たらちね助産院院長、大坪三保子先生にお話を聞く連載。第1回は、乳児を育てているママたちには、小さなママ・コミュニティが大きな助けになるという話をうかがいました。

第2回は、大坪先生が取材中に何度も口にされた「腑(ふ)に落ちる」子育てについて考えます。



「あふれる子育て情報、ママはどれを信じれば?」悩む前に知っておきたいこと【ママの心が軽くなる「助産師さんの子育てヒント」 第2回】 

乳児ママ「5〜10人の小さなママ・コミュニティ」が居心地良い理由

世の中では「子育て支援」がうたわれているけれど、まだまだ産後の子育てに四苦八苦しているママはたくさんいるのではないでしょうか。…




「あふれる子育て情報、ママはどれを信じれば?」悩む前に知っておきたいこと【ママの心が軽くなる「助産師さんの子育てヒント」 第2回】お話をうかがったのは…
大坪三保子先生(たらちね助産院院長)

久留米大学看護専門学校、熊本大学医療技術専門短期大学助産学科卒業。たらちね助産院院長、助産師・看護師。子育て支援グループamigo顧問。母と子のウェルネス研究会幹事。『はじめてのベビーマッサージ』(保健同人社)、『安産のための体と心をつくるHappyマタニティ・ヨガDVD付』『キレイで元気なママになるHappy産後ヨガDVD付』(共に高橋書店)など著書多数。
・たらちね助産院



■「自分はなにがしたい?」あふれる子育て情報の取捨選択
──第2回はいろいろな子育て情報があふれているなかで、どうやって子育てをしたらいいかを中心におうかがいます。

大坪三保子先生(以下大坪先生):人間は不安なことがあると、最悪の事態を考えがちです。不安なことや危険なことを調べるのはいいのですが、ネットで世界中から情報が入るので、深く掘りすぎてしまう傾向はあると思います。

──不安を助長させる傾向があるということですね?

大坪先生:センセーショナルではない平凡な情報はかき消されていきますよね。わりと極端な情報がいつまでも残る傾向はあると思います。

例えば、「完全母乳」という言葉も、育児に「完全」や「不完全」があるわけではなく、学術的な調査研究の世界で、人工乳の期間を分けなくてはいけないので「母乳だけの期間(Excluseive breastfeeding)」というような使い方を最初はされていました。それが、言葉を短くした造語もできて、「私カンポじゃないんです」などと使われるようになりました。

──「完全母乳」がもともと学術用語だったとは知りませんでした。

大坪先生:その言葉が一人歩きをして、時にはお母さんたちが自分自身を責めてしまうこともあるようです。母乳で育てたい母親を支援するNPO法人ラ・レーチェ・リーグ日本では「使いません『完全母乳(完母)』という言葉〜一人ひとりの子育てに寄り添って〜」という声明を出しています。(https://llljapan.org/message04.html参照)

──言葉の影響が時に大きいということですね。

大坪先生:赤ちゃんは、お母さんが穏やかなやさしい気持ちでいてくれていることで、赤ちゃん自身もうれしいみたいです。赤ちゃん自身を見つめて微笑んでもらったり、やさしい言葉かけやなでてもらう時間や抱っこの時間が度々あったりすることで落ち着いていられます。

そのためには、情報をなにかと比べたり責めたりすることではなく、気持ちを整理することに使うとよろしいのではないでしょうか。自分が腑に落ちているかモヤモヤしているのか、まずは感じることがその後につながるのではないでしょうか。

知り得た情報を誰かと共有し気持ちを分かち合うことができれば、なお納得することに役立つのではないかと思います。

──気持ちを受けとめてもらうのは、LINEなどのSNSを通してでもいいのですか?

大坪先生:文字情報は、自分が読みたいように読む、切り取りたいように切り取る、という傾向があるので、そのことも含めて使用することが必要かもしれません。

人間はコミュニケーションをとる時、相手のジェスチャーや顔色、目などのボディランゲージを見ながら会話を成り立たせているので、やはり誰かと直接話すことは大事じゃないかしらと思います。第1回目で話したような集まりを利用するのもいいし、家族に自分の気持ちを話すなども有用だと思います。

──身近な存在である家族とコミュニケーションをとれればいいですね。

大坪先生:仲が良かった夫婦でも産後に仲が悪くなったと話す方もいますが、「あなたがやらないからじゃない」など方法を言い合って責めてもつらいですね。相手の気持ちはどうなのかと注目するだけでも理解がすすむこともあるようです。…


■授乳や排せつの回数・量「大切なのは“記録より五感”」
「あふれる子育て情報、ママはどれを信じれば?」悩む前に知っておきたいこと【ママの心が軽くなる「助産師さんの子育てヒント」 第2回】
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──育児アプリなどについてはどのように考えていらっしゃいますか?

