これまで心臓に病気のなかった女性が、妊娠・出産をきっかけに心不全となって心臓の働きが落ちてしまう「周産期心筋症」という病気があります。激しい息切れや全身のむくみなどが特徴で、重症になると、死亡する例もあります。妊娠高血圧症候群の併発といったリスクもありますが、広くは知られていません。この病気の治療ガイドライン作成にも関わる国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)の神谷千津子さん(循環器専門医)に、症状や注意点を聞きました。

息切れ・全身のむくみ 難しい判断

 妊娠すると、女性の体には様々な変化があります。赤ちゃんに必要な血液を届けるため、女性の体をめぐる血液の量は増加します。あわせて、心拍数や心臓が血液を送り出す量も増えます。

 心臓は全身に血液を送るポンプの役割ですが、この働きが弱くなると、全身へ十分な血液が届かず危険な状態となり、体に水がたまってしまいます。

 私たちが2009年に周産期心筋症を調べた全国調査では、8割が息苦しさ、約4割がせきやむくみを訴えて病院を受診しました。ただ、ある程度の息切れやむくみは通常の妊娠でも起こるため、どこからが心不全なのか非常に判断が難しい病気でもあります。

 妊産婦を診ているのは6割以上が産科の医師です。持病がない妊娠女性の場合、心エコーなどの専門的な検査をしたり循環器の専門医が診察したりしないまま、悪化して救急搬送されることもあります。


高齢出産 病気が増える可能性

 日本の周産期心筋症は、1万5千〜2万人の分娩(ぶんべん)のうち1例あると推計されていますが、アンケートに基づいた結果のため、過小評価と考えられています。世界的には黒人に発症者が多く、米国では1千〜3千例の分娩のうち1例あると言われています。

 国内の調査によると、周産期心筋症は、7割が出産後、3割が妊娠中に発症します。これまで分かっているのは、患者の4割は妊娠高血圧症候群を合併していて、1割は双子を妊娠するといった「多胎」、1割は切迫早産のため長期の点滴治療をしているといったリスクを併せもっています。さらに1割の患者さんには、家族に心筋症の人がいました。

 出産時の年齢が上がるにつれて、妊娠高血圧症候群の発症リスクも上がります。また、不妊治療で多胎の出産も増えています。出産年齢が上がっている日本では、周産期心筋症になりやすい社会背景が増えてきているといえます。


産後は薬で心不全の治療

 産後の治療は、投薬を中心とした急性心不全の治療がメインです。妊娠中では、心機能が大きく低下していれば分娩を早めることもあります。軽度の心機能低下であれば入院して、心エコーで確認しながら出産に備えます。

 ほかの心筋症と違い、患者の6割は産後1年ほどで心機能が正常に戻ります。ただ、3割は服薬を続け、1割では命にかかわる重症となります。早期発見が大切です。

 また、周産期心筋症を発症した次の出産では、再び心機能が下がるリスクがあります。主治医とよく相談して、リスクを理解することが大切です。


原因は不明、産科・循環器で連携を

 周産期心筋症の原因はまだ分かっていません。「母乳をつくるホルモンとの関係」「妊娠高血圧症候群と同じように胎盤との関係」「家族に心筋症患者がいることの影響」といった様々な説があります。

 日本でこの病気が知られ始めたのはここ10年ほどで、現在、全国の症例を集め、ガイドラインを作成中です。今後も産科と循環器の連携をさらに進めていく必要があります。


引用元:
妊娠きっかけに心不全「周産期心筋症」 重い息切れ注意(朝日新聞)