夫婦6組に1組が不妊に悩み、原因のほぼ半分が男性にあるにもかかわらず、男性側の意識は低い。そんな中、不妊治療の成功率を上げようと、精子の影響を調べる検査が注目され始めた。

  当事者意識

 世界保健機関(WHO)は、男性不妊かどうかの目安を定めている。精子の機能面など六つの検査項目のうち、一つでも基準値を下回ると、自然妊娠が難しくなるとする。

 順天堂大浦安病院(千葉県浦安市)泌尿器科教授の辻村晃さんは2014年10月〜17年9月、外来診療を行う「メンズヘルスクリニック東京」(東京都千代田区)で、結婚を機に子を持つことを考え始めた男性564人(21〜66歳)の精液を採取した。

 精液量、精子濃度、精子がどれだけ活発に動くかを示す運動率の主要3項目を調べたところ、全体で25%、20〜30歳代でも19%に、基準値を下回る項目が一つ以上あったという。

 一方、厚生労働省研究班が不妊治療に取り組む男女333人に行った16年の調査では、女性の検査結果が分かるまで、精液の検査を受けなかった男性は47%に上った。男性の当事者意識の低さがうかがえる。

 日本では体外受精で50万人以上が誕生しているが、16年に行われた体外受精での出産率は、女性の全年齢平均で11.7%だった。

  こぶの有無

 独協医大埼玉医療センター(埼玉県越谷市)病院長で泌尿器科医の岡田弘さんは「不妊治療は男女両方が主役。体外受精の成功率を少しでも上げようと、卵子だけでなく、精子の中身を見る検査が注目されている」と指摘する。

 その一つが、精子のDNAがどれだけ損傷しているかを示すDNA断片化率(DFI)。高いほど精子の状態は悪く、岡田さんの研究によると、自然妊娠できる目安は22%以下だ。

 精子にダメージを与える活性酸素と、これを抑える抗酸化物質のバランスを示す酸化還元電位(ORP)も、数値の高さが精子の状態の悪さを示す。他の指標を調べることもある。

 同センターの泌尿器科医・岩端 威之 さんによると、状態を改善するにはまず、精巣の周囲に精索静脈瘤と呼ばれるこぶの有無を確認する。あると精子の状態を悪化させるため、手術で除去することを検討する。

 こぶがないか、あっても小さい場合は、抗酸化物質のコエンザイムQ10やビタミンによる内服治療で改善を図る。禁煙や適度な運動など、生活習慣の見直しも効果が期待できる。

 埼玉県の男性会社員(39)は5年前に妻(32)と結婚。17年1月に同センターでDFIを調べたところ、50%と状態はかなり悪かった。岩端さんのもとで内服治療を2か月続けると、DFIは23%にまで改善した。

 自然妊娠が可能な状態に近づいたが、顕微授精で妊娠に成功。近く女の子が生まれる予定だ。「まさか自分の精子に問題があったとは」と、この男性は話す。

 DFIやORPの検査費は1回1万〜4万円程度。検査を行う医療機関は全国で数か所とまだ少ない。日本生殖医学会が認定する生殖医療専門医で、男性不妊を手がける泌尿器科医が学会のホームページに紹介されており、参考になる。

引用元:
男性不妊 精子の状態検査…手術や内服治療で改善(ヨミドクター)