夫婦3組のうち1組は、不妊に悩んでいる

「いま、うちの嫁が不妊治療中でしてね、結構イライラしてて困ってるんですよ」という話を聞くことがある。

しかし、不妊となる原因の半分は男性由来だとご存じだろうか? ED(勃起不全)、無精子症といった言葉を聞いたことのある男性は多いものの、「まさか俺が」と思っている方が大半だろう。

しかし、男の不妊はよくあることなのだ。

国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、全夫婦のうち、不妊を心配した、あるいは悩んだことのある夫婦は35%にもなる。つまり3組に1組の夫婦は「子供ができないかもしれない、できなかったらどうしよう」と悩んだことがあるのだ。

また、実際に不妊治療を受けている夫婦の割合は、同調査によると18.2%。不妊治療は決して「誰かの問題」でもない。

いまこれをご覧になっているあなたが未婚者だとしても、数年後には当事者になっているかもしれないのである。

不妊の原因のうち半数は男性由来

また、不妊といえば「女性の問題」だと考える方も多いだろう。しかし実際には、不妊の原因の半数は男性由来である。不妊の原因が男性のみ、あるいは男女ともにあるケースは48%。であるにも関わらず、男性不妊に関する情報は少ない。

そこで今回は不妊治療に詳しいHealth&Rights Inc.の代表、吉川雄司さんからお話を伺った。吉川さんは日本が不妊大国であることを憂慮し、会社員から独立起業した。最近では男性向け不妊マニュアルを期間限定で無償提供するなど、不妊治療の啓蒙へ力を注いでいる。

吉川さん:男性不妊への理解が進まない理由のひとつには、男性向け資料の不足があると考えています。たとえば子供ができないと悩んだ男性が「不妊治療」で検索したとします。資料はたくさんでてきますが、どれも女性向けに作られているんです。

――女性向けというと、具体的には?

吉川さん:女性がそういったものを好むとは限らないと理解していますが、感覚的な表現が多いんです。お花やハートの絵が並んでいて、数的データより共感できそうな事例がたくさん載っている、そういう資料が多いんです。

数的データは国立社会保障・人口問題研究所にも掲載こそされているものの、こちらは堅すぎて読み取りが難しい。男性向けの、ちょうどいい資料がないんです。あまりにもないので、#夫の不妊バイブル というハッシュタグで僕自身が資料を作ってしまったくらいです。

――たとえば、男性不妊においてどういった誤解が多いと思いますか?

吉川さん:たとえば「精子が少なかったら終わりだ!」という誤解でしょうね。男性不妊の原因は、(1)精子の量、(2)精子の運動率、(3)精子の奇形率などで査定できます。しかしたとえば検査の上で精子の量が少なかったからといって、ダメなわけではないんです。

受精へ至れる精子の量や質は、一部のケースを除けば生活習慣を見直すだけで数か月もあれば改善できます。それが「精子がダメだから、もう俺はダメだ」と男性としての自信まで失ってしまいそうになるから、受診への腰も重くなるのだと思います。

――確かに、精子の状態が生活習慣で改善できるとは意外でした。たとえばどんなことをすれば、改善できるのでしょうか?

吉川さん:症状が重度でなければ、タバコやお酒を控えたり、適度な運動をしたりするだけで結果が出ることも少なくありません。実際に僕自身も、精子の運動率を改善することができたんです。

男性が迷っているうちに何十万円も無駄になる

また、男性が不妊治療から遠ざかる理由の2点目に「産婦人科への距離感」があると吉川さんは語る。

吉川さん:産婦人科って、そもそも「女性の病院」という意識が男性にはあります。病院へ行って、女性に囲まれて「なに、この人」という目で見られるなんていたたまれないですよね。さらに精子の採取があるなら、そこで変な部屋へ入れられて、精子を出さなきゃいけないのか……と思うだけでも憂鬱になります。

――不妊治療は必ず産婦人科へ行かなくてはいけないのでしょうか?

