日本産科婦人科学会、働き方改革テーマに公開フォーラム
日本産科婦人科学会は1月27日、2018年度「拡大医療改革委員会」兼「産婦人科医療改革 公開フォーラム」を都内で開催した。テーマは「産婦人科医の働き方改革を実現させるための方策」。
基調報告として登壇した、厚生労働省医政局医事課・医師養成等企画調整室室長の堀岡伸彦氏が、今まさに同省で議論の佳境を迎える医師の働き方改革について、「原則的には大多数の医師が一般の労働者と同じ考え方(休日労働込みで年間時間外960時間)の上限レベルとなる」と説明。「年1900〜2000時間」の時間外労働が認められるのは、救急搬送件数が一定数以上といった「医療の不確実性」に対応しているなどの一部の医療機関で、管理者がマネジメント研修を受け、タスク・シフティングなどを行う要件を満たす場合であるとしたものの、出席者からは「5年後に、年1900〜2000時間超の医師をゼロにすることは可能なのか」「宿日直の定義が曖昧」「そもそもどこまでが労働時間か」「タスクシフトは可能なのか」といった現場の不安、疑問が続出した。
堀岡氏は「5年後にゼロにできるのか」との質問に、「できる、できない、といった話ではなく、やらなければいけない」と回答。
厚労省の堀岡伸彦氏。
「宿日直の定義が曖昧」と指摘したのは、日本産婦人科医会常務理事の中井章人氏(『「宿直」の定義が先決、時間外労働の議論に“注文” 』を参照)。「宿直」であれば、時間外労働にカウントされないが、「宿直」に該当しなければ時間外労働となる。堀岡氏は、厚労省の検討会で「病棟当直において、問診等の診察を行う」などの業務にとどまる場合は宿直に当たるなど、宿直の定義(詳細は、後述)を議論したと説明したが、中井氏は納得せず「ほとんどの産科では、(夜間の)分娩が常態化している。宿直として認められないのではないか」と問いかけた。
日本産科婦人科学会医療改革委員会委員長の海野信也氏は、「そもそも労働時間の定義が分からない」と質問。「年1900〜2000時間」を決める根拠となった厚労省研究班の調査は、「診療時間、診療外時間、待機時間の合計でありオンコールの待機時間は除外。医師が回答した勤務時間数であり、回答時間数全てが労働時間であるとは限らない」とされている。「労働時間」をベースにした検討が必要だとしたほか、実際の運用上、「労働基準監督署は、労働時間と勤務時間を分けて考えてくれるのか」との懸念も呈した。堀岡氏は、「研究班の調査は、医療機関ではなく、各医師に回答してもらった調査であること、また「就業構造基本調査」(2012年)の結果とも近いと説明。
フロアから発言した全国医師ユニオン代表の植山直人氏は、「医師は非常に厳しい中で、努力している。憲法が守られていないのが一番の問題ではないか」と指摘し、長時間労働の現状を問題視。「医師の時間外労働の上限は、法律の趣旨に近いものであるべきで、勝手に省令で決めていいものではない」と述べたほか、学会に対しても「若手を必ず守るというメッセージを出せるのか」とも問いかけた。
その他、「メディカル・クラークは非常に助かっているが、公的な病院だと定員の枠があり、常勤として雇用しにくい。タスク・シフティングされる人の立場も考えないといけない」、「大学ではアルバイトがなければ生活できない医師がほとんど。アルバイトも労働時間とカウントするのであれば、アルバイトができず、給与は下がる。大学から医師が去ってしまったり、大学の医師派遣先の医療機関が成り立たなくなる恐れがある」などの意見も出た。アルバイトの問題について、堀岡氏は「現状でも、アルバイトは労働時間に含まれる。今回の検討で始まったことではない」と答え、上限を超えるほどの時間外労働であれば、その分の時間外手当を受け取るはずであると指摘した。
「ポスト平成時代、サステナブルなのか」
