妊婦には「使ってはならない」とされてきた3種類の免疫抑制剤が、医師の判断で使えるようになった。国が設置した「妊娠と薬情報センター」が国内外の使用実績などを調査し「胎児の異常を増やす証拠はない」と判断されたためだ。センターは今後も妊婦に使える薬を増やしたい考え。こうした取り組みは、治療で薬を続ける必要がある女性の希望になるとして歓迎されている。


 

 ▽「賭け」が喜びに

 3剤は「アザチオプリン」「シクロスポリン」「タクロリムス」。臓器移植を受けた人は拒絶反応を抑えるためにずっと飲み続ける必要があるほか、免疫が自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患の治療にも使われる。

山口律子さんと子どもたち
      山口律子さんと子どもたち

 いずれの薬も、専門学会などの診療指針は妊娠中の投与を認めており、腎臓移植後に妊娠・出産した人は国内に500人以上いるとされる。だが、使用上の注意などを記した薬の添付文書では、妊婦は使用を避けるべき「禁忌」とされてきた。

 「この子たちがいる喜びを日々かみしめています」。腎臓移植を受けた大阪府枚方市の山口律子さん(42)は、2012年生まれの長男を筆頭に2男1女を授かった。山口さんにとって、免疫抑制剤を飲みながらの妊娠は「賭け」だった。

 高校1年の時、腎臓が小さくなる病気が見つかり、年齢とともに発熱や疲労感にも悩まされるようになった。04年に結婚した後は、立って家事をするのも困難なほどに病状が進んだ。

 09年、母親から提供された片方の腎臓を移植し体調が安定。手術後1年半経過したところで妊娠の希望を医師に伝えると「子どもに異常が出る可能性はあるが、この薬なら、普通の妊婦さんが病気の子を出産する確率とそう変わらないと言われている」と、免疫抑制剤をアザチオプリンに変えることを提案された。

 
 

    ▽乏しい妊婦の治験

 幸い、アザチオプリンは山口さんに合い、子どもは3人とも元気に生まれ、すくすく育った。

 山口さんは「移植後の妊娠出産は体調面で乗り越えないといけない壁が多い。妊婦にも大丈夫な薬だと分かって飲むことができれば、安心感は全く違う。妊娠に挑戦しようと思う人が増えるのでは」と話し、今回の“解禁”を歓迎する。

 薬を開発する際には、健康人や患者を対象に効果と安全性を調べる臨床試験(治験)が行われるが、妊婦が対象の治験はほとんどない。このため妊婦への使用を禁忌とするかどうかは主に動物実験の結果で決められる。

 本当に危険なのかを判断するには、実際に妊婦に使用された情報を集めるしかない。厚生労働省は05年、国立成育医療研究センター(東京)に「妊娠と薬情報センター」を設置。主に海外の使用実績や研究論文などを幅広く調査してきた。

  ▽次の薬も予定

林昌洋さん
    林昌洋さん

 そうしてリスクを再評価した結果を基に、厚労省は今年6月、3種の薬について妊婦への禁忌を外し、薬を服用する利益が危険性を上回ると医師が判断する場合には投与を認めると決定。添付文書が改訂された。

 病院内に「妊娠と薬」外来を設け、妊婦らからの薬の相談に早くから応じてきた虎の門病院(東京)の林昌洋薬剤部長は「用心深く使えないことにしていた薬が、根拠を積み重ねて大丈夫と判断された意義は大きい。治療を続ける必要がある患者さんに幸せを提供できる可能性がある」と話している。

 「妊娠と薬情報センター」は今後も、調査結果を添付文書の見直しにつなげたいとしている。具体的には、免疫抑制剤に続いて「カルシウム拮抗(きっこう)薬」と呼ばれる降圧剤についての調査研究を予定している。

(共同通信 村川実由紀)


引用元:
妊婦も免疫抑制剤使用可に 妊娠と薬情報センターの調査で (47NEWS)