幼少期のラットが高線量の放射線で被曝(ひばく)して乳がんの発症リスクが上がっても、その後、妊娠と出産を経験すると、リスクが下がったとの研究結果を量子科学技術研究開発機構などが18日までに、英科学誌電子版に発表した。

機構によると、人の場合でも妊娠と出産を経験すると乳がんの発症リスクが下がることは知られているが、高線量被曝が原因の乳がんリスクと妊娠・出産との関係は分かっていなかった。

妊娠時に関係する女性ホルモンの一種が影響した可能性があり、機構の今岡達彦・幹細胞発がん研究チームリーダー(放射線生物学)は「女性が子どものころ小児がんになり、胸の放射線治療を受けると乳がん発症の確率が高まる場合がある。発症前にリスクを下げる医薬品を開発する手掛かりになりそうだ」としている。

機構によると、乳腺が発達する前の生後3週目の複数のラットに強い放射線を浴びせて経過を観察すると、妊娠・出産しなかったグループは1週間当たりに増えた乳がんの塊が平均0.045個で、妊娠・出産したグループは同0.02個と半分以下だった。

各グループの血液を採取して調べると、妊娠・出産したラットは、妊娠に向けて乳腺の発達などを促す女性ホルモン「プロゲステロン」の血中濃度が半減していた。

乳がんは悪性の乳腺細胞が異常増殖したもので、プロゲステロンは、受容体と呼ばれる分子と結合すると乳がん細胞を増やすことが知られている。チームは、妊娠と出産による体内のプロゲステロン低下と同じ効果を得られる薬品が開発できれば、放射線治療後の乳がん発症リスクを下げることが可能になるのではとしている。〔共同〕


引用元:
被ばく後乳がんリスク低下 ラット、妊娠・出産経験で (日本経済新聞)