生まれて間もない新生児の肌に赤いあざのようなものを見つけると、パパやママは「これって何かの病気?」と心配になるかもしれません。多くの赤ちゃんに見られる「蒙古斑(いわゆる青あざ)」の多くは成長とともに自然治癒することがよく知られていますが、赤いあざは放っておいても問題ないのでしょうか。今回は、赤ちゃんにできる赤いあざの中でもとくに多い「乳児血管腫」について解説します。



乳児血管腫の種類とおもな症状とは?

乳児血管腫(にゅうじけっかんしゅ)は、何らかの原因で血管内皮細胞が増殖してしまう病気で、良性の腫瘍です。血管内皮細胞とは、血管の内側を覆う「血管内皮」を構成している細胞で、細長い形をしています。 乳児血管腫になると、生後すぐに皮膚表面に赤く隆起したあざが現れます。これが苺(イチゴ)のように見える場合があることから「いちご状血管腫」と呼ばれることもあります。



血管腫の大きさや種類 乳児血管腫の大きさには個人差があり、直径1cm未満のものから10cmを超えるものまでさまざまです。また、あざのでき方によっていくつかのタイプに分けられます。日本では、皮膚の表面が少し盛り上がって鮮やかな赤色のあざができるものを「局面型」、苺を半分にしたような塊ができる「腫瘤型」、皮膚の表面ではなく皮下に腫瘤ができる「皮下型」、そしてこれらが混ざった「混合型」などのタイプがあります。



症状 見た目以外に子どもに自覚症状はない場合も多いですが、かゆみや痛みが現れる場合もあります。



乳児血管腫が出始めるのはいつからいつまで?

乳児血管腫は、生まれた直後は全くないことも多く、あったとしても小さなあざであまり目立ちません。それが生後約2週間で目立ち始め、だんだん大きくなります。本人は何も感じていない様子でも、ママやパパは子育てしていく上でとても心配で不安になるでしょう。けれども、生後半年〜2歳頃をピークにだんだんと小さくなり、その後数年をかけて、小学校にあがる頃(8歳頃)までに自然に消えて目立たなくなるものがほとんどです。



乳児血管腫の発症頻度

乳児血管腫の発生頻度は人種によって差があることがわかっています。たとえば、白人の発生頻度は2〜12%ですが、日本人の発生頻度は0.8〜1.7%といわれています。また、人種に関係なく、男の子よりも女の子に多く見られるほか、低出生体重児や早産で生まれた赤ちゃんに多いこともわかっています。



乳児血管腫ができる場所

乳児血管腫がもっとも発生しやすい部位は頭や首、顔です。このほか体幹や腕や足にも現れます。多くは時間が経てば自然に消失するため、経過観察のみで特別な治療を行わない場合も少なくありません。 しかし、目や鼻、口の中や口の周辺、耳の周り、陰部や肛門周りなど、できる部位によっては身体機能に影響が及ぶことがあります。たとえば視覚障害や気道障害、哺乳障害、難聴、排尿や排便の障害などが起きることや、心不全や体重が増えないなど重大な症状を呈する場合があります。このような場合には積極的な治療が行われます。



乳児血管腫は自然治癒する? しない?

先に述べたように、乳児血管腫の多くは、一度は大きくなるものの成長とともに自然に消えていきます。そのため、特別な治療は行わず、経過観察されることも多いでしょう。 しかし、先ほど挙げたような部位にできたり、血管腫の中に潰瘍ができて出血したりするものもあります。出血するものは、二次感染や、感染によって臓器などに障害を起こす敗血症の原因になるため、注意が必要です。早めに医師に診てもらいましょう。 このようなリスクがない場合でも、大きく隆起したものは、血管腫がなくなったあとに皮膚のたるみが残る場合があります。これは見た目上の問題となることがあるので、治療が検討されます。



