労働上限規制や勤務間インターバルの確保などが求められることから、医師の増員が必要となり、「地域への医師派遣を制限する(医師を引きあげる)のではないか」とみられています。

この点について救急医療機関の3−7割程度で、「救急医療に支障が出るような引きあげが行われるおそれがある」と見通していることが分かりました。

【医師引きあげで自院の救急医療が成り立たなくなる恐れあり】
▼2次救急等:11.4%
▼3次救急等:2.4%
▼周産期母子医療センター:0%
▼その他:4.5%

【医師引きあげで自院の救急医療を相当程度縮小せざるを得ない恐れあり】
▼2次救急等:17.8%
▼3次救急等:12.1%
▼周産期母子医療センター:22.2%
▼その他:10.4%

【医師引きあげで自院の救急医療に支障を来す恐れあり】
▼2次救急等:27.4%
▼3次救急等:21.2%
▼周産期母子医療センター:22.2%
▼その他:23.9%

【影響なし、大学からの医師派遣なし】
▼2次救急等:29.6%
▼3次救急等:32.7%
▼周産期母子医療センター:33.3%
▼その他:47.8%

【自院が大学病院で派遣元である】
▼2次救急等:0.8%
▼3次救急等:15.1%
▼周産期母子医療センター:11.1%
▼その他:―%

【不明】
▼2次救急等:13.0%
▼3次救急等:14.5%
▼周産期母子医療センター:11.1%
▼その他:13.4%

 この点、個別医療機関と大学病院との交渉・依頼等に委ねていたのでは、地域の救急医療が確保できなくなる恐れもあり、自治体等も交えた協議等が必要となってきそうです。
医師働き方改革調査(日医)6 190410
 

7割の救急病院、タスク・シフティングについて「十分な検討が必要」との考え
 さらに、労働時間短縮に向けたタスク・シフティング(医師でなくとも可能な業務を看護師等の他職種へ移管する)の可能性については、下図のように、7割程度の医療機関が「どのような業務を、どのように委ねるのか、十分な検討が必要」と考えていることが分かりました。
医師働き方改革調査(日医)7 190410
 
 この点、「特定行為研修を修了した看護師」へのタスク・シフティングが注目を集めていますが、研修修了者は2018年3月時点で1006名にとどまっており、厚労省の目標値「2025年までに10万人」とは大きな隔たりがあります。

 研修機関は2019年2月には39都道府県・113機関に増えていますが、さらなる研修施設の増加等が待たれます

引用元:
3割程度の救急病院で医師の働き方改革が「困難」、医師増員での対応は実現可能か―日医(メディ・ウォッチ)