大坪先生:育児アプリ使用されている方が増えていますね。授乳の度に記録をずっとつけていらっしゃるかたもありますね。

──授乳の回数や量、排せつなどの記録はつけた方がいいですか?

大坪先生:お子さんが病気の場合や、医師や医療従事者から「しばらく情報共有したいので」と依頼されていたらその期間は必要です。

そうではない場合は、記録よりはお母さんの感覚もとても大切だと思います。授乳の回数、時間よりは、母乳ならお母さんの飲み取られている感覚、ウンチのいつもの様子とかですね。回数や時間にとらわれていると、その事柄自体がよく見えていないことってありますよね。「どんなウンチでした?」と聞かれると答えられないとか…。

──確かに、オムツなどよく見ないでさっさと交換していました。

大坪先生:「紙オムツにしているおしっこ、どんな感じでした?」と聞くとみなさん「え?」って答えますよ。「おしっこは出ているようだけど、おむつは乾いていました」など、回数よりもぬれ心地とか、赤ちゃんの表情が大事な情報なんですね。だから、五感で感じてください、とよくお母さんにお話しています。

──目で見る以外にどうすればいいのでしょうか?

大坪先生:目でみるだけではなく、肌で感じてください。においも感じてください。赤ちゃんを五感で感じてくださいね。時々、「目の情報が多すぎるなと思ったら目を閉じてください」とお話しています。目を閉じて赤ちゃんのおなかに触れてみる、汚れたおむつのぬれ具合を触ってみるなどをしてみると、感覚がぐっと上がってきます。

──手で触れる感覚が大事だと考えて、先生はベビーマッサージをすすめられているのですか?

大坪先生:手の感覚は大事ですね。お母さんが体で感じることが大事だと思います。抱っこも縦抱きや横抱きしなければいけないわけではなく、赤ちゃんが穏やかで気持ちよさそうににこにこっとしてくれればいいのです。そういった赤ちゃんが心地いい抱き方って、お母さんが緊張をゆるめて手で感じないとなかなかできないですよね。

──初めての育児だと、なにが正解かまるで分からない状態ですが、やはり自分の五感で培っていくしかないということですね? そうすると、情報としてはどんな情報を得ていけばいいのでしょうか?

大坪先生:お母さん自身が穏やかでいれば、必要な情報が見えてきて、聞こえてくるのではないでしょうか? 極端な情報ばかり追いかけることもなくなるかと思います。

──母親が穏やかな気持ちでいることが大事なんですね。

大坪先生:自分の心と相談する。ゆっくり深呼吸してみてもいいかもしれません。そのために、誰かに気持ちを聞いてもらい、相談する。そして、自分が情報にとらわれ過ぎて赤ちゃんの表情が読めなくなったら、しばらくスマホやパソコンから離れてみるのも必要かもしれませんね。


■「ハイハイしないけど大丈夫?」赤ちゃん自身の成長する力を信じる
──それでもついつい「より良い発達・発育」を求めて情報検索をしてしまいがちです。

大坪先生:赤ちゃんには「成長しよう」という欲求があります。今、NHKの番組『みんなで筋肉体操』が流行っているそうですが、そこで紹介されている体操は赤ちゃんの動きにそっくりなものも多いんです。

スクワットが良い例ですね。つかまり立ちを始めた赤ちゃんってずっとスクワットみたいな動作をしていることがあるでしょう? 赤ちゃんの自然な欲求として、次の発達に結びつく動作を自発的にするんです。

──赤ちゃん自身が自分になにが必要かを知っているということですか?

大坪先生:ハイハイをしないお子さんもいるので、「ハイハイしないといけないですか?」と聞かれることもあります。でも、ハイハイしないで立てるようになり、歩く方法を自分で身につけていくお子さんもいます。子どもの発達は自分のやりやすいところからやるので、それを無理に妨げる必要はないと思います。

──「ハイハイしなければいけない」などと情報に振り回され過ぎず、まずはわが子を穏やかに気持ちで見守るといいのですね。今日はありがとうございました。


大坪先生が頻繁に使われている「腑(ふ)に落ちる」という言葉を辞書で調べると、腑とは、「1.はらわた。内臓。胃 2.心。心根。性根」をさし、腑に落ちるとは、「納得がいく、合点がいく」(小学館 デジタル大辞泉より)という意味を持っています。

先生がこの言葉を使われているのは、頭だけではなく、肝の部分から自分で納得していくことが、忙しく情報の多い現代社会の子育てで大切なことと伝えるためだと感じました。

引用元:
「あふれる子育て情報、ママはどれを信じれば?」悩む前に知っておきたいこと【ママの心が軽くなる「助産師さんの子育てヒント」(ウーマンエキサイト)