医師が提案する乳がんの治療はさまざまです。複数の要因を検討しながら、もっとも効果が期待できる治療法を選ぶことになります。「化学療法(抗がん剤治療)」「放射線療法」について聞いたことがある人もいるかもしれません。あるいは、その両方についての聞いたことがある人もいるでしょう。

がんに関わる因子は多くあります。例えば、がんがどこから発生したのか。あるいは、乳房組織にのみがんができているのか、身体のほかの部位にもがんが広がっているのか。また、ホルモンががんの成長にかかわっているのか。健康状態や年齢などはどうか……。

「乳がんが乳房、リンパ節で確認されたというときには、一般的にはがんの三大療法で治療します」と、フレッド・ハッチソンがん研究センターの臨床研究準会員で、シアトルがんケアアライアンスのがん専門医である医学博士ジェニファー・スペクトさん。

その治療とは、乳房とリンパ節のがんを切除する「手術療法」のほか、乳房の部分切除を行ったときには「放射線療法」も行います。


診察する医師


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また、エストロゲン、プロゲステロンのようなホルモンの作用をおさえる「ホルモン治療」も行います。がん細胞の取り残しを死滅させるには、「化学療法(抗がん剤治療)」を行います。

手術療法や放射線療法は、身体のほかの部位への影響がなく、腫瘍に対する治療なので「局所療法」と呼ばれます。一方で、ホルモン療法や化学療法は、身体に広がったがん細胞にも効果があるので「全身療法」となります。

ここではそれぞれの治療について説明していきましょう。

局所療法

手術療法

「乳がんの治療ではほとんどの場合に手術をおこなうことになります。がんだけを切除する場合もありますし、乳房全体を切除することもあります」と、オハイオ州、クリーブランド医科大学の助教で、クリーブランドクリニックのがん専門医の医学博士、ミーガン・クルーゼさん。

乳房温存手術(BCS)

「腫瘍切除術」「乳房扇状部分切除術」「部分的乳房切除術」「乳腺分節切除術」とも呼ばれています。乳房からがんのある場所だけを切除する手術です。手術の範囲は、がんの大きさや、腫瘍ができている場所によって変わります。周囲の正常な組織も含めて、がんを取り切ることが大切です。

乳房切除術

乳房組織とまわりの組織を含めた乳房全体を切除する手術です。手術の方法はいくつかあります。
•単純乳房切除術(乳房全摘術):乳頭、乳輪、皮膚も含めた乳房全体を切除します。
•乳房皮膚温存による乳房切除術:乳房組織、乳頭、乳輪は取り除かれますが、皮膚の大部分がそのまま残るので、移植組織や身体のほかの部分からの組織を使って乳房を再建します。乳房の傷跡が目立ちにくいので、多くの女性がこの治療を選びます。腫瘍の状態によっては、この手術ができない場合があります。
•乳輪乳頭温存による乳房切除術:乳房の外側にできたサイズの小さい初期の乳がんの場合に、乳頭を残す手術を選ぶことができます。手術では、乳頭(と乳輪)の下にある乳房組織は切除し、がん細胞がないかを確認します。もしとった組織にがん細胞が見つかった場合には乳頭も切除します。
•両側乳房切除術: BRCA遺伝子変異のある場合のように、がんになるリスクが高い人を対象として、がんの発症を防ぐために両側の乳房を切除する手術です。

乳房を切除する必要がありますか


手術


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初期のがんであれば、乳房温存手術と乳房切除手術のいずれも選択可能です。本心としては、がんを確実にとるためには、乳房切除手術をした方がよいと考えるかもしれません。ですが、アメリカがん協会によると、乳房切除手術を受けたからといって、放射線治療を併用した乳房温存手術と比べて生存率は高いとは言えないことが報告されているのです。ほとんどの医師は、可能であれば乳房温存手術(放射線治療を併用した)がよいと考えています。

しかし、乳房切除手術をすすめるケースもあります。さまざまな要因はあり得るのですが、放射線治療が難しい場合、過去に乳房への放射線治療を行っていた場合、腫瘍が乳房に対して大きい場合です。

