出生時に2500g未満と小さく生まれた低出生体重児は、糖尿病などの生活習慣病になりやすいことが国内外の研究から分かってきている。第2回ヘルシーマザリング研究会が、2018年11月5日、東京・お茶の水で開かれ、発症前の予防診断で病気を未然に防ぐ「先制医療」を提唱する、京都大学名誉教授で日本学士院幹事の井村裕夫さんが、「胎生期から始まる健康と疾患―ライフコース・ヘルスケアの重要性」をテーマに講演した。
低出生体重児での糖尿病発症率は正常児の1.5〜3倍
「2型糖尿病は、遺伝と環境の影響で発症する生活習慣病。日本では、戦後、ライフスタイルの西欧化によって、2型糖尿病が大幅に増えたことが大きな問題となっています。そのメカニズムははっきりとは分かっていませんが、注目されるのが、低体重で生まれた赤ちゃんは、成人後、糖尿病になりやすいという事実。これについていくつも報告があります。私たちが、神戸市内で行った調査でも、出生時体重が2500g未満だった人に、空腹時血糖値が正常値上限とされる100mg/dl以上が多いという結果が出ています(*)」。井村さんはそう指摘する。
(*)空腹時血糖値は、100mg/dl未満が正常値、100〜110mg/dl未満が正常高値とされ、110〜126mg/dl未満が境界型、126mg/dl以上は糖尿病とされる。
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出生時体重が軽い人ほど空腹時血糖値が高い(データ:2012年「第66回日本栄養・食糧学会大会」にて福島光夫氏らが発表)
なぜ、そういった現象が起こるのか。その裏付けとして近年注目されているのが、「DOHaD(ドーハッド)仮説」と呼ばれる学説だ。
「お母さんのおなかの中にいる胎生期に栄養が少ない状態で過ごすと、生後も栄養の乏しい環境が想定されるため、自然とそういう環境下でも生き延びられるように遺伝子の調節、いわゆる『プログラミング』が行われると考えられています。反対に、胎生期に栄養が十分にあれば、その状況をもとにプログラミングされるわけです」と井村さん。問題は、胎生期のプログラミングとその後の生活にずれが生じた場合だ。
「貧しい環境で生きるようにプログラミングされて生まれたのに、十分過ぎる栄養を取る生活に移行すると肥満や糖尿病を発症しやすいと考えられる。この、胎児期のプログラミングと成長後の栄養状態のずれが、将来、生活習慣病などの発症リスクを高めるとする説を、古くは『発達プログラミング仮説』、最近では、『Developmental Origins of Health and Disease』の頭文字を取り『DOHaD(ドーハッド)仮説』と呼ぶようになっています」
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おなかの中ので栄養状態に合わせ、遺伝子がプログラミングされる
母親の痩せ志向が強いと胎児が飢餓状態に
井村さんが気になるデータとして示したのが、日本人の平均身長・平均体重の推移と低出生体重児の推移だ。成人(30歳代)の日本人の平均身長は戦後伸びてきたが、2005年前後に男女とも伸びが止まり、若干低下傾向も見られる。体重のほうは、男性は身長の伸びと平行して増えているが、女性は1970年以降体重の伸びが鈍化し、ほぼ横ばいのまま推移している。
一方、低出生体重児は戦後減少傾向にあったが、1980年ごろから再び増え始め、2005年くらいから9.5%前後とほぼ横ばいのまま高止まりしている。また、日本は低出生体重児比率がOECD諸国中最も高いという。
(過去記事「女性の痩せ過ぎと栄養不足 産んだ子どもにどう影響?」参照)
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日本人の平均身長・平均体重の推移(データ:国民健康・栄養調査より作成、1974年は調査なし)