冒頭であいさつした日本産科婦人科学会副理事長の木村正氏は、産婦人科の特徴として、「予定が立たない、夜間のニーズがある、女性の比率が多い」などを挙げ、非常に厳しい勤務を昭和の時代に卒業した医師はこなしてきたものの、「ポスト平成の時代になって、この体制がサステナブルなのか」と問いかけた。
「基調報告」として、最初に登壇したのが堀岡氏。厚労省の「医師の働き方改革に関する検討会」の議論の現状を説明。時間外労働の上限を「年1900〜2000時間」とした根拠は、「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査研究」(2016年度厚生労働科学特別研究班)。同研究では、医師の10.5%が時間外労働が「年1920時間」(月160時間)を超す水準だった。全国平均では26%の医療機関に該当医師がいることになるが、施設による差があり、大学病院では88%、救命救急機能を有する病院では82%と高い。
現状で「年1920時間」を超す医師は、この4月の改正労基法施行から5年後には「年1900〜2000時間」以内に短縮、さらに「年960時間」を目指して短縮することが必要だと説明した。
(2019年1月11日厚労省「医師の働き方改革に関する検討会」資料)
堀岡氏は、原則は「年960時間」であるとし、どんな医療機関でも「年1900〜2000時間」が認められるわけではないと強調。「管理者のマネジメント研修やタスク・シフティングを義務にしようと思っている。医師に点滴をやらせているけれど、時間外労働が長いケースなどは許されない。限界までマネジメントしても、どうしてもできないところが認められる。また5疾病・5事業を担っていたり、ある一定以上の救急搬送件数があるなど、医療の不確実性に対応している医療機関に限定している。今は定性的に説明しているだけなので今後、細かい要件について議論することを考えている」(堀岡氏)。
「特定行為研修制度のパッケージ化」、1万人の養成目指す
労働時間の短縮方法は種々あるが、堀岡氏は、特に「特定行為研修制度のパッケージ化」と医学部の地域枠の卒業生の地域定着を挙げた。「特定行為研修制度のパッケージ化」とは、看護師の特定行為研修は現状では個別行為について実施しているが、「外来術後管理」「術中麻酔管理」「在宅・慢性期」の3つの領域について、各領域に関連した特定行為をまとめて研修する方法。あくまで医師の包括的指示の下で行うが、「包括的指示でできる行為の範囲が拡大する」(堀岡氏)。2020年度から養成を開始、2024年度までに1万人を目指し、「医師の働き方改革を進めるために、全ての大学病院が研修機関になってもらいたい。限界まで政策的な誘導をかける」(堀岡氏)。
「よく受ける質問」として、(1)宿日直の扱い、(2)想定される働き方の変化――などについて説明。(1)の宿日直については、「病棟当直において、少数の要注意患者の状態の変動への対応について、問診等による診察、看護師等他職種に対する指示、確認を行うこと」、「外来患者の来院が通常想定されない休日・夜間において、少数の軽症の外来患者や、かかりつけ患者の状態の変動について、問診等による診察、看護師等他職種に対する指示、確認を行うこと」であるとし、「2次、3次救急の輪番は宿日直ではない」(堀岡氏)。
(2)については、▽「連続勤務時間制限28時間、インターバル9時間」であることから、「当直の次の日、午前中で帰れる」、▽点滴や採血、尿道バルーン、診断書の作成等は医師が原則直接手を動かす仕事ではない、はっきりと断ってください、厚労省も明示している、(3)「眠れない」当直をした場合には、当直手当ではなく。時間外手当が支払われる――と説明。医師の働き方改革を進めるためには、「労務管理とタスクシフトが両輪」であるとした。
産婦人科医の医師偏在指標、「少数区域」のみ
