厚生労働省は6月26日、臓器移植後の拒絶反応などを抑える免疫抑制剤について、妊婦が使っても安全性に問題はないとして、薬の添付文書で服用・投与を避ける「禁忌」の対象から妊婦を外すよう、製薬会社に求めることを決めた。国立成育医療研究センター(東京)の「妊娠と薬情報センター」が進めてきた調査が大きな役割を果たした。

 今回、妊婦の使用が認められるのは「タクロリムス」「シクロスポリン」「アザチオプリン」という3種類の薬だ。妊娠中でも臓器移植の経験者は服用が必須で、 膠原こうげん 病の重症患者なども使い続ける必要があることが多い。

 薬の開発段階の試験では、妊婦を対象として安全性を調べることは難しく、製薬会社は添付文書で禁忌とする必要があった。しかし、海外を中心に妊婦の使用実績が蓄積され、そうした研究データを詳しく分析した結果、免疫抑制剤の使用で流産や胎児への悪影響が増える恐れはないとの結論がまとまった。

 医療現場は、国のお墨付きを歓迎する。藤田保健衛生大学教授の剣持敬さんは「関連学会は既に妊娠時も使用可能と指針に盛り込んでいたが、禁忌とする添付文書とのギャップに不安を感じる妊婦は多かった。禁忌から外れる意義は大きい」と話す。



 厚労省が今回判断の根拠としたのは、妊娠と薬情報センターがまとめた調査だ。同センターは、妊娠中に使った薬の影響を心配する妊婦の不安解消に役立つ情報の収集と発信を目的に、2005年に開設された。現在は、専門の医師、薬剤師計5人が担当する。

 同センターは約2年かけて免疫抑制剤に関する国内外の論文や指針など約2万件のデータなどを集め、分析した。添付文書改訂は、こうした取り組みの成果が、薬事行政に直接反映される初めてのケースだという。

 同センターは、臨床現場の医師や妊婦らからの相談にも積極的に応じ、その声を貴重な情報として生かす。全国の医療機関の協力を得て、同様の窓口を全47都道府県に設置し、相談内容を集約する。これまでの相談件数は累計で約1万3000件に上る。

 相談から明らかになったのは、薬に関する正しい知識を普及させる重要性だ。

 同センターは2005〜16年、相談に訪れた妊婦に対し、薬の影響で赤ちゃんに先天的な病気が起きる確率がどのぐらいだと思うかを質問した。

 相談前に質問すると、681人の回答者全員が薬による影響があると考え、赤ちゃんに病気が起きる確率は「16〜50%」とした。だが、薬を服用しなくても、3%で何らかの病気が起きると説明した後、改めて尋ねると「2〜11%」に減った。

 同センター長の村島温子さんは「妊婦は、薬が赤ちゃんに与えるリスクを過大に見積もる傾向がある。実際は悪影響の心配はないのに、人工妊娠中絶を選んでしまう人もいる。科学的な根拠に基づき、正しい知識を伝えていきたい」と話している。

  <膠原病>  体内に入った病原体や異物を排除する機能「免疫」が暴走し、自分の臓器や組織を攻撃することで起きる。腎不全や心膜炎などにつながることもある全身性エリテマトーデス(SLE)などが知られている。SLEの患者は約6万〜10万人とされ、若い女性が多い。日光や妊娠・出産などが発症の引き金になる。

薬をかえて無事に出産

 臓器移植後、拒絶反応を抑える免疫抑制剤を服用しながら、妊娠・出産を経験した女性に話を聞いた。

 愛知県の主婦(44)は小学6年の時、1型糖尿病と診断された。血糖値を下げる「インスリン」というホルモンを分泌する 膵臓すいぞう の機能が低下する病気だ。

 インスリンを注射で補充する治療を続けたが、糖尿病の合併症で腎臓の機能が悪化した。29歳で腎臓、39歳で膵臓の移植を受けた。

 その後結婚し、妊娠・出産を考えるようになった。膵臓の移植手術を手がけた医師に相談した結果、免疫抑制剤を安全性が高いとされる種類に変更し、無事に長女を産んだ。

 女性は「妊娠中は、薬がおなかの赤ちゃんに影響しないかと不安になりやすい。国が安全とお墨付きを与えてくれると安心できる」と話す。

 日本移植学会によると、臓器移植後に免疫抑制剤を使って妊娠・出産した女性は600人以上いるという。


引用元:
免疫抑制剤 妊婦も容認…2年で2万件 地道に分析(読売新聞)