医師の働き方改革を議論する厚生労働省の検討会は、2024年度から勤務医に適用される残業規制案を示した。地域医療の核となる医療機関の勤務医は1900〜2千時間の残業を35年度末まで特例で認めるとしている。

 月に換算すると約160時間となり、脳や心臓疾患の労災認定基準である「過労死ライン」(平均80時間)の2倍に相当する憂慮すべき内容だ。これでは後を絶たない過労死や過労自殺を防げない。国は、勤務医の労働時間を大幅に削減すると、地域医療が崩壊しかねないというが、過酷な労働環境を改めなければ、地方の医師不足や偏在は解消されず、現場の疲弊に歯止めがかからない。勤務医の命と地域医療を守るために、長時間労働の是正につながる抜本策を打ち出すべきだ。

 医師の残業規制は、昨年成立した働き方改革関連法の一環。一般の労働者は4月に規制の適用が始まるが、医師は診療を原則拒めず、働き方が特殊なため適用対象から外し、5年間の猶予を設けている。

 厚労省案では、勤務医一般の残業時間は年960時間を上限とし、一般の労働者と同水準とする。ただし救急や周産期、高度ながん治療などに従事する医師は、やむを得ずこの上限を超すことが想定されるとして特例を認めた。厚労省の調査では、勤務医の1割が年1920時間を超す残業をこなし、こうした医師が1人でもいる割合は、救急センター機能を持つ病院や大学病院で8割に上っている。

 規制の「甘さ」によって、医療現場の改善が遅れることを危惧する。16年度は過労死や過労自殺・未遂で4人の医師が労災認定を受けた。自殺や死を毎週または毎日考える医師が3.6%いるとの調査もある。年2千時間という残業はもう1人分働いている労働時間に匹敵し、いつ労働災害が起きてもおかしくない。健康を損なうだけでなく医療過誤を引き起こすリスクも深刻に捉えなければならない。

 厚労省は特例を認める勤務医に関し、健康確保措置を義務づける方針で、勤務と勤務の間を9時間以上空けることや当直前後の連続勤務を28時間までに制限する案を示している。だが、医療ニーズに応える使命感や忙しさに追われ、徹底されない懸念がある。国は医療機関任せにせず確実に義務が順守されるようチェック体制を整える必要がある。

 仕事が一向に減らなければ、この残業の上限でも達成は難しい。一部の医師に負担を集中させないシステムづくりが欠かせない。カルテ記載や文書作成の業務を任せるため、事務の補助者を置くことや、主治医以外の医師も対応できるチーム医療を広げることが重要だ。開業医との役割分担も後押ししたい。国は過重労働に支えられている地域医療の現状を省み、働き方改革の名に値する医師の負担軽減の実現へ手を尽くすべきだ。

引用元:
勤務医の残業規制 国は過重労働是正へ抜本策示せ(愛媛新聞)