子宮頸(けい)がんの原因となる「ヒトパピローマウイルス(HPV)」の感染を予防するワクチンについて、厚生労働省が接種の積極的勧奨を中止して今年6月で5年となるものの、再開の可否に向けた結論は出ていない。この間、接種者が「障害が出た」と次々と裁判に訴えているが、症状と接種との因果関係は未解明だ。一方で70%以上あった接種率が1%未満まで激減し、子宮頸がん患者の増加を危惧する声も。国に明確な方針を求める訴えもあり、混迷が深まっている。

苦しむ女性

 「今も現在進行形で苦しんでいる。何よりも早く、治療法を見つけてほしい」

 子宮頸がんワクチンをめぐる訴訟の原告の一人である久永奈央さん(20)は5月、東京都内で開いた記者会見でそう訴えた。中学の頃にワクチンを接種後、体に痛みなどの症状が現れ、ひどい倦怠(けんたい)感と脱力は今も抜けない。外出時などには車椅子が手放せない状況だ。接種後の健康被害を訴え、国などに賠償を求める訴訟を起こしている人は現在4地裁で計123人にのぼる。

厚労省の有識者検討会は平成26年、接種後の症状について、接種時の痛みや不安などが影響を及ぼした「心身反応」との見解を公表。28年には同省研究班が「非接種者にも痛みやしびれなどを訴える人が一定数いた」との調査結果を出したが、健康被害を訴える患者らは「症状が全然違う」と反発した。

 「接種後に現れた多様な症状は他国でも報告されている。だが『心の問題』などとされ、適切な治療をしてもらえないケースは多い。もっと真摯に患者の声に耳を傾けていくべきだ」。神経内科医で薬害オンブズパースン会議副代表の別府宏圀(ひろくに)さんはそう指摘する。

「女性を危険にさらす」

 一方、ワクチン接種は世界保健機関(WHO)が推奨し、海外では普及が進む。公費助成などで接種が受けられる公的接種となっているのは現在約80カ国。接種率が約9割にのぼるスコットランドでは、20代女性のHPV感染率は接種者が4・5%で、未接種集団の感染率30%に比べて大幅に低下したとの研究結果も報告されている。

 WHOの諮問委員会は勧奨中止後の日本に対し、「若い女性をHPVによるがんの危険にさらしている」と批判している。

国内の医師らも危機感を募らせており、日本産科婦人科学会は6月23日、5回目となる勧奨再開を求める声明を発表。藤井知行理事長は「ワクチンの安全性はすでに確認されているのに、勧奨がなされず接種がない状況が続けば、先進国の中で日本においてのみ子宮頸がんが残ることになる。多くの女性が子宮を失ったり、命を落としたりする不利益を被ることになりかねない」と語る。

安心安全を

 厚労省は今年1月、ワクチンに関するリーフレット(改訂版)を公表した。そこでは、接種により10万人当たり595〜859人が子宮頸がんになることを回避できると推計。昨年8月末までに報告された「副反応の疑い」は10万人当たり92人だったとも記した。

 「科学的にどこまで分かっているか、情報提供を続けることが大事」。厚労省幹部はそう語り、接種の判断を個人に委ねる。

 だが、困惑の声もあがる。子宮頸がん検診の啓発に取り組む「シンクパール」代表理事の難波美智代さんは30代の頃、何気なく受けた検診で子宮頸がんが見つかり、子宮を全部摘出するという決断をした。

難波さんは「今は『子宮頸がんはどんな病気か』『予防法はあるのか』という信頼できる情報を女性たちが入手し、考えることすら難しい状況にある。安心安全に子供を産み育てられるよう、国は接種に関する明確な方針をしっかりと決めてほしい」と話した。



 

子宮頸がんワクチン 性行為によるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐ効果があるとされる。筋肉注射で3回接種。国内で年間約1万人がこのがんを発症し、約2700人が死亡。平成22年度に公費助成が開始され、25年4月から、小学6年〜高校1年を対象に市町村が実施する定期接種とした。だが、接種後に体の痛みなどの報告が相次ぎ、同年6月、接種の積極的な勧奨が中止された。


引用元:
子宮頸がんワクチン「勧奨中止」から5年、接種率1%未満に激減 方針明確化求められる国(産経ニュース)