若い女性が痩せていることへの社会の関心が薄く、対策が後回しになっている日本。権威ある米国科学誌「Science(サイエンス)」では、日本の女性に痩せ指向が強いことによる日本人の未来を危惧する記事が掲載されました。その記事で研究結果が紹介されていた国立成育医療研究センター社会医学研究部ライフコース疫学研究室長の森崎菜穂さんに、記事に対する反響や妊婦の体重と赤ちゃんの健康との関係について聞きました。
「痩せている日本人妊婦が未来に与える影響は大きい――」。2018年8月、世界的権威のある米国科学誌「Science(サイエンス)」に、こんなショッキングな見出しが躍りました。
日本人の平均身長が縮んでいることと、小さく生まれる赤ちゃん(出生体重2500g未満)が日本で増えていることには相関があり、世界的に見て、日本の女性に痩せ指向が強いことが、わが国の将来に与える影響について報じる内容でした。
若い女性が痩せていることへの関心が薄く、対策が後回しになっている日本ですが、この記事では、国立成育医療研究センター社会医学研究部ライフコース疫学研究室長の森崎菜穂さんらの研究「低出生体重児出生率と平均身長との関係」の結果を紹介し、妊婦の痩せが引き起こす問題を危惧しています。
――「サイエンス」の記事には、健康上のリスクがある低出生体重児(出生体重2500g未満)の増加とともに、日本人の平均身長が縮んでいる――というサブタイトルがありました。日本人の平均身長が低くなっているという事実自体、驚きました。まずは、サイエンス誌の記事の反響を教えてください。
森崎さん 日本人の平均身長が低下傾向にあるという研究については、論文を発表した後にいくつかのメディアで取り上げられました。でも、サイエンス誌の記事で取り上げられた「痩せた妊婦さんが多いことから起こる心配事」に対する反響は特にありません。日本では、低出生体重児や、痩せた妊婦さんの問題に対する関心がまだ低いのかもしれません。
一方で、サイエンス誌の指摘にもあるように、日本の妊婦が痩せている要因の一つに、産婦人科の先生たちが、妊娠高血圧などの予防のために、妊婦さんの体重を増やし過ぎないようにと行ってきた体重指導の影響もあります。しかし、妊婦の体重制限が妊娠中の合併症の予防に与える効果が、長年信じられていたほどは高くないかもしれないことや、妊娠中の体重増加が足りないことのマイナス面も明らかになってきた今、体重増加制限については少し緩やかに考えるくらいがいいかもしれないと産婦人科の先生方も考え直しているようです。
身長が低いと心筋梗塞や早産のリスクが上がる
――日本人の平均身長は本当に縮んでいるのですか。
森崎さん はい。実はこの40年間、成人の平均身長は縮み続けています。日本人成人の平均身長は戦後伸び続け、1978〜79年生まれでは男性171.5cm、女性158.5cmでした。ところが、ここをピークに1980年生まれの人からは低下してきています。2014年に生まれた子どもが成人になったときの平均身長は、1978〜79年生まれの人より男性で1.5cm、女性で0.6cm低くなると予測されるのです。
1980年は、日本で出生体重2500g未満の赤ちゃん、すなわち低出生体重児が増え始めた年です。1970年代後半に5.1%だった低出生体重児の割合は、80年5.2%、2007年には9.7%(男児8.5%、女児10.6%)と2倍近くに増え、そのままほぼ横ばいで高止まりしています。
身長の約8割は遺伝によって決まりますが、残りの約2割は栄養状態や健康状態など幼少時の生活環境に影響を受けます。早産や胎児発育不良で低出生体重児として生まれた子は、成人になったときの身長が低くなりやすいことが国内外の研究で示されています。日本人の平均身長が低下しているのは、低出生体重児が増加したことが影響していると考えられるのです。
