ハッピーオーラ満載の初妊娠

 「おなかのあかちゃーん、ただいまっ♪」

 私のお腹にほほを寄せ、なでなでしながら語りかける次男。これが最近の次男の帰宅してからの儀式です。

 「あかちゃんがうまれたら〜、たいちゃんがミルクあげるんだ〜」
「たいちゃんがトイレにつれていってあげるからね!」

 など、早くもお兄さん発言! 私からしてみれば、いやいや、まだ君のトイレとか食事の補助が大変なんですけどね〜(笑)。家の中で次男はいまだ“大きな赤ちゃん”です。

 長男はというと、二回目ということもありお腹の子よりも前回・前々回より格段にひどい悪阻による私の体調を心配してくれています。

 私が夜ゲロゲロやっていると、後ろから無言で抱き着いてきて、私の「大丈夫だから、ちょっと食べすぎちゃっただけだからね。さ、もう寝よう!」という言葉でやっとベッドへ向かい、その言葉を受けて食事中は「お母さん! だめ! また吐いちゃうでしょ! 食べすぎだよ!」と、やや憤慨しながら注意を促してくれます。

 40歳を目前にして三度目の妊娠。

 すでに二回経験しているとはいえ、つくづく“妊娠って妊娠のたびに違うな”と思います。体調も、経過も、環境も、メンタルも……何度経験しても“初めて”の波が次々と押し寄せてくる、そんな感じで、改めて無事に生まれてくるまでは奇跡の積み重ねだな、と。
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会社員としての妊娠

 最初の妊娠は32歳。今より7歳も若く、会社員でした。

 結婚もし、仕事も色々と経験させてもらい、入社したての頃のように未来にワクワクしたり必死でもがいたりする毎日からはすでに解放されていました。仕事尽くしで思い出が去年なのか一昨年なのか分からないような毎日を、ガラッと変えてみたくなる時期でした。妊娠が分かった時も、当時担当していたレギュラー番組を産休・育休によって手放すことになんの不安もありませんでした。

 出産日を逆算して〜なんてことを考えることもなく妊活を始めたので、なんで早生まれは避けた方がいいんだろ? ? と周囲の言葉を不思議に思いながら聞いていたくらい。「女はいいよな、仕事を続けるか辞めるか選択肢があるから。男は否が応でも何十年も働き続けなくちゃいけないんだぜ」と、学生時代の男友達の言葉を思い出し、へへへっ、このリセットは女の特権だわ、なんて。体調もすこぶる良くて赤ちゃんの経過も順調、まさにハッピーオーラ満載の健康妊婦。

 そう、初めての妊娠は、妊娠したこと自体に浮かれすぎていて、その先のこと、“出産後”のことなんて全く考えていませんでした。


女性の働き方は一様ではない

 そんなある日、歳の近い後輩に言われたんです。「後輩たちは見ていますよ。バラエティーしかやってこなかった仁美さんが、復帰後どんな仕事をするのか。それによって自分たちの身の振り方を考えると思います」と。

 鈍器で頭をたたかれたような気分でした。

 後輩たちが実際に私を見ていたかどうかは別として、突如現実に引き戻され、復帰後、果たして私にはどんな仕事ができるんだろう? まさにゼロからのスタートになる30すぎたフットワークの重い子持ちのアナウンサーを、誰が使いたいと思ってくれるんだろう? そもそも私が今まで積み上げてきたものって何かあるのかしら? と急に怖くなり、それに伴う後輩たちの影響を勝手に背負いこむという二重苦に。

 頑張らねば、と思い、産休に入るまで週一回夕方から深夜にかけての報道の仕事を引き受けたりもしました。ただそれはそれで、私が産休に入ることで次に妊娠したアナウンサーにその仕事がまわることにつながりました。彼女は病院で診断書をもらう程の重度の悪阻ではないけれど、深夜までの仕事は避けたいと思っていたそうです。それなのに、私ができたという前例があるので断るに断れなかった、と。

