年間約3千人の感染児が誕生し、一部は聴覚などに重い障害が起きる恐れがあるが、見逃しの多さや対応の遅れが指摘されてきた「先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症」。新生児の確定診断のための尿検査が昨年から健康保険でできるようになり、治療や療育の可能性が広がると期待されている。一方、病気の認知度は低く、誤解に基づく患者差別もある。専門家や患者会は「予防にも診断後にも正しい知識が大切」と啓発の重要性を強調する。

生後3週間以内

 CMVは健康な子供や大人には無害なありふれたウイルスだ。感染者の唾液や尿を通じて排出され、多くの人は乳幼児期に感染し免疫を獲得する。

 しかし、妊娠中に初感染したなどのケースの一部で胎児にウイルスが移行する。毎年生まれる先天性CMV感染症児約3千人のうち、千人程度に難聴や発達の遅れなどの障害が出ると推定されている。症状が目立たない子もおり、確定診断されず適切な対処の機会を逃す例が多いといわれる。

 そうした中、国の研究班が新生児の尿での診断法を開発し、生後3週間以内の検査が昨年1月から保険適用になった。

責める気持ち

 茨城県の看護師、藤(ふじ)千恵さん(35)は「早く確定診断できるのは朗報」と言う。平成24年生まれの次女(6)は先天性CMV感染症で重度の聴覚障害があるが、診断に半年近くかかった。

 誕生直後の聴覚スクリーニングは「要再検」で難聴の疑いはあった。だが「羊水が耳に残っているのでは」との医師の言葉や、妊娠・出産とも順調で「まさか」という思いもあり、検査が遅れた。


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 人工内耳により徐々に「聞こえ」を取り戻している娘の姿は救いだが「もっと早く分かっていれば」と自分を責める気持ちは消えないという。

 CMVに有効な抗ウイルス薬はあるものの、先天性CMV感染症への使用は正式に承認されていない。生後30日以内の治療開始で聴覚障害などの進行を抑えられたとの研究報告を基に、海外では新生児の治療に使われている。しかし免疫低下などの深刻な副作用があり、使用には厳重な注意が求められる。

研究班の岡明(おかあきら)東京大教授(小児科)は「世界で行われている治療を日本でも可能にするのは重要で、早期診断はその大きな一歩。今後は安全で有効な治療薬の使用法を探る研究が必要だ」と話している。

                   


 ■低い認知度、誤解で差別も

 先天性CMV感染症の認知度は低いのが現実だ。

 国の研究班の山田秀人(ひでと)神戸大教授(産科婦人科)らが平成26年、全国の妊婦に胎児に影響がある感染症の知識を尋ねたところ、CMVを知っていたのは18%にとどまった。

 山田さんらは感染リスクを減らすための妊婦向け啓発資料を作り、医師や保健師らに活用を勧めている。上の子の育児など、乳幼児と接したらせっけんで手洗いし、子供と食べ物や食器などを共有しないよう強調する。

 一方、妊婦以外は特別な注意は不要なのに、誤解に基づき患者が差別される例がある。藤さんもまったく根拠のない差別に苦しんだ。

 次女の入園が決まっていた保育園が「感染症」との診断書を見て、入園取り消しを伝えてきた。苦労して探した公立保育園では食事も遊びも他の子供たちと別にされた。小児科医に「特別な対応は不要」と説明してもらい、1年余りの交渉の末、やっと対応が改まったという。

 CMVなどの先天感染児の母親らでつくる患者会「トーチの会」代表の渡辺智美さんは、「残念な対応はまだあるが、現実には乳幼児の多くがCMVに感染しているので保育園などで隔離する意味は全くない。そうした情報も会のホームページで発信しています」と話している。


引用元:
保険で検査、早期治療可能に 見逃し多い「先天性CMV感染症」(産経ニュース)