幼少期の栄養状態や健康状態により身長が伸び悩むと、成人後の健康にも影響を与えかねません。身長が低いと、高血圧、心筋梗塞や脳梗塞を発症するリスクが一般よりも高いです。お母さんが低身長の場合、早産や妊娠中の合併症が増えやすいということも国内外の複数の研究から分かっています。そして、そのようなお母さんで妊娠中の合併症が起きた場合、赤ちゃんがおなかの中で十分育たず、また低出生体重児になってしまうという悪循環に陥りかねません。
痩せ過ぎ女性が妊娠したとき、理想的な体重増加量は12kg以上
――小さく生まれる赤ちゃんが多い背景には、日本人女性の痩せ指向があるといわれます。国民健康・栄養調査(2017年)によると、20歳代の女性の21.7%、30歳代の女性の13.4%が痩せ過ぎ(BMIが18.5kg/m2未満)です。お母さんが痩せ過ぎだと、小さい赤ちゃんが生まれやすいのでしょうか。
森崎さん もともと痩せていたとしても、妊娠中にしっかり栄養を取って体重を増やせば、適切な体重の赤ちゃんが生まれる確率は高まります。私たちが日本産科婦人科学会周産期登録データベース(2005〜11年)を用いて10万4070人の妊婦さんのデータを解析した結果(*1)では、痩せ過ぎの妊婦さんの理想的な体重増加量は12.2kgでした。
厚生労働省が「健やか親子21」(2009年)で推奨している妊娠中の体重増加推奨量(9〜12kg)を基に増加体重を9〜10kgに抑えたら、適切体重の赤ちゃんを産むには体重増加が少ない可能性があるのです。理想的な体重増加量は、低出生体重児や巨大児(4000g超)の出産、早産、帝王切開などの分娩困難、妊娠高血圧腎症など複合的なリスクが最も低くなった数値です。これも前述のデータベースから算出しました(*1)。
妊娠前にBMIが18.5kg/m2未満の女性たちは、恐らく、ダイエットや体重制限が得意な人たちですから、妊娠中の体重増加推奨量が9〜12kgと指導されると、下限の9kgを目指す可能性があります。でもそこまで抑えてしまうと、もともと痩せていますから、早産になったり低出生体重児を出産したりするリスクが高まることもあり得ます。もっと体重を増やしたほうがよいのです。
低出生体重児が多い一因は妊娠中の過度な体重制限
森崎さん 日本人の女性は、妊娠中の体重増加推奨量を厳格に守る傾向があります。ハーバード大学の研究グループと協力して、米国で2009〜12年に生まれた1063万8415人(両親が日本人の赤ちゃん6171人を含む)の母親の妊娠前の体格と出生体重を分析したところ、興味深いことが分かりました。
最も平均出生体重が少なかったのが日本人の赤ちゃん(3093g)で、最も大きかったのはサモア人の赤ちゃん(3507g)でした。日本人以外の妊婦さんの体格(BMI)別の体重増加量は、日本人と体格が似ているベトナム人や韓国人を含めてほぼ同じだったのに対し、日本人の痩せ型(BMI18.5kg/m2未満)と標準体形(BMI18.5〜24.9kg/m2)の妊婦さんの体重増加量は明らかに少なく、赤ちゃんも小さく生まれていたのです。
さらに、日本人女性と白人女性の赤ちゃんだけを比較し、父親の人種を考慮して分析したところ、赤ちゃんの出生体重の差はお母さんの体格と妊娠中の体重増加量が影響していることが分かりました。
つまり、日本人の赤ちゃんに小さい傾向があるのは、人種や遺伝的な要因ではないということです。日本人の妊婦さんの体格が大きくなり、特に痩せ型や標準体形の妊婦さんの妊娠中の体重が増えれば、赤ちゃんの出生体重も大きくなると予想されます。
痩せている妊婦さんは太ってもいいの?