乳児血管腫の範囲が拡がったり、増えたりした場合

お伝えしたように、乳児血管腫は生後6ヶ月頃までは徐々に大きくなっていくものです。しかし、あまり急激に大きくなった場合は、病院を受診しましょう。巨大な血管腫の場合、血管腫の内部で血が固まりにくくなる凝固障害を起こす可能性があるからです。巨大血管腫に加えて、血小板の減少とともに全身に紫斑ができるものは「カサバッハ・メリット症候群」と呼ばれ、治療を要します。 乳児血管腫の中には、複数の血管腫ができるケースがあります。血管腫の数が5個以上の場合は内臓に血管腫ができている可能性もあるため、受診するようにしましょう。



乳児血管腫の治療費

受診する科赤ちゃんに赤あざができているのを見つけたら、まずは小児科や皮膚科を受診しましょう。すべての病院で詳しい検査ができるわけではないので、さらに専門医がいる病院を紹介されることもあります。また、経過観察や治療を行う中で、見た目上の問題が発生した場合は形成外科などにかかることもあります。



費用 乳児血管腫と診断を受けたら、治療費は保険診療となります。ただし、血管腫のタイプや大きさ、数などによって、経過を観察するだけなのか、何らかの治療が必要なのか、治療を行う場合も外来のみなのか入院が必要になるのかなど、内容はさまざまです。そのため、治療費にも個人差があります。 乳幼児を対象にした補助制度が整備されている自治体もありますが、制度の有無や内容によっても治療の負担額は変わります。自治体に確認してみましょう。



乳児血管腫の治療方法

レーザー治療、薬物療法、手術などがあります。乳児血管腫の程度や状態に合わせて、より効果的な方法が選択されます。



レーザー治療 レーザーを照射して皮膚の表面にできた赤みを薄くします。日にちの間隔をあけながら複数回行います。レーザー治療は痛みを伴う治療法のため、塗り薬などの外用薬や全身麻酔が用いられることがあります。ただし、皮下型のように深い部分に血管腫ができたものに対しては効果が低いといわれています。



薬物療法 薬物療法でよく使われるのが、最近になって開発された「プロプラノロール」という内服薬です。ただし、本来は降圧剤として使用される薬であることから、血圧低下や低血糖、睡眠障害、徐脈などの副作用が起こるリスクを伴います。このシロップを服用していてお子さんの様子に変化が見られた場合には、病院を受診して先生に相談しましょう。また、ステロイドやインターフェロン(抗ウイルス薬)、その他の治療薬が用いられることもあります。



手術 以下のような場合には手術が行われることもあります。




『 ・血管腫が消えたあとも皮膚にたるみが残る ・なかなか血管腫が消えない ・薬が使えない場所(まぶたなど目の周辺に小さな血管腫ができた場合など) ・出血のコントロールが不能など緊急の場合 』





ただし、手術によって痕が残る場合もあるので、慎重に検討されます。



他にも、ドライアイスなどを使う冷凍凝固療法や圧迫療法などの選択肢もあります。また、保育園や幼稚園などで周囲から「かわいそう」などと思われてジロジロ見られたり、保護者による虐待などと勘違いされたりすることもあるため、必要に応じて精神的なケアも行われます。



執筆者:座波 朝香(ざは・あさか) 助産師・保健師・看護師・タッチケアトレーナー。病院産婦人科での勤務を経て、株式会社 とらうべ 社員。妊娠・育児相談、産後ケアや赤ちゃんタッチをはじめ妊娠・育児講座などに定評があり、精力的に活動中。 監修者:株式会社 とらうべ 助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士などの医療職や専門家が在籍し、医師とも提携。医療や健康、妊娠・出産・育児や女性の身体についての記事執筆や、医療監修によって情報の信頼性を確認・検証するサービスを提供。

<参考> ・「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」班 『血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017』 ・日本血管腫血管奇形学会 「血管腫・血管奇形について」 ・日本小児科学会 「カサバッハ・メリット症候群」


引用元:
赤ちゃんの乳児血管腫の種類と治療法(ニコニコニュース)