吉川さん:いいえ。男性の場合は泌尿器科でも「精液検査」はできます。しかし、不妊治療には5つのステップがあり、最初のステップである「不妊基本検査」は産婦人科や不妊専門クリニックで受けるため、最初のステップは奥様だけが参加することも多いです。しかし、最初から旦那さんが参加していればお金を節約できたというケースが少なくありません。

<不妊治療の5つのステップ>
1. 不妊基本検査…妊娠に関係する機能を検査し、原因と特定する
2. タイミング法…いつセックスすべきか、時期を医師が提案する
3. 人工授精…精子を直接子宮内へ注入し妊娠へ導く
4. 体外受精…排卵前に体外へ卵子を取り出し精液をかける
5. 顕微授精…精子を1匹吸引して、卵子の細胞質内へ直接注入する

――これを見ると、タイミング法までのステップでは、男性が参加しなくてもよさそうですね。

吉川さん:そう考えてしまいますよね。しかし、もし不妊の原因が男性側にあった場合、いくらタイミング法を頑張っても効果は表れなかったりします。また精子の状態によっては選択すべきステップや治療方法が異なります。

しかし男性側が最初に検査をしなかったために、「何度も病院へ通ってついに人工受精となったところではじめて旦那さんが検査に応じ、実は男性由来だとわかった……」というケースが多いんです。

しかしそれまでのステップでも何万円、何十万円という費用がかかります。男性が参加すべきか迷っているうちに、お金が無駄になってしまうかもしれないんです。

さらに受診には待ち時間も含めると何時間もかかりますから、女性は会社を早退したり、休まなくてはならなくなります。その分働けた賃金も考えると、損失はさらに増えてしまうんです。

――男性が最初から不妊治療へ参加していれば、男性由来と分かった段階で適切なステップや治療法を選択できるから、総費用を減らせるわけですね。

吉川さん:そういうことです。

簡単になった精子の測定

ただ、男性へ「頑張れ!」というだけでは産婦人科や泌尿器科へ行く心の障壁は取り除けない。そんな方のために、最近はアプリも登場した。

Seem(シーム)は、スマホのカメラ機能を使った精子のセルフチェックアプリだ。キットを購入すれば自宅で簡単に精子の濃度と運動率を測定できる。産婦人科へ行くのに抵抗がある男性も、これなら気軽に測定できるという。

吉川さん:お酒を控えたり、ジョギングするだけで精子の運動率って結構変わるんですね。こういう数字で成果が出るアプリがあると、男性は動きやすいと思います。

詳細にわたる正確なデータは、病院で検査するのが一番だ。しかし身近なキットがあるだけでも、男性にとってうれしいニュースだろう。
意外な「あの行為」が精子をダメにする

さて、精子を活発化させる習慣や、計測する方法については教わった。そこで最後に精子をダメにする悪い習慣について、吉川さんからうかがった。

吉川さん:基本的には、股間を温める行為がダメとされています。代表的なものがサウナですね。熱いお風呂も同じ理由で控えていただければと思います。

布で覆われると熱がこもってしまうので、ブリーフの方はトランクスへ変えていただいて玉を温めないようにしてほしいですね。また、意外な話だとパソコンを膝に置いて仕事をするのも精子に悪いとされています。

――パソコンを膝に置くだけでもダメなんですか?

吉川さん:陰のう、つまり玉の温度が1℃でも上昇すると、精子の運動率は下がってしまうんです。過去の研究で、ノートパソコンを膝に1時間置いて作業をすると、陰のうが平均2.1℃上昇するとわかりました。あくまで可能性としてではありますが、避けた方がよいでしょう。

最後に、自慰を我慢しないこと。古い精子は新しい精子を痛めつけてしまうので、我慢せず自慰をしたほうが精子の健康にはよいとされています。男性は我慢すると「渾身の一発が出る」という考えをしがちですが、それは違うよ、と付け加えておきたいです。

ブリーフよりトランクス、くらいは知られていても「膝の上にパソコンを置く」ことまで禁止事項にあるとは知らなかった男性も多いだろう。善は急げ、この記事が今からでも習慣を見直して、男性不妊を防ぐきっかけになればと願っている。

【参照】
・国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」 
・不妊と妊活の現状(1) 将来、理想の数だけ子どもを授かるために知っておきたいこと
・浅田レディースクリニック 男性不妊
・Seem - スマホでできる、精子セルフチェック
・ひざ上のパソコン使用で、精子の質低下する可能性=米研究 

引用元:
知られざる男性不妊、実は「あの行為」が妊娠を阻んでいた可能性(現代ビジネス)