女性の大敵「乳がん」、あなたは大丈夫?

 乳がんは、女性にとって大敵のがんです。

 「がん情報サービス」によると、乳がんの罹患数(1年間に“新たに”乳がんと診断される人の数)は7万人を優に超えており、女性のがんの中で断トツになっています。

 そして、2015年の年間死亡数は1万3584人(5位)に上ります。乳がんは、罹患数、死亡数ともに一貫して増加傾向にある、要注意のがんです。

 そして実は、がんの中でも少し変わった一面を持っています。

 通常、がんのリスクは加齢とともに上昇します。ところが乳がんの場合、40代後半でいったんピークを迎え、その後60代後半から減少し始めるのです。

 女性ホルモンが乳がんの発症を促進する方向に働くので、加齢によって閉経するとむしろリスクが減少していくのです。

男性が乳がんにかかることもありますが、乳がんは圧倒的に女性に多い病気です。そして、一般的にがんのリスクが低いはずの30〜40代という比較的若い世代であっても、乳がんを発症するケースはまれではありません。小さい子どもがいる場合も多いでしょうから、若年発症は本当に深刻な問題です。

 そんな乳がんのリスク因子には何があるのでしょう。

 女性の場合、閉経前後にホルモンバランスが変化するので、リスク因子の強さは流動的で複雑なのですが、ここでは大局的な分かりやすさを優先し、簡略化して解説します。

がんの中でもピークの波が特異な乳がん 閉経後はリスク減少

乳がんのリスクは三つのグループに分けられます。グループ1は「生活習慣」です。乳がんでは数少ない、自分でコントロールが可能な部分です。運動やアルコール摂取などが関わってきます。グループ2は「個人の体質」で、なかでも乳がんの家族歴は影響力の強い因子です。

 そしてグループ3は、「子育て」に関するものです。この因子は、現在日本が置かれている状況のために、影響力が高まり続けています。それは何かというと「少子化」です。

 日本の女性の未婚化、晩婚化は増加の一途にあり、それに伴って出産経験や授乳機会が減り続けています。乳がんが増加する背景には、女性のアルコール摂取量の増大や食生活の欧米化など、複数の因子が関与していますが、少子化の影響も相当大きいでしょう。

 少子化というと、どうしても社会保障や国際競争力の弱体化など、社会的な側面が先にクローズアップされますが、女性の体に与える影響についても、私たちはもっと意識的であるべきです。

検診を受けても乳がんを見逃されることがある

 冒頭で解説した通り、乳がんは加齢とともにリスクが減る数少ないがんの一つです。

 この点は、がん検診の是非を問う上でプラスに働く、とても重要なポイントです。

 あくまで一般論ですが、高齢になるほど、がん検診を受ける意義は減っていきます。検診で、寿命に関係しないがんが見つかることもあります。かなりの高齢であれば、がんを見つけたとしても手術などの治療に体が耐えられない可能性もあるでしょう。何歳になっても徹底抗戦を望む、というわけでなければ、目を皿のようにしてがんを探す必要はありません。

 一方、乳がんの場合は話が別です。乳がんは、40代後半でいったんピークを迎え、その後60代後半から減少し始めます。

 若い女性ががんで命を落とすのは、本人はもとより、その家族にとっても何としても避けなくてはいけない悲劇です。さらには少子化にあえぐ日本にとっても、甚大な損失です。

 若い世代の女性の健康を守るために、乳がん検診を積極的に行うことには異論が出にくい。そして、その要注意期間は40〜60代と比較的短い間で済みます。その期間に医療資源を集中的に投下したとしても、十分に許容されるのではないでしょうか。

 ただし、その際に前提になるのは、採用しているがん検診が「方法として適切なのか」という点です。ここが近年、若干揺らいでいます。

 どういうことかと言うと、乳がん検診を受けていたにもかかわらず、乳がんを早期の段階で見つけることができなかったというケースが見受けられるのです。

 本当に乳がん検診に意味があるのか、という問題提起がなされ始めています。

 一体、現状で何が足りなくて、今後はどうすればいいのでしょうか。

現在、乳がん検診として行われている主な画像検査はマンモグラフィーです。

 マンモグラフィーは、機械で乳房を挟み込み、レントゲンを当てることによって乳がんの有無を診断するという検査です。簡便で比較的安価だし、世の中に広く普及していて、蓄積されているデータも豊富です。

 検査することにより、乳がんの死亡率を減らすというエビデンス(科学的な証拠)があるのは、現状ではマンモグラフィーだけです。そのため自治体の健診ではマンモグラフィー以外は原則的に認められていません。

 ただし、これは必ずしもマンモグラフィーがベストだということを意味しているわけではありません。残念ながらいくつかの弱点があるのです。

 まず、乳房を強く挟み込んで検査をするので、時に強い痛みが生じます。検査が不快であれば定期的に受けようというモチベーションが下がってしまいます。この点は、健康な人が自発的に受けるというがん検診の性質上、一つのマイナスと言えるでしょう。

次に医療被曝(ひばく)をするという点です。被曝量は決して多くはないので、原則的には問題になりません。ただし一つだけ注意点があります。それは、BRCA1/2遺伝子変異を持つ人たちです。この乳がんのリスクが非常に高いグループに関しては、マンモグラフィーによる被曝が発がんを助長する可能性があるのです。

 そのため、30歳未満の場合は避けるべきと報告されています。自治体の健診で乳がん検診の対象が30歳未満となることはありませんが、仮にあなたが30歳以上でも、近親者に乳がんにかかった人がいる場合は、検査を担当する医療者にきちんと伝えるようにしてください。


引用元:
女性罹患数 断トツの「乳がん」3つのリスクを解説(日経ウーマンオンライン)