放射線治療

放射線治療を受ける場合には、ほかの乳がん治療と組み合わせて、がん細胞を破壊するためのX線や粒子線を照射することになります。手術の方法、リンパ節やほかの部位への転移、場合によっては年齢といった条件に基づいて、放射線治療の必要性を医師が判断することになります(アメリカがん協会)。

放射線照射では、がんの存在している部位に放射線を当てることになります。乳房切除を受け、リンパ節の切除は行っていない場合、胸板や手術の傷跡になっている場所のほか、手術後にリンパ液を体外に出す管を出していた場所に対して放射線を照射します。

乳房温存手術の場合には、乳房全体に放射線を放射し、再発を防ぐために、がんを切除した場所に対しては追加照射を行います。腕の下のリンパ節にがんが見つかった場合には、その場所に対しても放射線を照射します。

放射線照射を開始するのは手術した部位が治癒した後です。典型的なケースであれば、手術を終えてから約1か月以降となります。化学療法を受けた場合も、通常は化学療法が完了した後に放射線治療を行うことになります。

全身療法

化学療法(抗がん剤治療)

化学療法では、静脈や口から抗がん剤を投与して、血流を通して全身に存在する可能性のあるがん細胞に送り込みます。

乳がんになった女性にとっては、必ずしも必要とされる治療ではありませんが、手術後(残っているがん細胞を死滅させる)、手術前(腫瘍を小さくして切除しやすくなる)、進行性(転移のある)乳がんに対して使われることが多くなります。

抗がん剤治療を行うときには投薬と休薬を繰り返すのが一般的です。投与期間と投与期間の間に、体力を回復するための期間を設けるためなのです。抗がん剤の種類にもよりますが、投与は2〜3週間のサイクルで進められ、全体で3〜6カ月間続くのが一般的です。また、抗がん剤の効果と副作用によって治療期間が変わります。抗がん剤には次のような副作用があります。


副作用

口腔の乾燥、体重の変動と食欲不振、感染症の増加、あざや出血の増加、下痢、疲労吐き気や嘔吐、脱毛


吐き気や嘔吐のなどの副作用を和らげる薬はありますが、抗がん剤の治療が終われば副作用はなくなります。年齢が若い場合、副作用として早期閉経や不妊を経験する可能性もあります。抗がん剤治療は、ほかの治療法に比べて副作用が強く出ますから、どのような対処ができるのか医師としっかり話し合うことが大切です。年齢を重ねている場合には、閉経や不妊を経験する可能性もありますし、加えて骨量減少症や骨粗鬆症のリスクを高める可能性もあります。

内分泌療法(ホルモン療法)

ホルモン療法は、ホルモン受容体が陽性(エストロゲン受容体が陽性、またはプロゲステロン受容体が陽性)の女性に効果的な治療となります。がんの増殖をうながすエストロゲンの効果をおさえる薬を飲む治療です。

エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体が陽性の乳がん細胞は、エストロゲンと結合する受容体を持っており、これががん細胞を増殖させるのです。ホルモン療法では、この受容体とエストロゲンの結合を止める治療になります。

ホルモン療法には通常はいくつかの方法がありますが、ほとんどはエストロゲンを減らしたり、がん細胞にエストロゲンがはたらかないようにしたりするためのものです。タモキシフェン、トレミフェンと呼ばれる薬は、エストロゲンががん細胞を刺激しないようにする作用があり、アロマターゼ阻害薬と呼ばれる薬は、エストロゲンの合成をおさえます。

手術後に再発のリスクを減らすため、少なくとも5年間ホルモン治療を行います。ホルモン療法はがんが再発したり、ほかの部位に転移したりしているときにも行われます。

分子標的治療薬





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がんの異常な増殖を引き起こす変化についての研究が進み、そうした細胞の変化を標的とした新しいタイプの薬の開発も進められていると、アメリカがん協会は紹介しています。

こうした分子標的治療薬は、正常の細胞には影響せずに、がん細胞の増殖や拡大のみを押さえ込むことができるのです。がん細胞のほか、細胞増殖の盛んなすべての細胞を攻撃する、化学療法とは異なっています。

分子標的治療薬は、化学療法が効果を示さないときにも有効となることがあります。またほかの治療の効果を助けるようなものもあります。


引用元:
手術や薬はどう使われる?乳がんの治療法のいろいろ(MYLOHAS)