僕の所属している日本産婦人科医会では、「妊娠ワンストップセンター」を整備しようとさまざまな取り組みをしています。耳慣れない言葉でしょうが、計画していない妊娠に戸惑いながらも相談する方法を持たない10代の若者たちが、安心して訪れることのできる施設をイメージしてください。2016年の出生数と同年度の中絶数をみると、15歳以下で出生が189件、中絶が839件で、足し合わせたものを妊娠総数として、この年代の中絶割合は81・6%となっています。しかも、若年妊娠・出産が、生まれた子どもの虐待による死亡事例の主な要因であるなど、社会的に深刻な問題です。


 10代の若者の性行動を否定するだけでは解決を図ることはできません。可能な限り性交開始時期を先延ばしするに越したことはありませんが、仮に性交が行われるのであれば、確実な避妊と性感染症予防を徹底させることが性教育の基本です。しかし、わが国の場合、10代に推奨される避妊法、例えば、低用量ピルや緊急避妊薬にお金がかかり過ぎるために入手が困難になっています。日本性教育協会が11年に実施した調査結果によれば、避妊を実行している女子高校生の96・9%がコンドーム、膣(ちつ)外射精が14・6%というように避妊を男性に依存しているのが現状です。また、世界保健機関(WHO)が若者に推奨する避妊法として第一に挙げているピルの使用率は2・3%に過ぎませんでした。

 ちなみに、英国では10代の若者によるクリニックの利用やピル服用に伴う経費は無料ですし、スウェーデン、フランス、カナダなどでもピルについては最初の2、3周期分は無料、その後は安価で提供できる体制がとられていると言います。わが国の場合、世界に冠たる国民皆保険制度があるものの、保険証を親が管理していることが多いこと、手元にあったとしても親に受診情報が漏れるのではないかとの不安から、性感染症をはじめ病気の早期発見・治療が遅れることが少なくありません。

 他の先進国のように10代の若者に避妊薬を無料で提供するためには、どれくらいの費用が必要なのか、中高生の数や、性交経験率などから僕なりに試算したところ、100億円ほどで可能になることが判明しました。例えについてご批判を受けるかもしれませんが、「100億円」という数字で真っ先に脳裏に浮かんだのはオスプレイ1機分の価格。そして、世界人口白書(03年)の次の言葉でした。「思春期の若者の健康と権利への投資は次世代に大きな利益をもたらす」(


引用元:
Dr.北村が語る現代思春期 「妊娠ワンストップセンター」 安心して相談できる施設を(毎日新聞)