――痩せている妊婦さんは、制限せず体重を増やしてもいいのでしょうか。
森崎さん 英国では妊婦さんの体重は測らず、特に妊娠中の体重増加量を制限していないそうです。日本でも痩せ過ぎの妊婦さんには体重制限をしなくてもいい可能性がありますが、だからといって妊婦さんがジャンクフードばかり食べて体重が増え過ぎて、赤ちゃんが大きくなり過ぎる(4000g以上)のも問題です。
必須ビタミンやミネラルが含まれていないジャンクフードなどの食べ物を欧米では「空のカロリー(empty calories)」というのですが、それでも確かに赤ちゃんは大きくなります。しかし、青魚などに豊富に含まれるオメガ3脂肪酸やビタミンDや野菜などから摂取できる抗酸化物質が不足すると、赤ちゃんがアレルギーになりやすく脳の発達に思わしくないこと、たんぱく質が多くても少な過ぎても赤ちゃんにとってはよくないことも分かってきています。
たんぱく質や野菜もバランスよくしっかり取って体重を増やすことが大切ですし、体重を増やし過ぎないためにも、目安になる体重増加推奨量はあったほうがよいのではないかと考えています。
一方、日本人の場合、前述の日本産科婦人科学会周産期登録データベースを用いた10万4070人の解析結果で、BMI23kg/m2以上の妊婦さんは体重が増え過ぎると妊娠高血圧などの合併症の発生率が明らかに上がることも分かっています(*1)。
国のガイドラインである「健やか健康21」では、BMI18.5〜24.9kg/m2の妊婦さんの体重増加推奨量は一律7〜12kgですが、妊娠高血圧などの予防を考えると、BMI23kg/m2以上の妊婦さんの場合、体重増加量は7〜8kgに抑える必要があります。欧米人のデータを基に作られた標準体形の基準も、日本人仕様に見直す時期に来ているのではないでしょうか。
妊娠中に12kg以上体重が増えても、1年後には元の体形に
――妊娠前BMI別に妊娠中の理想的な体重増加量を教えてください。
森崎さん 前述した日本人10万4070人の妊婦さんのデータ解析の結果(*1)、早産、低出生体重児の出産、分娩困難、妊娠高血圧腎症の発生率が最も少なかった体重増加量は、BMI17〜18.4kg/m2未満の妊婦さんで12.2kg、BMI18.5〜19.9kg/m2で10.9kg、BMI20〜22.9kg/m2で9.9kg、BMI23〜24.9kg/m2で7.7kg、BMI25〜27.4kg/m2で4.3kgでした。
BMI18.5未満の痩せた妊婦さんは12〜14kg、BMI18.5〜19.9kg/m2のやや痩せ気味の人で10〜12kg、BMI20〜22.9kg/m2の人で9〜12kgは体重を増やすことが重要です。BMI23〜24.9kg/m2のややぽっちゃり気味の人は、体重増加を現状のガイドラインより抑えめにしたほうがいいだろうと考えられます。
――妊娠中に12〜14kgも体重を増やすと、産後に元の体形に戻すのが大変、と心配する妊婦さんも多いのではないでしょうか。
森崎さん 実は母乳を飲ませれば、体形は比較的簡単に元に戻るんですよ。お母さんが痩せ過ぎだと母乳も出にくくなるので、産後は少しふっくらしているくらいのほうが、赤ちゃんのためにもいいのです。
国立成育医療研究センターで、痩せ型と標準体形の妊婦さんの産後1年の体重を調査したところ、妊娠中の体重増加量を頑張って抑えた人と抑えなかった人は、お産の直前には体重が数キロ違いますが、1年後にはその差はわずか数百グラムと似たような体形に戻っていました(*2)。
この調査で、妊婦さんに妊娠中に体重制限をした理由を聞いたところ、ほとんどの人が安産や体形を戻しやすくするためだと答えました。でも、もともと痩せている妊婦さんの場合は、体重を制限し過ぎることが早産や低出生体重児出産のリスクにつながることをぜひ知っておいてほしいのです。妊娠中はしっかり栄養を取って、ある程度お母さんがふっくらすることが、健康な赤ちゃんを産むことにつながるのです。
(*1)日本産科婦人科学会周産期登録データベース(2005〜11年)を用いて10万4070人の妊婦さんのデータを解析。対象は、高血圧・糖尿病などの内科・精神科疾患の合併のない、妊娠前のBMIが17〜27.4kg/m2で在胎28週以降に赤ちゃん(双子以上は除く)を出産した初産婦。(データ: J Epidemiol. 2017 Oct;27(10):492-498)
(*2)国立成育医療研究センターで2010年5月〜2013年11月に出産した痩せ型と標準体形の妊婦さん1691人(初産婦)の妊娠中の体重変化と体重制限をした理由、体重制限と低出生体重児出産リスクや妊娠合併症との関連、産後1年の体重などを調査。妊娠中の体重増加量が9kg未満でも12kg以上でも、ほぼ妊娠前の体重に戻っていた。(データ: Sci Rep. 2018 Aug 1;8(1):11574.)
文/福島安紀 図/平拓哉
引用元:
日本人の平均身長低下と女性の痩せ指向との相関関係(日経ウーマンオンライン)