■気付かぬまま他人に感染も

 性行為などで感染する梅毒の今年の患者数が6千人を超え、現行集計上では昨年の5820人(暫定値)を抜いて過去最多を更新した。患者増で最も心配されるのが妊娠中の女性の感染だ。専門家は「妊娠中は感染リスクのあるような性行為を避けて」と呼びかける。(平沢裕子)

                   


 梅毒は、性的な接触で「梅毒トレポネーマ」という細菌がうつる感染症。昭和23年からの報告制度では年間1万人以上の年もあったが、制度変更があった平成11年以降、24年まではおおむね600〜800人で推移していた。それが、25年に千人を超えてからは増加する一方で、国立感染症研究所によると、今年1月から11月25日までの累積患者数は6221人となった。

◆症状ないことも

梅毒に感染すると、潜伏期間(平均21日)を経て、性器や肛門、口など感染が起きた部位に、豆粒ほどの硬いしこりができた後に潰瘍(かいよう)(えぐれたようなできもの)ができる「硬性下疳(こうせいげかん)」と呼ばれる症状が出たり、ももの付け根部分のリンパ節が腫れたりするが、痛みはなく、治療をしなくても症状は自然におさまる。

 感染症に詳しい川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は「いったん治ったかのようにみえても、体内から病原体がいなくなったわけではない。ただし、症状がなくても、感染から数カ月は他人への感染力が強く、気付かずに他人に感染させているケースも少なくない」と指摘する。

 症状がいったん消えた後、再び4〜10週間の潜伏期間を経て、今度は手のひらや足の裏などにうっすらと赤い発疹が出たり、発熱や倦怠(けんたい)感などの症状が出たりする。これらの症状も数週間〜数カ月で消える。しかし、無治療のままだと数年から数十年後に、心臓や血管、脳などの複数の臓器に病変が生じ、場合によっては死に至ることもある。

 ◆パートナーも検査を

 女性では、20〜30代での感染が増加。この年代で最も心配されるのが、梅毒にかかった妊婦から胎盤を通じて胎児が感染する先天梅毒だ。流産、死産、早産などの原因となるほか、生まれても乳幼児期、学童期に内臓や目、耳などに異常が出ることがある。
適切な抗菌治療を分娩(ぶんべん)4週間前までに完遂することで先天梅毒は予防できる。母子保健法では妊婦の梅毒検査が義務付けられているが、検査は基本的に妊娠初期だ。このため、岡部所長は「母子感染を防ぐため、パートナーも含め、妊娠中は感染リスクのあるような性行為を避ける必要がある」と指摘。出産時を含めた複数回の検査やパートナーの検査も併せて行うことをすすめている。

■「訪日客増加が影響か」

 梅毒患者はなぜ急増しているのか。東京都内で性感染症の診療に当たる「プライベートケアクリニック東京」院長の尾上泰彦(おのえ・やすひこ)医師は「疫学的調査が行われていないので不明」とした上で、「複数の人と性行為する人の増加、梅毒流行国からの観光客の増加などが影響しているとの見方がある」と指摘する。

 世界保健機関(WHO)の2012年の統計によると、世界の梅毒感染の報告数は約600万人。昨年、訪日外国人客数は2800万人を突破し、流行国から持ち込まれるリスクが高まっている。風俗業界の関係者は「日本の風俗店ではトラブル防止の観点などから外国人客を断るケースも多かった。だが、近年は外国人専用をうたう店も出てきている」と説明する。

 一方、患者数が全国最多の東京都では特に、五輪・パラリンピックを控え感染拡大防止に躍起だ。都南新宿検査・相談室では、HIV(エイズウイルス)と梅毒の同時検査を毎日(祝日などを除く。無料)実施。11月、梅毒など性感染症の知識、相談先などを載せた総合ウェブサイト「東京都性感染症ナビ」を開設した。

 感染予防には、男性用避妊具を使用し、感染部位と粘膜や皮膚が直接接触するのを避ける。尾上医師は「患者が無自覚なまま感染を拡大させることも多い。不安があれば医療機関を受診してほしい」と呼びかけている。(三宅陽子)


引用元:
「梅毒」増加一途、過去最多の6000人超え 妊娠中は特に注意を (産経新聞)