「基調報告」として続いて3人が登壇。海野氏は「産科医の地域偏在指標について」について講演。この4月から、都道府県で医師確保計画の策定が始まる。「医師多数区域」と「医師少数区域」を設定、「医師少数区域」での医師増を目指すのが狙い(『医師確保「少数区域は多数区域から」、可能か?』を参照)。その際、産婦人科と小児科に限っては、診療科別の「医師偏在指標」を作成、それを基に計画を講じる。
海野氏は、厚労省の「産科における医師偏在指標作成検討委員会」のメンバー。産婦人科医の立場としては次のように考えているという。「もともと産婦人科医は総数が不足しているという認識。医師多数区域を設定することで、(ここから他の区域に医師が移動し)この区域の周産期医療が崩壊する危険性がある。医療需要は分娩数を用い、偏在指標としては、相対的医師少数三次医療圏、相対的医師少数区域を設定するが、医師多数区域は設定しない方針」。「他区域からの医師派遣のみを対策とするのは適当ではない。必要に応じて、医療圏の見直しや医療圏を超えた連携によって医師偏在解消を図ることを検討することが必要ではないか」(海野氏)。既に2回検討委員会を開催、1月31日にも第3回検討委員会を開催予定だ。
中井氏は、「日本産婦人科医会施設情報調査2018」を説明。宿直を除く週平均労働時間は46.2時間のため、「宿直を除く勤務時間はほぼクリアしている。結局、問題なのは宿直。労基法上は週1回、月4.3回だが、2018年の調査では5.6回であり、これを上回っている」(『「宿直」の定義が先決、時間外労働の議論に“注文” 』を参照)。「そもそも、われわれが宿直と呼んでいるものが、本当に宿直なのか、定義を明確にした丁寧な議論が必要」。
当直明けは、半数以上の施設で「通常日勤」、
日本産科婦人科学会・医療改革委員会の重見大介氏は、「第11回産婦人科動向意識調査・タスクシフト調査」の中間報告を担当。「動向意識調査」は、産婦人科専門研修施設を対象に、2008年から毎年実施している。2018年の調査は、2018年12月11日から2019年1月4日にかけて実施、978施設の回答を集計した。「1年前と比較して、全体としての産婦人科の状況」、「1年前と比較して、自施設産婦人科の状況」などは、前回(2017年調査)とほぼ同様の結果だった。
今回の調査では新たに、「勤務環境の現状調査」と「タスクシフト現状調査」を実施。「勤務環境の現状調査」では、(1)大都市圏で約4割、地方で7割が勤怠管理システム未導入、(2)2割弱で「オンコール手当なし」、(3)2割の施設で「当直回数上限なし」、(4)7割の施設で「週1回以上の当直あり」、(5)当直明けは、半数以上の施設で「通常日勤」、「当直明けで終業」は地方でわずか2%――などという厳しい勤務の現状、労務管理の不徹底さが浮き彫りになった。
「タスクシフト現状調査」では約60項目を調査。「ほとんどの施設で実施」が「説明代行関連〔服薬指導(入院)〕」、「実施は少ないがシフトに前向きなタスク」としては「説明ビデオ(動画等)」などが挙がった一方、「分娩にかかわる手技関連(会陰切開)」については「ほとんどの施設がシフトするつもりはない」と回答。
公開フォーラムでは、「基調報告」に続いて、計6人の産婦人科医が働き方改革への取り組みを紹介。産婦人科医は、女性医師の割合が増加傾向にあることから、女性医師の就労支援に関する報告が大半だった。
最後にあいさつした、日本産科婦人科学会理事長の藤井知行氏は、「医療の質を低下させないよう、働き方改革を進めるものの、医療の集約化や時短を進めると、サービスは低下しかねない」として、例として2018年末に政治主導で凍結が決定した「妊婦加算」を例に挙げ、医師の働き方改革は国民の理解を得ながら進める必要性を強調した。最近産婦人科に進む医師が増えているのは、医学部定員増の影響があるとし、「医師の総数が増えれば、この問題は解決する」とも指摘した。
引用元:
産婦人科医の不安、疑問続出「5年でゼロにできるのか」(m3.com)