ビタミンKが大事だという話を書いたところ、SNSの反響はおおむね好意的でした。少し気になるものがあったので、今日はその誤解をとこうと思います。

赤ちゃんにビタミンK投与は必要? 止血に大切な役割


 「うちの子がケイツーを飲んだのは、退院のときと1カ月健診のときの2回だけだった」という方が複数いました。


 日本では、赤ちゃんが生まれて数回の哺乳が確立した後、ビタミンK2のシロップ薬(ケイツー)を1ml(2mg)飲ませます。生後24時間以内であることがほとんどなので、お産を終えたばかりのお母さんが休んでいる間、分娩(ぶんべん)に立ち会ったお父さんや他の家族が病院を去った頃、与えているのかもしれません。


 アメリカやイギリス・オランダの一部は、飲ませるのではなく筋肉注射でビタミンKを与えます。一般的に注射は処置室などでやりますから、いっそう家族は投与されたことを知らないかもしれません。


 日本の赤ちゃんは特になにか事情がない限り、ビタミンK2シロップは生後まもなく、退院時、生後1カ月の3回飲んでいます。


かつては4千人に1人が出血症に

 ビタミンKを赤ちゃんに予防投与する以前、1978〜1980年に日本で行われた全国調査では、乳児(1歳未満)の4千人に1人が頭蓋(ずがい)内出血などを起こすビタミンK欠乏性出血症になっていました。母乳だけしか飲まない子に限ると、母乳中には前回お話ししたとおりビタミンKが少ないので1700人に1人です。


 1989年に当時の厚生省研究班が、現在のような3回投与を「乳児ビタミンK欠乏性出血症の予防対策」として発表しました。その後、小児科学会のガイドラインも定められ、産科施設はもちろん、自宅出産などで生まれた赤ちゃんにもこの予防投与を行うべきとしています。私は日本でビタミンK予防投与が開始される前に生まれているので、自分がとても幸運だったと思います。


知り合いが大丈夫ならうちの子も?

 前回の記事への反響で一番の問題だと思ったのは、「知り合いは子どもにビタミンK2シロップを拒否して飲ませなかったけれど、なにも問題なかった。自分の子どもも飲ませなければよかった」というものです。


 ビタミンK欠乏性出血症は、予防投与をしなければ新生児(生後1カ月までの子ども)の300人に1人の割合で起こると推計されます。新生児出血性疾患での出血部位で多いのは、頭蓋内、消化管、臍(へそ)の順番です( http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/saisin_110131.pdf別ウインドウで開きます )。


 知り合いのお子さんが300人のうちの299人だとしても、自分の子どもがその出血してしまう1人になる危険性があります。大きな産婦人科病院の年間のお産は、1200件前後です。仮にその病院でビタミンK2シロップを一切与えていなかった場合、毎年4人の新生児が出血するということです。


 ビタミンK2シロップを320万人の新生児に3回投与したところ、その後、乳児ビタミンK欠乏性出血症の罹患(りかん)頻度は0.44でした( https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14517749別ウインドウで開きます )。この罹患頻度0.44というのは、10万人の赤ちゃんのうち0.44人がその病気になるということで、激減です。4千人に1人から20万人に1人未満になるということですね。


 更にその後、毎週1mgのビタミンKを生後3カ月まで投与した場合の罹患頻度はなんと、ゼロです。生後1カ月までに飲む3回とその後毎週飲むケイツー(ビタミンK2シロップ)の薬価は、286円。少額で大きな効果があります。


産後の説明は山ほど




写真・図版
イラスト・森戸やすみ

 ビタミンKが必要だというこんなに詳しい説明がなかった、初めて聞いたという方もいました。出産、育児の始まりというのは、初めて体験したり聞いたりすることがたくさんあります。


 例えば、生後4〜5日で行う先天性代謝疾患スクリーニングの説明、聴覚スクリーニングの説明、生後2カ月から始まる予防接種の話、帰宅後すぐに必要な授乳・オムツ替え・沐浴(もくよく)の指導、出産直後のお母さんはどの程度なにをしていいか・どういう食べ物がいいのかの説明、乳房のトラブルに対しての対処法、妊娠初期に抗体が低いとわかった感染症の予防ワクチンの説明、1カ月健診の際の持ち物などなど。


 お産という大仕事を終えたばかりの女性が産科に滞在している間に聞くことはたくさんあるため、個々の説明に長時間かけていられない、あるいは、詳しく聞いてもたくさんの説明の中にまぎれてしまうのかもしれません。


 本当は、生まれたばかりの赤ちゃんのもう一人の親であるお父さんが、お母さんの退院するまで滞在し、共にそういった指導を受けてくれたらベストだと思います。出産後、さっさと動けてスムーズに授乳できる女性の方が少ないでしょう。疲れや痛み、眠気を感じながらすべての説明を1回聞いただけで完璧に理解して実行できるとは限りません。


 これから妊娠や出産を迎える女性やそのパートナーにも、ビタミンKの大切さをよく理解してほしいと思います。


<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>


http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/(アピタル・森戸やすみ)


引用元:
赤ちゃんに必要なビタミンK 産後の説明、パパも聞いて(朝日新聞)