産科医不足が全国的な問題となる中、通常分娩(ぶんべん)を助産師のみが担う実践で、長野県諏訪市の諏訪赤十字病院が全国屈指の成果を上げている。産科医がハイリスクの出産に専念でき、助産師も力を発揮できる一石二鳥の試み。助産師のリーダーの1人は「助産師だけで出産を担う率でいえば、おそらく日本一」と胸を張る。

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 同院の産科は、医師と助産師が一緒に担当する出産と、助産師だけで担う出産の2本立て。前者は合併症などで医療行為が必要な妊婦、後者はそれ以外の妊婦を対象としている。

 これ自体は他の病院でもあるが、諏訪赤十字病院の特徴は、最後まで助産師のみで担当するケースが多いこと。昨年1年間のデータを見ると、出産した女性391人中、助産師のみでの出産が可能と判断されたのは274人(70%)。うち158人(40%)が、実際に助産師だけで出産した。同院が調べた限りでは、これほど助産師だけで出産を担っている病院は、国内ではほかに見られない。

 ログイン前の続き2本立て方式がスタートしたのは2012年7月だった。きっかけは、助産師側からの要望。正常分娩(ぶんべん)なら自分たちでしっかりケアできる、という思いが「やらせてほしい」という強い要望になった。

互いの専門性を発揮
 リーダー格の助産師、本間永子さんはこう話す。

 「病院だと、どうしても医師主導になりますが、正常な分娩であれば助産師が自立してケアできます。できるのにやれないというもどかしさがありました」

 当時、助産師だけの出産を試みていたのは全国でも数施設。最初は手探りだった。異常があったとき、どの段階で医師を呼べばいいか。どこまで助産師だけでできるか。今はノウハウが蓄積され、例えば産道裂傷の縫合といった、従来は医師が担当してきた仕事についても助産師が担うようになった。こうした事例の積み重ねが、結果的に助産師だけで担う出産の増加につながっている。

 地域の基幹病院だけに、同院にはハイリスクの妊婦も来る。通常分娩を助産師が担うことで、医師はハイリスクに専念できる。

 「医師と助産師、互いの専門性が発揮できるようになりました」と本間さん。助産師が前に出ることで、妊婦の希望に添いやすいといった利点も出ている。医師と助産師では「(妊婦との)かかわりのボリュームが違う」と明かし、「分娩台の上であれば座って産んでもOK。家族と一緒にお産を迎えることもできる。しっかりと対話することで、そうした対応を取りやすくなりました」。

医師の理解が不可欠
 実は2年前、同院では通常分娩の扱いをやめる方向で検討が進んでいた。全国的な傾向と同様、同院でも産科医が不足していたからだ。そこに待ったをかけたのも助産師たち。「私たちがもっと頑張ります」と声を上げ、道を残した。今では「この助産師さんと産めてよかった」「家族と一緒にお産ができてよかった」などの声が寄せられている。

 看護師長の高栖朝子さんは「知識と技術を駆使して対応するのが助産師です」と前置きし、「いいシステムだと思います。お母さんには自然に産んでもらえばいいし、医師をコールすれば、すぐに駆けつけてきます。バックアップ体制がきちんと備わっていることが大前提です」。

 高栖さん、本間さんが口をそろえるのは「医師の理解が不可欠」ということ。高栖さんは「医師が『責任は負うよ』と言って協力してくれるのが大きい。助産師さんの強い思いも欠かせません。目標はやり続けることです」と話している。



引用元:
助産師のみで通常分娩、全国屈指 長野・諏訪日赤が実践(朝日新聞)