前々回までビタミン剤の悪口ばかり言っていましたので、ここらでバランスを取ります。基本的に、現代日本で偏食なく食事をとっていればビタミン不足になることはなく、サプリメントは必要ありません。ですが、例外もあります。
ビタミン剤「たくさん取れば健康になる」という誤解
内科医・酒井健司の医心電信
葉酸というビタミンBの仲間があります。DNAを合成するときに必要な栄養素で、不足すると細胞分裂が盛んな組織で障害が起きます。内科医が診る代表的な葉酸欠乏症は貧血です。造血幹細胞が細胞分裂して赤血球に分化していく過程で障害がおき、赤血球の数が少なくなります。鉄欠乏性貧血では赤血球のサイズが小さくなるのに対し、葉酸不足による貧血では赤血球は大きくなります。
細胞分裂といえば、受精卵から胎児になり新生児に成長する過程でも細胞分裂が盛んに起こっています。葉酸が不足すると、脳や脊髄(せきずい)のもとになる神経管の成長に障害が起き、赤ちゃんに二分脊椎(せきつい)や無脳症といった「神経管閉鎖障害」という先天異常が起きることがあります。
葉酸はレバーや緑黄色野菜に豊富に含まれており、適正な食事をしていれば1日あたり0.4ミリグラムの葉酸を摂取できます。妊娠の可能性のある女性は栄養バランスのよい食事をとるのが望ましいのは当然のことですが、個々の事情で理想通りにはいかないこともあるでしょう。また、葉酸は水溶性で一度にたくさん摂取しても尿中に排泄(はいせつ)され、体の中にたまりません。毎日の摂取が必要です。
海外の研究では葉酸のサプリメントが神経管閉鎖障害のリスクを下げたことが示されており、米国予防医学専門委員会(USPSTF)は妊娠を予定している、あるいは、妊娠しうるすべての女性に対し、0.4〜0.8ミリグラムの葉酸を含んだサプリメントを毎日摂取することを推奨しています。
日本においても、厚生労働省の通知で「いわゆる栄養補助食品から1日0.4ミリグラムの葉酸を摂取すれば、神経管閉鎖障害の発症リスクが集団としてみた場合に低減することが期待できる旨情報提供を行うこと」とされています。米国が「サプリメントを摂取すること」を直接的に推奨しているのに対して、日本では「情報提供を行うこと」だけで、サプリメントを摂りましょうとは言っていないのは、お国柄なのでしょうか。
神経管閉鎖障害が起きるかどうかは妊娠の初期に決まってしまうので、妊娠がわかってからあわてて葉酸を摂取するのではなく、妊娠する可能性がある女性は前もって摂取するのがよいでしょう。たくさんとればとるほど良いわけでないので、用量を守ってください。
<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>
http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)
アピタル・酒井健司
アピタル・酒井健司(さかい・けんじ)
内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。
引用元:
葉酸サプリは妊婦にお薦め 妊娠初期を大切に(朝日新聞)