子宮頸(けい)がん検診は、乳がん検診・大腸がん検診とともに有効であることが国際的に認められているがん検診です。日本ではこの三つに加え、胃がん検診と肺がん検診も推奨されています。ただ、海外では胃がんが少ないこともありさほど議論にはなっていませんが、肺がん検診の有効性については異論があるのも事実です。

子宮頸がんが増えているのは日本だけ?
内科医・酒井健司の医心電信

 しかし、たまに耳にする「がん検診は無意味だ」なんて主張はフェイクニュースのたぐいです。医師でも勉強不足であったり、あるいはわかっていながら注目を集めたいがゆえに、がん検診を否定したりする人もいるので注意が必要です。あくまでも、客観的な事実に基づいて意思決定をすべきです。

 子宮頸がん検診の有効性を示す研究はたくさんあります。たとえば、多重時系列研究といって教科書にも載っている古典的な研究では、異なる規模で子宮頸がん検診が行われた北欧各国での子宮頸がん死亡率の推移が比較されています(※1)。もっとも広い年齢層を対象に全国的な検診プログラムを行ったアイスランドでは、子宮頸がん死亡率は80%減少しました。

 がん死亡率に影響する要因は、治療法の進歩や、肥満・喫煙・性行動といったがんリスクに関係する生活習慣の変化など、検診以外にもたくさんあります。アイスランド一国だけだと、検診を開始した時期に子宮頸がん死亡率の減少をもたらす別の要因が偶然に重なっただけかもしれません。しかし、フィンランドとスウェーデンも同様にそれぞれ50%、34%の減少を認めました。

 さらに、検診の対象者に制限が設けられて人口の40%しか検診を受けなかったデンマークでは25%の減少にとどまり、5%しか検診の対象とならなかったノルウェーでは10%の減少に過ぎませんでした。検診をより広く行った国で子宮頸がん死亡率の減少が大きく、そうでない国では減少が小さいという事実は、組織化された子宮頸がん検診プログラムが子宮頸がん死亡を減らしたという結論を支持しています。

 こうした時系列研究だけでなく、同時代において検診を受けた集団と受けなかった集団の子宮頸がん死亡率を比較した研究(コホート研究)でも、子宮頸がん検診の有効性は示されています(※2)。ただし、検診を受けない対照群を設定するランダム化比較試験は、対照群に振り分けられた人たちが不利益を被るという倫理的な理由でほとんど行われていません。

 子宮頸がん検診には利益がある一方で、注意点もいくつかあります。一次検査で陽性だったが精密検査では正常である偽陽性は、心理的負担や検査に伴う苦痛をもたらします。また、過剰診断といって、治療をしなくても将来症状を引き起こしたり死亡の原因とならない病気を一定の割合で見つけてしまうことも、がん検診の害の一つです。利益と害を比較して利益が大きいときにがん検診は推奨されます。

 それに子宮頸がん検診は、子宮の深部に入り込む浸潤子宮頸がんやがん死を100%予防するわけではありません。検診を定期的に受けていても、子宮頸がんで亡くなる人もいます。子宮頸がん検診を広く行っている国で、子宮頸がん死亡率が下げ止まっているのはそのためです。

 HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンは、子宮頸がんの原因であるHPVの感染を防ぐことで、子宮頸がんの発症を抑えることが期待されています。前がん病変を減らすことはすでに示されており、検診に伴う害を軽減できますし、加えて、子宮頸がん以外のHPV関連疾患も予防できると考えられています。ただし、HPVにはさまざまなタイプがありワクチンで全部は防げません。なのでHPVワクチンを接種していても子宮頸がん検診は必要です。現在のところ、ワクチンと検診の組み合わせが世界標準の子宮頸がん予防です。


※1(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2884378別ウインドウで開きます)

※2(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23706117別ウインドウで開きます)


《酒井健司さんの連載が本になりました》


引用元:
子宮頸がん検診の有効性 完全ではなくても死亡率下げる(朝日新聞)