2010年、厚生労働省が「イクメンプロジェクト」を立ち上げ、「イクメン」という言葉は一気に浸透しました。その前年に育児・介護休業法が改正されたこともあり、育児を積極的に楽しむ男性の出現は、社会を変える旗印として、歓迎されたものです。ところが最近のパパたちからちらほらと聞こえるのが「イクメンと呼ばないで」「イクメンは終わった」という声です。彼らにとって「イクメン」はどのような響きに聞こえるのでしょうか。あれほどもてはやされた言葉の存在意義とは? そして、次世代とでもいうべき彼らは、育児や仕事、夫婦に対してどのような思いを持っているのでしょうか?
 そこで、次世代パパを代表するパパコミュニティー「一般社団法人Papa to Children(PtoC)」の理事パパ3人に話を聞きました。座談会の模様を上下2本の記事でお送りします。


<参加者プロフィール>

川元浩嗣さん(以下、ヒロシ)
Papa to Children代表理事
2017年1月の創立メンバーの一人。都市銀行に8年半、系列VCで半年勤務した後独立。第1子の妊娠をきっかけに独立を決意して起業し、現在はMi6代表取締役CEO。5歳と2歳の姉妹、大手電機メーカー勤務の妻との4人家族。毎日の朝ごはん作りと保育園の送り、週1〜2回はお迎えも担当している。35歳。

金沢慎太郎さん(以下、シン)
Papa to Children理事
メガベンチャーに6年半勤務した後、長女が生まれて間もなく転職。現在はエッグフォワード執行役員。1歳9カ月の長女と教員の妻との3人家族。来年4月入園に向けて保活中。週に1度は7時までに帰宅し、入浴、寝かしつけまでできるように努力している。休日の1日は、妻がリラックスできる時間を作れるように育児を行う。30歳。

細井栄司さん(以下、えーちゃん)
Papa to Children理事
税理士法人が母体のKFSグループ東京チーフ。1歳8カ月の長男と学童クラブ勤務の妻との3人家族。今春、待機児童になってしまったため、来年4月の入園に向けて保活中。子どもと触れ合ってほしいという妻の希望もあり、寝かしつけ時間までに帰宅。寝る前の息子とのハグと、子どもが寝た後に妻と話すのが日課。35歳。

Papa to Children(PtoC)
「全国にかっこいいパパを増やす」ことをビジョンに掲げた「次世代パパ」のコミュニティー。川元浩嗣さん、柴田雄平さん(mannaka代表取締役)、西村創一朗さん(HARES代表取締役)の3人が2017年1月に創設。オンラインでつながるほか、2カ月に1度休日の昼間に開催する「パパ未来会議」では子連れで集まり、悩みや思いをさらけ出したり情報交換をしている。2018年8月8日(パパの日)に持続可能なコミュニティーを目指して一般社団法人化。理事の8人は起業家、大手企業・中小ベンチャー社員と多様なメンバーで構成。全員会社に承認を受け複業として活動中。https://p-to-c.com/


子どもと触れ合うために寝かしつけまでには帰宅

編集部(以下、――) えーちゃんさんは、子どもの寝かしつけ時間に帰宅されるんですね。そんな時間にパパが帰るとお子さんが興奮してしまって「ちょうど今寝るところだったのに!」なんてママに怒られそうですけれど。

えーちゃん うちは妻が保育の仕事に携わっているせいもあってか、僕にもできるだけ多く子どもと触れ合ってほしいという考えなんです。だから、むしろ、子どもの目がさえてしまってもいいから、帰ってきてほしいと言われます。ただ、さすがに興奮して目がさえちゃうと困るので、起こさないように静かに帰ってきて、もし息子が起きていたら、妻がおとーさんにハグするように促してくれます。

ヒロシ シンのところはこの間、帰れなくなっていたよね。

シン そう。まさに「もうすぐ寝そうだから、今は帰ってこないほうがいいよ」と連絡が来た(笑)。

―― 寝かしつけ当事者の側はそういう意見のほうが多いと思います。でも、シンさんもお子さんが大好きなのですよね。

シン 娘にぞっこんです。平日はほとんどの日が終電ギリギリで、夜触れ合える日が少ないので、朝ごはんは出来る限り一緒に食べるようにしています。お風呂も可能な日は僕が入れている。不器用なので牛乳はこぼすわ、浴室はびちゃびちゃにするわで、妻からはやらないでと言われたりすることもあるんです。確かに育児は苦手だし、イライラすることもあるけど、好きでたまらない。でも、僕の考えでは「育児は権利」。だから、できるだけやらせてほしいと言っています。

―― 純粋に好きという気持ちでやっているのですね。ヒロシさんは、お子さんの具合が悪いときは、平日に病院に連れて行っているのですよね。

絵本読み、おうちごっこ 子どもの遊びにはトコトン付き合う

ヒロシ 会社員の妻よりも僕のほうが時間の調整がしやすいので僕が病院に連れて行くことが多いです。でも、僕はシンのように「権利」だからやらせてほしい!という感じではないですね。子どもは好きだけれど、夫婦ともに育児は苦手なタイプ。それでもやらないと回っていかないから、やっているという感じです。本当に全然ダメなパパなんです(笑)

シン えーちゃんも育児をやりたいタイプだよね。

えーちゃん そう。うちは妻はもちろん、一応僕も育児が好きだから自然に育児をしている。ヒロシのところが育児苦手&苦手夫婦だとしたら、うちや、シンのところは育児好き&好き夫婦だね。

