女性の初婚年齢の上昇などを背景に、不妊治療を受ける夫婦が増加傾向にある。保険適用外の高度生殖医療を受けるには、多額の医療費を要する上に、共働きの夫婦にとっては仕事の両立も悩みどころ。医療機関の治療以外に、多角的なサポートが群馬県内で広がりつつある。

 子どもを望んでいるにもかかわらず、1年が経過しても妊娠しない夫婦の場合、不妊症が疑われる。国立社会保障・人口問題研究所の調べによると、2015年に不妊の検査や治療を受けたことがある(現在受けている)夫婦の割合は18.2%に上った。

 県内の自治体で不妊治療への独自の助成制度を設ける動きがあるほか、治療を目的とした特別休暇を認める企業も出てきた。不妊治療における課題と、県内の支援の状況についてまとめた。



◎仕事との両立目指し 群馬県内企業も制度整備

 「どうして私だけ…」。医療機関で働く高崎市の女性(30)。27歳で結婚し、すぐに子どもを望んでいたものの、なかなか授からなかった。自分より遅く結婚した友人から妊娠の報告を受けたときは、複雑な感情が湧いた。

 治療のため市内の専門病院に通院。毎月、排卵時期に合わせて採卵し、体外受精と移植を繰り返した。精神的につらく治療を休んだこともあったが、約8カ月後の昨夏、体外受精で妊娠した。「治療しても必ず妊娠するとは限らないし、金銭面の負担もあった。でも結果的に治療して良かった」と振り返る。3月、待ち望んだ出産の日を迎える。

■年齢も影響
 自然に妊娠することがかなわず、不妊治療を受けるカップルは増えている。日本産科婦人科学会の調査によると、体外受精や顕微授精など生殖補助医療で生まれた子どもは2016年、全国で5万4110人。全出生児(97万6978人、厚生労働省の人口動態統計)の5.5%を占める。06年は全体の109万2674人のうち、1万9587人。10年間で生まれる子どもは約10万人減ったが、生殖補助医療による出生児は約3倍になった。

 妊娠しにくい理由はさまざまだが、同市内で産科婦人科舘出張佐藤病院や不妊治療専門の高崎ARTクリニックを運営する佐藤病院グループの佐藤雄一代表は原因の一つに、年齢が上がることに伴う「卵子の質の低下」を挙げる。キャリアアップを望み、社会人としての経験を積んでから結婚を考える女性が増加。妊娠する年齢も上がり、卵子に影響していると指摘する。「妊娠を希望するならば、年齢も計画に入れて考えてほしい」と助言する。

 同グループは、患者の年齢や要望を踏まえながら治療方針を考え、仕事と両立できるよう通院回数や診療時間にも配慮している。佐藤代表は「気兼ねなく治療できる世の中になってほしい」と願う。

■96%「困難」
 だが、働きながら治療する難しさに直面する人は多い。不妊治療の当事者が同じ悩みを抱える人を支援するNPO法人「Fine(ファイン)」(東京都)が、17年に実施した「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート」で、回答者5526人のうち「仕事との両立が困難」とした人は96%。治療を続けるために4割が働き方を変え、そのうち半数が退職を選んだ。

 治療を支えようと制度を整える企業も出てきた。群馬銀行(前橋市)は17年、「チャイルドプラン休暇」(有給)を設けた。男女とも年5日まで取得でき、半日休暇も可能。17年度は18人、18年度は2月22日までに14人が取得した。「女性活躍を進める中で企業として積極的な部分を示したい」と担当者。高島屋(大阪市)も失効した年次有給休暇を積み立て、使途限定で使用できる「リザ―ブ休暇制度」に不妊治療の項目を加えた。

■悩み話せる場
 治療を受けるカップルが増えたとはいえ、「友人や同僚に不妊治療をしていることを明かせない女性は少なくない」。そう話すのは、鍼灸しんきゅう院「ルクレア」(高崎市)の矢嶋エミ代表だ。15年9月に開設し、不妊鍼灸を専門とする。体を温め、血流を促す温熱パッド「子宮温pillow(ピロー)」も開発するなど、不妊や体の不調の改善につなげるサポートをしている。

 多くの女性と接する中で、悩みや苦しみの深さに触れ、心を支えることの必要性を実感。施術だけでなく、気持ちに寄り添い、耳を傾けることを心掛ける。「私が後押しすることで、治療に向かう勇気につながればいい」と話し、悩みをさらけ出せる場所を目指す。

 相談できる施設は他にもある。県健康づくり財団(前橋市)内に設けられた「不妊専門相談センター」は月2回、無料で相談を受け付ける。年間40〜50人が利用。「仕事と治療の両立」「精神的苦痛」「家族との関係」など治療以外のことが大半で、他に悩みを話せる相手がいないことを表しているとも言えそうだ。

 担当する婦人科医の飯島恊子きょうこさんは「断定はせず、選択肢を提示してあげるようにしている。ストレス解消の場になってほしい」と話す。


◎市町村が独自に補助

 体外受精(顕微授精)は保険適用外のため、費用は1回数十万円と高額で、治療への経済的な障壁になっている。群馬県や自治体が一部を助成しているものの、所得や年齢、回数の制限があり、十分とは言えない。少子化が進む中、少しでも妊娠・出産の可能性を広げようと、独自の補助制度を設ける自治体もある。

 高崎市は本年度、助成の回数制限をなくした。夫婦の前年所得合計が730万円未満であることが条件だが、年齢制限もない。「納得できるまで助成を」という富岡賢治市長の提案からだった。

 片品村は年200万円、中之条町は同180万円を上限に助成している。両町村とも1年以上住んでいれば所得、年齢、回数に制限なく申請できる。全治療費、もしくは県の助成を受けた残りの治療費に対して、片品村は7割、中之条町は上限までの全額を負担する。同町は子育てに優しいまちづくりを目指しており、移住対策の一つに位置付ける。2017年度は25件の申請があった。


《記者の視点》夫婦の事情 理解を

 不妊治療には肉体的、経済的、時間的さらには精神的な負担が強いられる。「出口の見えない真っ暗なトンネルに入り込んでしまったよう」。治療を続ける人から聞く言葉だ。だからこそ、納得するまで治療を受けたいと考えるカップルにとって、支援の広がりは明るい兆しとなるだろう。

 ただ、体外受精による出生児が増えたとはいえ、2016年の総治療数に対する出産率はわずか17%。治療する全てのカップルが妊娠、出産できるとは限らない厳しい現実がある。医師でもその判断は難しいという。治療の末、43歳で出産した知人は「子どもはまだ?」という周囲の言葉に「圧力」と「焦り」を感じていたと打ち明けた。

 少子高齢化に絡み、出産にまつわる閣僚らの発言がたびたび問題となる。身近な人の何げない言葉にも心を痛める人がいる。夫婦にはさまざまな形や事情があることを、理解できる世の中であってほしい。(前橋支局 臂真里緒)

引用元:
不妊治療 広がる支援 命育む負担を軽く(上毛新聞ニュース)