インフルエンザが本格的な流行シーズンに入った。

厚生労働省によると、12月3日から9日までの1週間にインフルエンザにかかった患者の数が1医療機関あたり1.70人となり、全国的な流行シーズンの目安となる1人を超えた。記録的な大流行となった去年に比べ2週遅い流行入りでほぼ例年並み。
また、今年9月からの累計受診者数は全国でおよそ18万7000人と推計されている。


本格的な流行を前に厚労省はワクチンの接種やマスクの着用などを呼びかけているが、インフルエンザはワクチンを接種していても発症を完全に防げる病気ではないだけに、普段の予防対策も大切にしたいところ。
そんな中、私たちに親しみ深い飲み物「お茶」の予防効果に注目が集まっている。


緑茶を飲むとインフルエンザの感染抑制。“新型”にも効果アリ




飲料メーカーの伊藤園が、静岡県立大学薬学部との共同研究で、緑茶に多く含まれるポリフェノール成分の一種「カテキン」に抗ウイルス作用があり、緑茶を飲むことでインフルエンザの予防が期待できると発表した。そして、毎年流行する季節性のインフルエンザに加え、新型インフルエンザの感染も抑制できるとしている。

この研究では、医療施設の職員を2グループに分け、5カ月間、片方のグループだけに緑茶成分の「カテキン」と「テアニン」(茶葉に含まれるアミノ酸の一種。免疫力増強作用を持つ)を投与。インフルエンザの感染状況に違いがあるか検証した。結果は「カテキン」と「テアニン」を摂取し続けたグループは97人中4人(発症率4.1%)が感染したのに対し、接種しなかったグループは99人中13人(発症率13.1%)が感染するなど、明確な違いが出た。

また別の試験では、ほとんどの人に免疫がないことから、出現すると世界規模で大流行を引き起こすことがある新型インフルエンザに対する緑茶成分の効果も調査。
2009年〜2010年に流行した新型インフルエンザウイルス(H1N1型)を使い、カテキンの一つで、緑茶に最も多く含まれる「エピガロカテキンガレート」を投与したところ、抗インフルエンザ薬に用いる成分「アマンタジン」よりも低い濃度で、新型インフルエンザの感染を抑える結果が出たという。

さらに、緑茶に含まれる抗アレルギー成分の「ストリクチニン」は「エピガロカテキンガレート」を上回る感染抑制力を示したと報告している。





では、緑茶はインフルエンザウイルスの感染をどのように抑えるのだろうか。
共同研究に携わった、静岡県立大学薬学部の鈴木隆教授と山田浩教授に話を聞いた。


「スパイク」と呼ばれる突起状のタンパク質に作用

ーー緑茶がインフルエンザウイルスを予防する仕組みは?

鈴木教授:
緑茶には、インフルエンザウイルスに直接作用して感染を阻害する成分があります。カテキンの一つである「エピガロカテキンガレート」はその代表です。インフルエンザウイルスの表面には「スパイク」と呼ばれる突起状のタンパク質があり、これを利用して喉などの細胞に感染します。「エピガロカテキンガレート」はこのスパイクに取り付き、ウイルスが細胞に吸着することや、感染した細胞内で新たに作られたウイルスが広がることを抑えます。

「ストリクチニン」はカテキン類と効能が異なりますが、ウイルスが細胞内に侵入しようとする際、ウイルス膜と細胞膜の融合を抑えて侵入を拒みます。
緑茶はこのような成分が重なり、結果としてウイルスを予防しています。



ーー新型インフルエンザウイルスにも効果があるのはなぜ?

鈴木教授:
インフルエンザウイルスの基本的な構造・性質は、季節性と新型であまり変わりません。ウイルス表面のスパイクを捉え、細胞への吸着を抑えるという緑茶の効能もそのまま通用するため、インフルエンザの型に関係なく予防効果が期待できます。



ーー飲用で期待できる効能は?

山田教授:
インフルエンザウイルスは大きく分けると、「ウイルスの付着」「細胞への侵入と増殖」「細胞から他の細胞への感染」の段階で感染が広がります。
うがいには細胞に付着したウイルスを直接ブロックする作用はありますが、体内の細胞に侵入されてからでは効果が弱くなる一面があります。
その点、飲用ではカテキンなどの有効成分が体内に直接吸収されるため、体の中から抵抗力を高めることが期待できます。





飲むことで体の抵抗力も高めてくれるという緑茶。こうなると、他のお茶にもインフルエンザの予防効果があるのか知りたいところ。
お茶の健康作用などを研究する「お茶科学研究所」(運営:三井農林)にも話を聞くと、興味深い結果が分かった。


感染阻止率は緑茶が97.6%、紅茶が99.96%

ーー茶葉の種類でインフルエンザの予防効果に違いはあるのか?