ヒロシ 僕は子どもたちはとってもかわいくて大好きなんだけど、遊ぶのは完全に苦手です。うちは5才と2才なんだけど、同じ絵本を何度も読まされるし、おうちごっこ(おままごと)もさせられる。おうちごっこでは、「さよちゃんはバブ(赤ちゃん)で、わたしはお姉さん、お父さんはお父さんね」と。こっちは「え! 普段と同じじゃない? そのコンセプトよく分からないわ」って思うんですが、でも、やるんですよね。延々と抱っこさせられたり(笑)。そういう、ロジックが通じないところが苦手です。

シン そこがかわいいのに! 僕は、同じ絵本でもいかに違う反応を引き出すかに挑戦して、あえて読み方を変えてみたりしますよ。そうするとキャラキャラ笑ってくれるのが楽しい。

ヒロシ そうなの!? 2人とも育児すること自体も好きだったんだね。本当に尊敬するなぁ。僕はやらなきゃいけないなら、いかに楽しむか、みたいな感じ。早く大きくなってもらって子どもたちと普通に話したい(笑)。
画一的な「イクメン」には違和感 各家庭で決めることでは?

―― 皆さん、寝かしつけもお風呂も遊びもバッチリされていますね。子どもを愛し、妻を愛し、実際に育児もして、と。まさにイクメンですが、イクメンという言葉をどう感じていますか?

シン これは僕個人の感じ方なんですが、子どもが生まれる前、なんでイクメンがもてはやされるのだろうと思っていました。育児をする・しない、はそれぞれの好きでいいじゃないか、と思っていたんです。

 そもそも、イクメンという言葉は、男性が家事・育児をしないものという前提で生まれた言葉という感じがします。家事・育児をする男性はかっこいいとたたえることで、社会の男性全体に参加を求めるようなニュアンスがあり、そこに違和感があるんですね。

 女性でも男性でも、家事や育児をすごくやりたい人がいればやったらいいですし、反対に仕事をやりたいという人もいると思う。色々な考えの人がいる中で、夫婦がお互いにどのくらい家事・育児をするかは、各家庭で決めればいいんじゃないかなと、僕自身は思っています。

ヒロシ 僕も個人的には同じ考え。ただし、これまでの社会を振り返ってみると、男性の育児参加が進まなくて困っている家庭がとても多かったという事情もある。だからこそ、イクメンというのは、最初は褒め言葉のニュアンスが強くて、女性の社会参画を促すためのツールとしても使われた。そういう社会的な役割はあったよね。だから、社会の負の部分に光を当てて、それを解消してくれたという意味では、イクメンという言葉に「ありがとう&さよなら」と言わなければならないですよね。

イクメンと軽く言えるほど育児ってラクではない

―― イクメンという言葉は、メジャーになった分、男性が育児をちょっとでもやったらそう呼ばれて、それでOKという軽い免罪符のようにも使われるようになりました。

ヒロシ でも、実際の育児はそんなものじゃないよね。特に新生児は、夫婦二人とも同じように当事者意識をもって臨まないと回っていかないです。24時間お世話をしないと生きられない赤ちゃんを前にしたとき、夫婦で「家事・育児はどちらの仕事だ?」となどと言っている場合ではない。1人目が生まれたときに、すごく強くこの感覚を持ちました。そして同じように感じる人も増えてきた。そうして家事・育児を男性が担うことはごく自然になり、イクメンともてはやされることが不自然に感じられるようなった。だからこそ、今は「イクメン、さよなら」の時代になってきたのだと思います。

えーちゃん 世代によっても、意識の差があるよね。シンやうちに子どもが生まれたのはまだ2年前。そのときはイクメンという言葉は下火になっていて、父親が家事・育児をやることは当たり前になってきていた。だいぶ土壌ができていたのかもしれないね。僕が父親になったころは、イクメンからさらに一歩進んだ「働き方改革」のほうが社会で取り上げられるようになったのも大きいと思う。

ヒロシ 確かにそういう時代だったね。しかも、それは今も続いている。特に大きな会社では、意思決定者が50代以上というところも多い。その中で、過去の成功体験から思考のOSが1990年代くらいで止まっている人も多い。21世紀を生きているのに、夫婦像や働き方はまだ20世紀。そういうギャップがあるから、働き方改革という言葉が必要なんだろうね。それなのに改革が進まなくて、育児や家事もやりたい男性が苦しんだり、もっと仕事をしたい女性が活躍できないでいたりする。そういうのはのはもったいないよね。

えーちゃん こんなふうに言っているけど、僕自身、現実にはギャップもあるんですよ。育児をやりたいという気持ちが、なかなか行動に出せないこともある。休日でも頭の中に仕事があって、娘と遊んでいても心はここにない、みたいなことが一時期あった。ゴロゴロしていると、「私は家政婦ではない」と妻に怒られたりもしたよ(笑)。

ヒロシ たまにそんなことがあっても、家庭が回っているならいいんじゃないかな。夫と妻が「こっちがやっているのにあっちはやっていない」と対立するのではなくて、2人で一つのチームになるのが大事だと思う。

 そうしたら、今、奥さんが育休中のシンやえーちゃんちの状況みたいに、どちらかに育児の分担が偏っていても「今はパートナーが仕事にアクセル踏む番だから」と納得できるし、「だけど、今度は交代ね」という考えも持てる。

 そういうのは、本音で話せるコミュニケーションが土台になるよね。一番大事なのは、夫婦としてのフラットな関係だと思う。といいつつ、うちはまだまだ対立しがちなので、これからそういう夫婦の関係を目指していきたい……。

えーちゃん 問題があるときって、夫婦だけで話し合って解決するのは難しい。どうしても自分の見方のバイアスがかかってしまうから。そういうときにPtoCのパパたちの存在はありがたいよね。

シン まさにこの間そういうことがあった! そのときにすごく救われました。

引用元:
新世代パパは「イクメンよ ありがとう&さよなら」(日経DUAL)