「低出生体重児増加の大きな要因は、若い女性の『痩せ志向』です。また、分娩時の事故を回避するために、妊婦さんが体重を増やさないように産科で指導されたり、一時期流布した『小さく産んで大きく育てる』のがいいとする間違った通念がいまだに残っていることも影響しています。ただし、4000g以上の赤ちゃんも生活習慣病になりやすい。つまり、小さ過ぎても大き過ぎてもリスクになります」(井村さん)
胎児期の低栄養は心筋梗塞、認知機能低下のリスクを上げる
国際的に妊娠中の栄養不良が注目されたのは、第二次世界大戦中の「オランダの飢餓の冬」後の追跡調査により、さまざまな悪影響が分かってきたから。西オランダでは、1944年から45年にかけての5〜6カ月間、ナチスドイツが食料の補給路を遮断したために、平均総摂取カロリーが最低で約600kcalになる大飢饉(ききん)が起こり、1万〜2万人が餓死した。飢餓の冬の間に胎児だった子どもの出生時体重は、その前後に生まれた子より平均で200g下回り、低出生体重児が増加した。
「当時おなかの中にいて栄養状態が悪かった人は、その後、統合失調症や心筋梗塞、糖尿病、高血圧、メタボリック症候群を発症しやすく、腎機能や認知機能の低下を起こす割合も高いことが確認されています。1941年〜44年の2年4カ月間に約150万人の死亡者を出したロシアのレニングラード(現・サンクトペテルブルク)包囲による飢餓でも高血圧、心疾患などが増加しました。約3000万人が亡くなった1958年〜1961年の中国大躍進政策による飢饉の影響を調べた研究では、後に高血圧や心臓病、精神疾患、認知機能障害などが増えるという結果が出ています」と井村さん。
「もう一つ大きな問題は、胎児の時にお母さんが低栄養だったり、身体的・精神的ストレスが強かったりすると、子どもの認知機能、知能にまでにも影響が出る可能性があることです」と井村さんは指摘する。
オランダ、中国の飢餓の追跡調査や、イギリスで戦後実施された調査からは、低出生体重児は年を取ってから早く認知機能が低下して認知症を発症する傾向にあることや、低出生体重児に若い時から認知機能が低い人が多い傾向にあること、神経発達スコアが低いという報告もある。もちろんこれはあくまでも傾向であり、低体重で生まれたからといって必ずこうしたリスクを負うとは限らない。
受胎期、胎児期から健康長寿を目指すライフコース・アプローチを
「体の健康状態だけではなく、認知機能にも問題が起こる可能性があるとなると影響は大きい。これから必要なのは、生まれる前から人生の各時期を通して、疾病の予防と健康な長寿を目指す『ライフコース・アプローチ』です。父親が肥満だと子どもも肥満になりやすいとのデータもありますから、母親だけでなく両親で受胎前から肥満、痩せ、ビタミンなどの栄養素の欠乏を予防することが重要です。受胎前、胎児期、小児期、思春期、成熟期、老年期すべての時期で、健康に気を付けることが健康長寿につながります。多くの病気は遺伝と環境によって起こりますが、特に、胎生期、生後早期の環境によってプログラミングされると、病気の進行が早くなる危険性が生じます。発症前にある程度予測して介入し、病気にならないようにするのが先制医療です。受胎前、胎生期からの予防が重要であることを知っておいてください」
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図3:病気にならないためには受胎から老年期までの先制医療が必要(井村さんの資料を基に作成)
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表1:健康長寿のためのライフコース・アプローチ
講演の後の質疑応答で、井村さんが強調したのは、「もしも赤ちゃんが低出生体重児として生まれても、医師のアドバイスを受けながら病気になりにくい環境を整えれば糖尿病、心疾患などは予防できる」ということだ。その方法については本サイトの関連記事などを参照してほしい。
◆関連記事
・日本人の平均身長低下と女性の痩せ指向との相関関係
・「小さく産んで大きく育てる」のリスクと誤解、育て方
一方で、これから妊娠を考える人は、受精前、胎児期に、低栄養やビタミン欠乏、過度の肥満にならないように注意したい。
引用元:
2500g未満の赤ちゃん、糖尿病などのリスクが高い(Women online)