親が育てられない子を匿名で託せる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を運営する熊本市の慈恵病院が、内密出産制度の私案をまとめた。仮名で出産した親の情報を児童相談所で保管し、成長した子に開示する仕組みだが、子の戸籍作成の手続きなどを巡っては課題があり、識者は「導入には法整備が必要だ」と指摘している。

 ゆりかごは2007年に開設。10年間で130人が預けられ、16年度末時点で、うち26人の身元が判明していなかった。また、62人は医師らの立ち会いがないまま自宅などで生まれ、母子の命の危険性が指摘された。同病院は、母子の安全と出自を知る子の権利を守る仕組みとして、ドイツの制度を参考に私案をまとめた。

 私案は、▽熊本市児童相談所が母親の個人情報を把握し、母親は同病院で仮名で出産▽同病院は母親の実名を記さずに市に出生を届け、市長は親が不明な遺棄児と同様に戸籍を作成▽子は18歳になると、児相で親の情報を閲覧できる――ことが柱。同病院は「個人情報は公的機関が扱うのが妥当」として市の関与を求めており、市は法的な課題や子の成長過程への影響などを検討する方針だ。

 戸籍法は、出生届に父母や子の名前を記載するよう義務づけている。遺棄児の場合、保護された場所の市町村長が子の名前を決めて届け出るが、法務省は「親が分かれば、親の名前を記すことが原則」とする。

 同病院の蓮田健副院長は5月中旬、熊本地方法務局に私案を説明。法務局は、出生届に親の名前がなくても市長が遺棄児と同様の手続きをとることで、現行法で戸籍作成は可能と伝えた。ただ、熊本市の児相が親の身元を知りながら、市長は親が不明な子と同様に扱うことについて、法務局は「検討していない部分。問題になるかもしれないが、答える立場にない」と判断を避けた。

 床谷文雄・大阪大教授(家族法)は「関係省庁が連携して制度全体を規定する法整備を検討すべきだ。法的な担保がないと、親の情報の開示を巡ってトラブルにもなりかねない」と話している。

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【内密出産制度】  2014年にドイツで始まった。母親は妊娠相談所に実名を明かし、病院では仮名で出産。実親の情報は国が管理し、養親のもとで育った子は16歳以上で親の情報を閲覧できる。熊本市は国に法整備の検討を求め、厚生労働省は今年度、海外事例の研究に乗り出した。


引用元:
赤ちゃんポスト運営病院が「内密出産制度」私案…親の情報、成長後に開示(読売新聞)