「春眠暁を覚えず」の朝ぼらけに「寝耳に水」のビッグニュースが飛び込んできた。

 米ワシントン大学のStephanie Page氏らの研究チームは、「男性用の経口避妊薬(ピル)が精子の形成に必要なホルモンの濃度を低下させる」とする臨床試験の成果を、2018年3月17〜20日にシカゴで開かれた米国内分泌学会(ENDO)で発表した。

 この「男性用ピル」は、ジメタンドロロン・ウンデカン酸(DMAU)と呼ばれ、男性ホルモンのテストステロンとプロゲスチンを組み合わせたホルモン製剤だ。DMAUは、薬剤の排泄を抑える長鎖脂肪酸のウンデカン酸を含むため、体内に止まる半減期が長く、薬効が持続するので、1日1回の使用だけで済むメリットがある。

 一方、現在使用可能なテストステロンのピルは、薬剤の排泄にかかる時間が短く、1日2回使用する必要があるため、肝炎を発症リスクが高い。

避妊法の選択肢が広がるかも?

 発表によれば、今回の臨床試験は18〜50歳の健康な男性100人を対象に、DMAU(粉末カプセルまたはヒマシ油カプセルのいずれか、用量は100mg、200mg、400mgのいずれか)を使用する群と、それぞれのプラセボを使用する群にランダムに振り分けた。DMAU群またはプラセボ群は、1日1回、28日間にわたって使用した。

 その結果、DMAU400mg群は、プラセボ群と比べてテストステロンと精子の形成に必要な2種類の性腺刺激ホルモン(LHおよびFSH)の産生が有意に抑制され、テストステロン欠乏による合併症は起きなかった。だが、DMAU群は、用量にかかわらず約1〜4kgの体重増加と、「善玉コレステロール」のHDL-コレステロール値の低下が認められた。

 Page氏は「男性用ピルの開発につながる前進だ。より大規模かつ長期の臨床試験を実施し、副作用の有無を検証しなければならない。また、DMAUの長期使用による精子の産生量の抑制効果も、3〜6カ月間の臨床試験で確認する必要がある」と強調している。

 現在、男性の避妊法はコンドームの使用とパイプカットだけだ。だが、今回の研究成果によって、避妊法の選択肢が広がるかもしれない。つまり、DMAUがもたらすイノベーションは大きい。「生殖能力をコントロールしたい」「妻や恋人と避妊の負担を共有したい」「副作用を少なく、安全に避妊したい」。そう願う男性たちに大いなる希望と期待を抱かせるポテンシャリティがあるからだ。
「男性用ピル」の開発が遅れている理由は?

 子どもを授かる幸福感――。それは女性だけに許された歓び。1秒あたり1000個もの精子を死ぬまで量産できる幸福感――。それは男性だけが知る誇りだ。

 「望まない妊娠」を回避する叡智が避妊だが、男女の「平等感」は少し温度差があるのではないか。女性は、不妊手術(卵管結紮術)から、ペッサリー、IUD(子宮内避妊用具)、オギノ式、基礎体温法、ピルまで、女性がコントロールできる避妊法の選択肢がある。かたや男性は、コンドームの使用とパイプカットしかない。

 「男性用ピル」の開発が遅れている理由は何か? 多くの臨床試験を重ねても副作用が頻発するため、治験が滞り、FDA(食品医薬品局)などの規制が強化されていることから、リスクを恐れるメーカーが開発を中止しているからに他ならない。直近の多くの事例から明らかだ。

世界各国で開発が進んでいたが……

 インドネシア国立家族計画調整委員会とアイルランガ大学の研究者らは、ガンダルサと呼ぶ葉に受精能力を低下させる成分があり、99%の有効率がある事実を大規模な治験で確認。だが、その後の報告はない(GlobalPost.com/Indonesia’s New Male Birth Control Pill is ‘99 Percent Effective’2014年12月4日)。

 世界保健機関(WHO)リプロダクティブヘルス研究部門のMario Festin氏らは、テストステロンをプロゲストゲンと併用する避妊注射の臨床試験を実施した。だが、挫瘡(にきび)、性欲増大、筋肉痛、気分障害、情緒障害などの副作用が高頻度に見られたため、開発中止に追い込まれた(『Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism』2016年10月27日)。

 大阪大学の分子生物学や遺伝子学の研究者らは、マウスを使った遺伝子操作の実験を重ね、「カルシニューリンという酵素が可逆的かつ迅速に作用する男性用ピルになり得る」「性ホルモンではないため、副作用も性欲減退やうつに襲われるリスクも低い」とする論文を『Science Expressジャーナル』(2016年10月1日号)に発表した(「foxnews」2017年1月5日)。

 英国ウルヴァーハンプトン大学の研究者グループは、ペプチド化合物によって精子の尻尾を一時的に麻痺させる避妊法を開発。行為直前に飲むだけで効果があり、数日後に性機能は復元するとする研究を発表した(参考:「IRORIO」2016/10/24)。

 このような精子の機序や「男性用ピル」の研究は、オーストラリアのモナッシュ大学のサバチーノ・ベンチュラ博士やアメリカの研究機関でも進んでいる。

 また、アフリカ・ソマリ族が狩猟や戦闘に使ってきた矢毒に含まれるウアバイン(ouabain)と呼ぶ成分(キョウチクトウ科の植物の種子)から合成した「男性用ピル」も開発中だ(参考:「Journal of Medicinal Chemistry」)。

 さらに、米カリフォルニア国立霊長類研究センター(California National Primate Research Center)」は、「ベイサルジェル(Vasalgel)」と呼ぶ半固形のポリマージェルを精管に注入し、精子の通り道を塞ぐ避妊法をウサギとサルを使った実験で確認。サル16匹のうち1匹の精管に精子肉芽腫の合併症がみられたが、ヒトの精管に注入する治験が計画中だ(参考:「AFP」2017年2月7日)。
 
 このように研究の多くはマウスなどの動物実験の成果なので、ヒトへのエビデンスは、全く確認されていない。近い将来、冒頭に紹介したヒトを対象にした臨床試験を重ねれば、男性垂涎の「男性用ピル」が避妊の新境地を開くかもしれない。


引用元:
ついに「男性用ピル」開発・解禁か? 1日1回で精子形成に必要なホルモン濃度低下(ヘルスプレス)