いわゆる「ペットボトル症候群」とは、糖分が含まれている甘い清涼飲料水を大量に摂取することで血液中のブドウ糖やケトン体と呼ばれる成分が異常に高くなり、意識レベル低下、口渇、多尿、倦怠感、腹痛、嘔気などの症状を引き起こす病気です。「急性の糖尿病」と説明されていることもあります。

ホウレンソウはやっぱり食べ過ぎないほうがよいらしい
内科医・酒井健司の医心電信

 糖尿病は自覚症状が出にくく、血糖値が少し上がったぐらいでは自分ではわかりませんが、さらに血糖値が上がると、尿量の増加、口渇、飲水量の増加といった症状が出てきます。ブドウ糖が尿中に排泄されるときに水分も一緒に排泄されるため、おしっこの量が増え、体の水分が不足し、のどが渇くのです。

 のどが渇いたからと甘い清涼飲料水を飲むと、さらに血糖値が上がり、尿量が増え、のどが渇いて、再び清涼飲料水を飲むという悪循環に陥ります。糖尿病では、血液中の糖分をエネルギーに変えるインスリンというホルモンがうまく作られません。すると体は糖分を利用できなくなるので、血糖値は上昇したままになり、代わりに脂肪を分解してエネルギーを得ようとします。そのときに生じるのがケトン体です。ペットボトル症候群の別名は「ソフトドリンクケトーシス」と言いますが、ケトーシスとは高ケトン血症のことです。

 ペットボトル症候群は、もともと糖尿病があったところに、大量の糖分の摂取をきっかけにして血糖値やケトン体の増加という代謝の異常を起こしたわけで、急に糖尿病が発症したわけではありません。何年も前から糖尿病を指摘されていたり、治療中だったりした患者さんがペットボトル症候群を発症することもよくあります。「急性の糖尿病」というより、「糖尿病における急性代謝失調」と言ったほうがより正確でしょう。

 ペットボトル症候群とはまったく別に、「劇症1型糖尿病」もあります。自己免疫が原因でインスリンを産生する細胞が壊れ、自覚症状が出て1週間以内にケトン体が生じるほどの急激な経過をたどる糖尿病です。「急性の糖尿病」と聞いたときに私がまず連想するのは、ペットボトル症候群ではなく劇症1型糖尿病です。

 劇症1型糖尿病の治療にはずっとインスリンが必要ですが、ペットボトル症候群は初期治療を除けばインスリンは不要になることが多いです。ただし、糖尿病そのものは治りませんので食事療法を続ける必要はあります。自覚症状が改善したからと油断して甘い飲み物をたくさん飲むと、再びペットボトル症候群を起こします。

 これから暑い季節になってきます。糖尿病の患者さんはもちろんのこと、そうでない人も糖分が多い飲料を大量に飲むのはお勧めしません。甘い飲み物はあくまで味を楽しむための嗜好品で、水分補給には向いていません。出かける時にも水やお茶を水筒で持ち歩くなどしましょう。汗をかいて喉が渇くのは正常ですが、おしっこがたくさん出たり、体が異常にだるかったりしたときは、医療機関にご相談してください。


引用元:
夏はペットボトル症候群にご注意を(朝日新聞)