年々増える乳がん

人口動態統計で今や、日本人女性の11人に1人がなると言われている、乳がん。
厚労省のデータによると、乳がんによる女性の年間死亡者数は年々増えており、今からおよそ20年前の1995年は7,763人だったのに対し、2017年では14,285人と、わずか20年で2倍に迫る数にまで増えているのだ。(厚生労働省「人口動態統計」)

近年も、2017年には小林麻央さんが34歳、今年8月には漫画家のさくらももこさんが53歳という若さでこの世を去った。

乳がんは早期に発見できれば、9割が助かると言われているにもかかわらず、死亡率が上昇している理由のひとつが、検診率の低さ。受診率を海外と比べても、トップはアメリカだが、日本は約45%と先進国では最下位。

身近な病気と感じてはいるものの、定期的な健診を受けたくても仕事が忙しく、なかなか病院に行けない…という人もたくさんいるだろう。
そんな時には、自分で胸部に触れてしこりがないか探す「セルフチェック」が有効だ。


「消しゴムくらい…」ってどのくらいの硬さ?

しかし、いざ「セルフチェック」をしようとインターネットで調べてみると、「硬い消しゴム」や「石」「ビー玉」「梅干しの種」など、しこりには色々な表現がある。
消しゴムや石は硬さを想像しやすいが、皮膚や脂肪を通して触った時にどんな手触りがするのか、という所まではわかりにくいのではないだろうか。

20代女性の筆者も、一度「これが噂に聞く“消しゴムくらいの硬さ”のしこり?」と思い、青ざめつつ乳がん検診を受けたものの、結果は全くの思い込みで「これは“消しゴム”ではなかったのか…」と首をひねりながら帰路に就いたことがある。

そんな中、ティ・アール・エイ株式会社から、乳がんの“しこりの感触”を再現した「Mamion(マミオン)」が発表された。

このマミオンは、乳がんの直径1センチのしこり、2センチのしこりの2種類を再現したもの。
人差し指・中指・薬指の3本でふくらみを押さえて、円を描くようにクルクルと触ることで、しこりが指に触れる感覚を覚えることができるという。

乳がんには0から4までのステージ(進行度)があり、そのうちステージ1にあたる「しこりの大きさが2センチ以下、リンパ節への転移がない」状態で発見されれば、10年生存率は約90%だという。
マミオンでしこりの感触を覚えてセルフチェックすることで、乳がんをごく初期段階のうちに発見することができる、というわけだ。

マミオンは「乳がんの早期発見を実現し、少しでも多くの命を救う手助けをする」ことを目標としていて、その認知度を上げるためにクラウドファンディングサイト「Ready For」にてプロジェクトを公開。公開から2週間で81%の達成率となっている。(11月13日現在。公開は11月27日(火)23:00まで・目標金額30万円)

なぜ今回、このような企画を立ち上げたのか。
マミオンの開発に携わった、ティ・アール・エイ株式会社の山中氏にお話を聞くことができた。


医師の指導のもと、皮膚やしこりの感触を再現

――マミオンを作るきっかけは?

弊社では主に機械部品やガジェット関係を取り扱っておりましたが、近年では健康分野のマーケットに注目しており、「人々が健やかに過ごせる製品を開発したい」という社長の想いから、第1弾として2016年にSleepion(スリーピオン)という睡眠導入家電を開発しました。
第2弾としてMamion(マミオン)が開発されたのですが、きっかけは2017年頃より著名な有名人が乳がんで亡くなる報道を聞き、30代前半という自分と同世代の方も命を落としていることが他人事と思えず、乳がんについて調べ始めたことでした。


――「マミオン」という名前の由来は?

Sleepionの「ion」の部分と、ラテン語の乳房を意味する「マンマ」を組み合わせてアレンジした名前です。


――こだわったポイントは?

人間の皮膚をリアルに再現することにこだわりました。
皮膚やしこりの感触につきましては、川崎医科大学付属病院長よりご指導いただき、納得頂くまで何度も試行を重ねて製造しました。



乳がんによる著名人の訃報のニュースに触れ「実際のしこりの感触がわかる物があれば良いのに」と考えていた中で「乳がん触診シミュレーターの開発をしてはどうか」という話が持ち上がり、マミオンの開発につながったのだという。

それでは、分かりづらい「しこりの硬さ」はどのように再現されているのだろうか。
さっそく、サンプル品を送っていただき、実際に触ってみた。


実際に触ってみた


表面を触ってみると、ツルツルとしつつも指が滑ってしまうようなプラスチック感はなく、しっとりとしたマットな質感。
商品紹介によると、表面としこり部分は合成樹脂、中身はTPSというゴムに近い性質の素材でできているそうだが、素材の違いから表面と中身は硬さが微妙に違っていて、肌のハリや脂肪のやわらかさはとてもリアルに再現されているように感じた。

しこりに触れようとすると指からズルリと逃げてしまうため、しこりそのものの硬さは表現しにくいが、薄い粘膜で包まれた消しゴムのような、わずかに弾力のある硬さを感じることができた。

1センチのしこりの方は、指をそろえて軽く押し込むとほとんどわからない程度の微かな感触があり、円を描くようにクルクルと押し込むと、ようやく「コロコロ」とした指ざわりが感じられた。
一方、2センチのしこりは指を軽く当てただけで「何かあるぞ」と感じられ、クルクルと押し込むと「グリグリッ」と大きい手ごたえがはっきり伝わってきた。


――しこりを例えた表現は色々あるが、マミオンで再現したものが乳がんの硬さ?

しこりの硬さについては、川崎医科大学付属病院長のご指導をもとに決定しております。
悪性(がん)をイメージして製造していますが、必ずしも「このしこりの硬さだから悪性」と断定できる訳ではありません。
マミオンはあくまで「マミオンに隠されたしこりと同様の感触がある場合、信頼のある病院へ受診して下さい」と促すきっかけになるよう、開発させて頂いた製品になります。


実際にマミオンに触ってみた感想は、「2センチのしこりはサンプルがなくても気付けるかもしれないが、1センチのしこりは自分では気付けないかもしれない」ということ。
特に、表面を軽く触っただけでは1センチのしこりにはほとんど気付くことができないため、ぜひ多くの女性にサンプルに触ってほしい、と思ったのだが、実は開発には女性からの反対もあったという。


――開発にあたり、社内の反響は?

元々ガジェットや機械部品を取り扱っている会社なので、なぜ乳がん触診シミュレーターを開発するのかと最初は反対されました。デリケートな見た目から特に女性社員には反対されましたが、いかに乳がん触診シミュレーターが人々の命を助けるきっかけになるかということを説明し、納得してもらい、最終的には製造することが出来ました。完成後は、見た目に不快感が少なく持ち運びしやすいサイズ感なので使いやすそうと評判です。


――使用してもらいたいのはどんな人?

特に年齢制限はありませんが、乳がん発生率の高い30〜60代女性の方々を中心にお使い頂ければと思います。



マミオンは今回、認知度向上のためのクラウドファンディングを行っているが、プロジェクトの成立・不成立に関わらず、今後一般販売をする予定だという。(定価29,800円)

がん細胞は、場合によっては1ヶ月の間に急速に大きくなる場合もあるため、最低でも「月1回以上」のセルフチェックが推奨されている。
けっして他人事ではない乳がん。まずは「セルフチェック」を習慣づけることから始めてほしい。


引用元:
“乳がんのしこり”を再現したサンプル開発 実際に触ってみてわかったこと(www.fnn.jp)