3月30日、文部科学省は女子高校生の妊娠について初の実態調査(『妊娠した高校生の在籍状況2015〜2016年度』)を公表した。それによれば、全国の公立高校(3571校)が把握している妊娠は2098件。うち3割(674件)が自主退学していた。

 しかも自主退学の中には学校の勧めによるものが32件あったという。この妊娠退学の実態調査は、波紋を広げている。

「私たちはいつ妊娠しても罰せられるんだなという気がしています」と話すのは都内在住の会社員・小川玲さん(仮名・40才)だ。

「学生時に妊娠すれば、“学業との両立は無理だから学業を諦めろ”と言われ、もし20代前半で妊娠したら“会社に入ったばかりでまだ仕事も何も覚えてないのに休むつもり?”と言われる。30代になると、仕事が軌道に乗り始め、そのタイミングでの妊娠報告をすると、“せっかく責任ある仕事をやっているのにもったいない”と…。

 私は一通り仕事をやりきったと感じ、妊活を始めましたが、年齢のためかなかなか妊娠せず。不妊治療で貯金を使い果たし、なんとか子供を授かったものの、妊娠が嬉しいものとは思えないです…」

 妊娠のタイミングで人生が変わってしまう人も多い。43才の主婦、須賀まりこさん(仮名)は、その昔バリバリのキャリアウーマンだった。

「出産前に、復帰後の昇進を約束されていました。早く戻ってきてねと言われ、乳飲み子を認可保育園に預け、わずか半年で復帰。でもいざ復帰したら、みんなの態度が急変していて。“子供が小さいのだから無理をすべきじゃない”と、繰り返され、結局昇進の約束は反故に。8年勤めた会社でしたが、ほどなく辞めてしまいました」

 35才の会社員、菊池圭子さん(仮名)も自身の経験をこのように語る。

「女性ばかりのチームで働いているのですが、先輩が産休に入ったので、私がサブリーダーに。子づくりはもう少し先だなと思った矢先に、私の妊娠も発覚。上司にさんざん嫌みを言われ、うつ状態に。会社に行けなくなってしまいました」

 このような体験談は珍しいことではない。こういった話を聞いて「いつかは産みたいけど、“今”じゃない」と躊躇してしまう女性は多いのだ。

◆妊娠の決断に一切の迷いはない

 では、私たちはいったい、いつ妊娠すれば祝福されるのか…? 国際政治学者の三浦瑠麗さんは大学在学中の22才で結婚し、大学院生の29才で第1子を出産。妊娠するまでの7年間、気持ちが揺れることもあったという。

「子供ができないと焦ったこともありましたし、論文を仕上げるまでは待ちたいと思ったこともありました。でも、『誰にも迷惑をかけず、安定した収入基盤が男女ともにあって、育児に専念できる環境があり、保育園に入れなくても育てられます』なんていう“理想的なタイミング”を待っていたら、いつまで経っても妊娠できない。だったらいつでもいいんじゃないかと気づいたんです」

 国内外で活躍する音楽ユニットsatellite Young主宰の草野絵美さんは、慶應義塾大学在学中の21才で妊娠。半年間休学して出産し、無事に復学・卒業した。その決断に一切の後悔はないという。

「出産に葛藤はなかったですね。昔から人生計画の中で、ぼんやりと若いうちに産んだ方がいいのかなと思っていたので“時期が少し早まっただけだね”という感じでした。大学では多様性に寛容な校風もあいまって、出産前ギリギリまで授業を受けていても、奇異な目で見られることはなかったです。むしろ、お腹触っていいですかとか、妊娠おめでとう!とか、知らない学生さんからお祝いされたりしました(笑い)。

 私は子供を産んだことで、“好きなことをやれていない”という感覚がまったくないんです。音楽活動を始めたのも、海外でライブしてミュージックビデオを作ったのも出産後。むしろ子供を持つという共通点で新しい出会いがあったり人生が広がっていっている感じです。

 両親はまだ若くて体力があるので、息子の面倒をよく見てもらっています。早く産んだメリットですね」

 だが、誰もが彼女たちのように、“いつでも”“後悔なく”妊娠を受け入れられるわけではない。思い通りの妊娠が世の中にあって、今、卵子凍結を行う女性が急増しているという。不妊治療の権威として知られる、オーク住吉産婦人科(大阪市)の医師・船曳美也子さんは言う。

「卵子凍結をしに来られるかたは年間100〜150人いらっしゃいます。ただ、凍結だけでも10個で50万円(5年間)、受精卵を作るのに25万円とお金がかかります。39、40才あたりで“子供が欲しいんです”と駆け込み来院するかたが多いのですが、体外受精の妊娠成功率は、30才で20%、40才で7.7%とグッと下がる。高齢出産のリスク、肉体的な出産適齢期はどうしても抗えません。生物学的にいえば、学生時代に妊娠出産というのは選択肢としては“アリ”だと思います」

◆子供は“社会の宝”として扱う

 女性がいつでも妊娠しやすい社会をつくるにはどうしたらいいのか。前出の三浦さんはこう語気を強める。

「妊娠した人に優しく、他人の子供をいつくしんでくれる社会にならないと。子供は私的なものではなく、“社会の宝”として扱うことが必要だと思います。また政府が家庭で育児をしたいという人にも、不規則な仕事に合わせられるような多様なサービスを提供できる無認可保育園に入った人にも、割引券をあげるとか、“学業があるから”を認可保育園の応募資格に加えるとか、生き方や働き方に合わせた柔軟な受け皿をつくるべきじゃないでしょうか」


引用元:
妊娠を巡る女性の苦労、だが理想のタイミングを待っても…(ニフティニュース)