インフルエンザ対策として有効なお茶成分の含有量は、茶葉の種類や製法(発酵の有無)で異なります。試験管にインフルエンザウイルスと細胞、予防対策としてよく飲まれている飲料を入れて細胞への感染阻止率を検証した当社の研究データでは、乳酸菌やビタミンCの数値が低い数値にとどまったのに対し、お茶の中では緑茶が97.6%、紅茶が99.96%と高い効果を記録しました。



インフルエンザウイルスの感染阻止率を検証した実験結果(画像提供:三井農林)

ーー紅茶の感染阻止率が高くなった理由は?

緑茶も紅茶はもともと「チャノキ」から収穫される同じ茶葉で、製法で名称や風味が変わります。インフルエンザウイルスに対する有効成分としては緑茶に多く含まれる「カテキン」が有名ですが、紅茶として酸化発酵するとこの「カテキン」同士が結合し、新たなポリフェノール成分「テアフラビン」となります。

この「テアフラビン」はインフルエンザウイルスに有効な上、発酵の過程で分子構造が変わり、ウイルスのスパイクを捉える力がより強くなります。
これらの結果から、紅茶の感染阻止率が高くなったと考えられます。



ーーお茶はすべてがインフルエンザ対策に有効なのか?

お茶の原料にもさまざまな種類があり、一概には判断できません。
緑茶や紅茶がそうであるように、ポリフェノール成分を含んでいれば、ある程度の予防効果は期待できると思います。



1日、2〜3杯分(500ml程度)以上飲むことを推奨

ーーおすすめの飲み方、タイミング、頻度などは?

インフルエンザウイルスと茶成分が接触する温度を4度と37度で比較したところ、37度の方が感染を防ぐ効果が高い結果が出ています。このことから、冷えたペットボトルのお茶よりは温かい急須で淹れたお茶の方が、インフルエンザ対策としては有効と思います。おすすめはマイボトルなどに温かいストレートの紅茶や緑茶を入れて、こまめに少しずつ飲用する方法です。1日当たり、2〜3杯分(500ml程度)以上を飲むことを推奨しています。

冬場は寒く、乾燥や発汗で体内の水分量が少なくなっても気付きにくい季節です。人間は、喉の渇きを感じた時には既に体内の水分量が不足していますが、この状態に陥ると外部から侵入したウイルスを排除するという、人間本来の生体防御機能が働きにくくなってしまいます。

インフルエンザウイルスは細胞への吸着から約20分で内部に侵入すると言います。紅茶や緑茶をこまめに飲むことで、インフルエンザ対策として有効な成分と水分を同時に摂取することができ、ウイルスを排除する生体防御機能の維持にもつながると思います。


ーーお茶に何かを入れると予防効果は変わる?

紅茶を例にすると、イギリスやインドではミルクを加えるのが主流ですが、お茶のポリフェノール成分がミルクに含まれるタンパク質と結合してウイルスの感染力を奪う能力を低下させます。インフルエンザ対策として飲む場合は、牛乳や豆乳などのタンパク質を豊富に含む食材は加えないよう注意する必要があります。

お茶に入れるものとしておすすめなのは、レモン汁や身体を温める素材です。レモン汁を入れるとお茶が酸性に近くなり、ウイルスの感染を阻害する効果が強まります。また、ショウガやコショウなどの身体を温める素材を加えれば、身体の抵抗力を高めることにもつながります。





お茶科学研究所によると、使用済みの茶殻やティーバッグを再利用した抽出液でも、インフルエンザ対策としては十分に効果があるという。
当然だが最初のお茶よりは味が落ちるため、こちらはうがいなどへの使用が適しているとのこと。

インフルエンザは肺炎や胃腸炎などの合併症を引き起こす可能性がある上、感染すると周囲に移してしまうこともある怖い病気。
本格的な流行シーズンに入り、予防対策としてうがい手洗いだけでなく、緑茶や紅茶を飲む習慣を加えてみてはいかがだろうか。


引用元:
緑茶を飲むとインフルエンザの予防効果! “新型”にも効くというその理由を聞いた(FNN PRIME)