「私たちが今本当に欲しいと思うヘルスケアが、スウェーデンにあるんです」そう語るのは、「#なんでないのプロジェクト」代表の福田和子さん。先日国際基督教大学を卒業したばかりの23歳の女性だ。

前回の連載第1回では、「きちんとした性教育を受けないで来た」衝撃から「日本の性についてきちんと考えよう」という、#なんでないのプロジェクトを始めたきっかけについて語ってもらった。

第2回では、女子大生のみならず、若い女性なら必ず思ったことがあるだろう「やっぱり行きにくい産婦人科問題」について、福田さんがスウェーデンで出会った若者にやさしいクリニックの話と合わせて、話を進めてみよう。


スウェーデンでは当たり前、全土に250カ所以上!?

「ユースクリニックでは、小さすぎる・重要でない質問なんてありません。
全ての若者が当然の権利として無料で訪れることができる場所です。
対応スタッフの性別も選択できます」

これは、スウェーデンの『ユースクリニック』の公式サイトに掲載されている文章である。なんとも心強く励まされる一文ではないだろうか。

このユースクリニックは、スウェーデンにある医療機関で、 助産師、看護師、臨床心理士、産婦人科医などが待機し、対象年齢約13歳から25歳の若者が無料で訪れることのできる、「若者のためだけにあるクリニック」のことだ。スウェーデン全土に約250カ所を超える数が存在し、避妊具の提供や性感染症、妊娠に関するケアはもちろん、それ以外にも家庭や学校での悩み相談、アルコールとの付き合い方や摂食障害など、若者が抱えやすいこころ、からだの問題に幅広く対応している。

また、性的マイノリティに対する対応トレーニングを受けている職員も多く、ジェンダーに関する相談も可能だ。来訪は、必ずプライバシーとして尊重され、親も含め決して誰にも知られることはない。また、避妊具等も、緊急避妊薬含め18歳未満には基本無料、それ以上の年齢では地域毎に多少の差異はあるものの、無料、安価にもらうことができる。

私はスウェーデンに留学していたとき、この施設の存在を知り、「日本にもほしい!」と思わずにはいられなかった。
日本の女子が直面する「どこなら安心して行ける?」

「ピルをはじめて使ってみようと思うんだけど、どこの産婦人科行けばいい?」

セクシュアルヘルスに関して発信しはじめて約1年、友人たちからもっとも多く受けた相談がこれだ。私は現在23歳、周囲の友人達は、産婦人科に生まれてこの方行ったことがなかったり、勇気を出して産婦人科に行ったものの、医師からネガティブな言葉を言われたりしている人も少なくない。そういった経験から結果、どこに行けば嫌な思いをせずに済むのか分からず、私に連絡をくれるのだ。

この記事を読むみなさんは、病院にかかる際、どんなためらいや不安を抱くだろうか。もちろん、なるべく腕のいい先生にかかりたい、痛い思いはしたくない、そう思うのはどこの病院に行くにせよ自然なことだ。しかし、産婦人科に関しては、歯医者や耳鼻科に行くのとは少し違う、「産婦人科ならではためらいや不安のハードル」があると、私は感じている。

若者が産婦人科に行くことの心理的ハードル

若者が産婦人科に行く際、考えてしまうことは様々だ。

・どんな診療をされるのか、台に乗って脚を開くのは恥ずかしい
(注:実際には、必ずしも診察台に乗るわけではない)
・診療で処女膜が破けることはないのか
(注:これはまずない。そもそも処女膜は1枚の膜が張っているわけではなく、穴は元から開いている)
・男性医師は避けたいが医師の性別は選べるのか、わからない
(注:担当医の性別、選択できるかは病院による)
などなど…。

そして、最も大きなハードルを一言で表せば、「若くして産婦人科にいるなんて」「相当遊んでるんだわ」「最近の若い子は」といった、“いわれのないジャッジメント”にあると感じている。

産婦人科は本来、月経が始まれば、自己管理のために訪れて良いはずの場所で、実際私の信頼する多くの産婦人科の先生たちはそれを勧めている。

しかし、若くして性交経験を持つ女性に対するタブー視や批判的視線がまだまだ強いこの日本社会において、「性交経験があってはじめて行く場所」「子どもができてはじめて行く場所」と思い込まれがちな産婦人科に若くしていくのは、心理的に容易ではない。結果として、医師、他の患者を含めた周囲の「あら、あの子若いのに」という視線はもちろん、自分で「産婦人科にいるなんて恥ずかしい」と、他者の視線を内面化して苦しむ子も少なくない。

ネットを少し調べれば、若者の「産婦人科に行ったことを親に知られるのが怖くて行けない」「待合室での他の女性の視線が辛かった」「保険証は親が管理しているが、産婦人科に行くとは言えず、病院に行けない」など、若者の悲痛な声が溢れている。
“相談の幅が広いこと”が持つ意味