 同じような話は育休復帰後もあり、夫や近隣に住む実母、時にはシッターさんの助けをフルに活用して時短もとらずにバリバリ働いていた女性が、一緒に働いていた女性に「そんな働き方をされると、このあと妊娠して出産しづらくなる。私はそんな風に子どもを産んだあと働ける環境にないと思うから」と言われたそうです。

 勿論、どちらの状況も仕事を断っても問題はありませんし、咎められるようなことではありません。でも、そのどちらの気持ちも理解できます。
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「ないない探し」は自分を追い詰めるだけ

 立場は違えど思いは一つ。
「妊娠や子育てを理由に仕事ができない、と周囲に思われたくない」。

 特に一人目の育休明けはそう思っていたかもしれません。そうじゃなくても、出産の前と後、自分ではあの頃の延長線上にいるつもりなのに、周囲からの見られ方や会社での扱われ方、自分をとりまく状況が大きく変化していることに戸惑う毎日。リセットしたつもりができていない、まだまだ親になりきれていない自分との葛藤。“最初”の出産後は今思い返しても身も心も不安定な日々。

 さらに仕事では同じ“働く母”というカテゴリーに属しているのに、前述の女性同様、自分との環境の違いにモヤモヤすることも多々ありました。

 自分の親が同居または近所に住んでいる、パートナーが時間の都合がつきやすい仕事をしている、融通の利く信頼できるシッターさんをみつけられた、子どもが病気にほとんどかからずさらに自立している、出産前同様にやりがいのある仕事に希望通り就けた、子持ちに働きやすい時間帯の仕事を担当できた、なにより夫の協力と理解がある!! などなど。

 他人にあって自分にない物を探すのはいとも簡単です。だって人生ってそもそも不公平ですから(笑)。生まれたその日から、スタートラインも人生のステージも人それぞれ違います。努力ではどうにもならないこともある。

 “ないない探し”は自分を苦しめるだけでした。

 他人のものを羨んで、自分の選択を後悔し、変わらない環境を嘆いても、事態が好転することはありません。それより、自分にあるもの、与えられたものをいかに大きく育てていくか。「やっぱりベテランは違うね!」この言葉をいかに沢山言わせるか。

 勿論アナウンサーという特殊な職業からか、当時はまだ“そんなことよりとにかく若くて可愛い子を! ”という風潮は随所に残っていました。現場でロケ開始前に制作会社のスタッフに露骨に言われたこともありましたね。「仕方なくお前を使うことになったけどさ、本当は若手のアナウンサーが良かったんだよね〜」と。

 そんな時はいつも以上に成果を出せるよう頑張り、もう一度その仕事に呼ばれればこちらの勝利です。そして誰にも見つからないように夜寝る前に心の中で祈るのです。「あいつ、仕事全部なくなれ〜〜〜」と(笑)。

そして、あの頃とは違う……はず

 ただ、これは5年以上前の話です。

 働く女性をとりまく環境はどんどん変わってきています。また私自身も、二人目の育休復帰後はまた違った思いを抱きました。まもなく訪れる三人目出産後も、きっとまた今とは違う感情を抱くでしょう。

 一見同じような状況でも、妊娠中の体調も、産後の環境も、子育てと仕事のバランスの考え方も人によってさまざまです。そして時とともにその全てが変化していきます。特に初めての出産・子育ては戸惑うことばかりでしょう。でも、それらを理解してくれる環境が、あの頃より整ってきているはずです。

 たとえ未だに“子どもがいるから”“時短をとっているから”というだけであなたの評価を下げるようなどうしようもない会社だったとしても(笑)、独身時代に真摯に向き合い築いた仕事の信頼は産後も揺らがない、と私は感じます。

 見ていてくれている人が必ずいます。

 だから、これから妊娠・出産をする人は、どうぞ安心してその日を迎えて欲しいのです。


引用元:
中村仁美が三度の妊娠で実感した「働く女性」を取り巻く環境(Yahoo!ニュース)