化学研究所(理研)は2018年9月18日、理研AIP-富士通連携センター、昭和大学と共同で、AI(人工知能)を活用して、胎児の心臓異常をリアルタイムに自動検知するシステムを開発したと発表した。早急に治療が必要な重症かつ複雑な先天性心疾患の見落としを防ぎ、早期診断や綿密な治療計画の立案に寄与することが期待される。

 正常胎児の心臓は構造に個体差が少なく、心臓の同じ位置に同じ弁や血管などの部位が存在する。研究グループでは、超音波画像中に映る複数の物体の位置・分類を高精度で判別できるAI技術「物体検知技術」に着目。正常データの画像中に映る部位に名前や位置を注釈として付与(意義づけ)し、この教師データで学習した物体検知技術を用いて、検査対象の超音波画像から心臓の部位を検知した。

 具体的には、まず、検査中に超音波プローブが当てられている位置を推定し、検査画像に「映っているべき」心房、心室などの心臓の部位を提示する。次に、教師データで学習済みの物体検知技術によって、検査画像に「実際に映っていた」心臓の部位を検知する。前者と後者を比べ、相違がある場合には異常と判定する。胎児超音波画像には陰影が入りやすく、不完全なデータとなるが、この技術により少量のデータや不完全なデータであっても、的確に予測できる異常検知が可能になる。

 この手順を利用して、超音波検査の動画上に映るべき胎児心臓と周辺臓器の各部位が実際に映っているかを「確信度」として高速に算出し、検査画面上にリアルタイムで表示する「胎児心臓超音波スクリーニングシステム」を開発した。確信度は、予測に対して、AI自身がどの程度確信を持っているかを示す。

 さらに、各部位について確信度の累積・時間経過をレポートし、各部位の確信度を一覧表示する新しい検査結果表示システムも開発。動画全体での各部位の検知具合を一度に確認できる。どの部位が異常判定に影響したのかを一覧表示で把握・説明することも可能で、先天性心疾患を推定し、検査者が超音波専門医や小児循環器内科医、小児心臓血管外科医に相談する際に有用だという。

 今後は、昭和大学病院の産婦人科で実証試験を本格的に進め、数十万枚の胎児超音波画像を追加取得してAIに学習させることで、スクリーニング精度の向上・実証と検査対象の拡大を図る。2020年度までに富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」へ適用するなど、早期の社会実装も目指す予定だ。

引用元:
AIを利用し、心臓異常をリアルタイムに検知する胎児心臓超音波スクリーニング(MONOist)