冒頭に紹介したスウェーデンのユースクリニックはその点、相談の触れ幅が「ちょっとした相談から妊娠」まで、非常に幅広いことが最大の利点だと思う。友人関係で悩みを抱えているのか、幸せな恋愛をしていてただ性感染症検査と避妊をしたいだけなのか、DVやレイプの被害者なのか、ジェンダーアイデンティティに悩んでるのか、想定外の妊娠をしたのか、待合室にいるだけでは誰にも分からない。

実際、私がユースクリニックを訪れた際、待合室には、ひとりの人もいれば、友人と、カップルで、と性別問わず様々な形で訪れていた。そういった中では自他ともにジャッジのしようがなく、偏見やスティグマを内面化せずに済んだのを覚えている。「若者専用」ではあるが、「女性専用」ではないので、男性がいてももちろん自然なことだ。

この間口の広さは、“いわれのないジャッジメント”の防止になるだけでなく、「妊娠不安や性感染症の裏にある暴力等の早期発見」に繋がると私は思っている。もちろん、どんなに愛し合う対等なカップルでも、妊娠不安や性感染症に晒される可能性は充分にある。全ての人が背景に何かの問題を抱えているわけではないが、若年者になるほど、妊娠不安や性感染症の背景にデートDV、性暴力などが裏に隠れている可能性が高いとされている。

もし暴力の起こる前からユースクリニックを知っていれば、有事の際、ユースクリニックが頼れる大人の存在として機能し、早期の相談に繋がる可能性もあるのだ。

実際ユースクリニックの運営に長年携わってきた方からは、「はじめのうちはただ避妊具を貰いにきていただけでも、回数を重ねていくうちに安心して、自分自身が受けている暴力について告白してくれるケースも多い。そういった告白があった場合、私たちは、医師や臨床心理士とともに共同して相談者をサポートしていく」と聞いた。

性教育もきちんと行われず、そもそもなにが性暴力に当たるのかという認識自体が曖昧で、相談に踏み切る頃には深刻化してしまうケースも少なくない日本にこそ、このユースクリニックのような場所が求められているのではないかと思う。

学校と連携し、誰でも気軽に尋ねられる環境

ユースクリニックの認知度は非常に高く、2016年に私的に行った調査では、104人中、30代の男性ひとりを除き全員がユースクリニックを知っていると答えた。その認知度の大部分は学校教育に支えられており、同調査で99人が学校でユースクリニックの存在を知ったと答えた。

なぜそんなに多くの学生に認知されているのかというと、学校とユースクリニックがきちんと連携しているからだ。多くの学校で、ユースクリニックを訪問するか、ユースクリニックの職員の講演を設けている。それによって、自分の地域ではユースクリニックがどこにあり、どのような雰囲気で、どんな人が働き、どんな時に頼ることができるのか、学校教育の中で知ることができるのだ。

学校で教わるからこそ、安心して頼ることができるし、日本の女の子たちがよく産婦人科に抱きがちな「一体どんな場所で何をされるのか」といった漠然とした不安には襲われなくて済む。事実、先に上げた2016年の調査で15〜29歳に該当した87人中、9割が「訪問経験あり」と答え、5〜9回の訪問、10回以上の訪問と答えた人もそれぞれ20人と、その身近さには圧倒的なものがあった。

日本でも生まれてほしい相談のカタチ

なんだか日本の産婦人科について、散々ネガティブなことを書いてきてしまったが、もちろん、そういう病院、医師ばかりではない。

私は#なんでないのプロジェクトの活動をする中で、年齢性別問わず、学びを止めず、ひとりひとりに丁寧に向き合おうとする医師たちにもたくさん出会ってきた。若者専用の時間を設けている病院、低用量ピルやアフターピルに学割を設ける病院、厳しい部活動や勉強の中でもコンディションを整えられるように対応する病院など、さまざまな形で若者に寄り添う医師たちもたくさんいる。また、性感染症に限って言えば、施設数や開設時間の少なさといった問題はあるものの、各地域の保健所で、無料、匿名で検査を受けることができる(「HIV検査相談マップ」を参考に)。

とはいえやはり、病院や医師毎に温度差があるのも現実だし、まだまだ若くして産婦人科や性感染症検査に行くことへの抵抗や偏見は強い。しかし日本でも、厳しい部活動や受験戦争、キャリアを積む夢、と、若い女性をめぐる環境が刻々と変化を遂げている。だからこそ、スウェーデンのユースクリニックのような、誰からもジャッジされることなく、安心して訪れ、自己管理のポジティブな経験を若い頃から積めるような場所があったらと思わずにはいられないのだ。



引用元:
女子大生も真剣に悩む「安心して行ける産婦人科はどこ?」問題(FRaU)