イライラやゆううつ、不安、頭痛、疲れやすさ、ボンヤリ……。これらの一因は食事にあり、多くの場合、貧血に至る前の「隠れ貧血」=「鉄欠乏症」だそう。
 驚きの事実を教えてくれたのは、『マンガでわかる ココロの不調回復 食べてうつぬけ』(主婦の友社)が話題の精神科医・奥平智之先生。

 今、同書を呼んだ多くの人、特に若い女性から、「私もテケジョ=鉄欠乏症女子だった!」との声が先生のもとに届いているそうです。
 その女性の反響に奥平先生から緊急アナウンス! 鉄欠乏症の弊害について、詳しくお伺いしました。













■「肉や魚の不足」が「テケジョ」を生む

「鉄欠乏の原因の多くは、パンやパスタなどの「糖質」中心で、肉や魚の量が少ない食事。鉄は赤身の肉や魚に豊富に含まれているからだ。このような食生活では、3つの弊害の可能性がある」と奥平先生は主張。

 1つめは、「脳内ホルモン」がスムーズに作られなくなること。鉄が欠乏すると、憂うつや不安をなくすセロトニンや、ときめきを感じさせるドパミンなどの脳内の神経伝達物質がうまく作れず、憂うつ、不安、不眠、イライラなどを引き起こす可能性があります。2つめは、「エネルギー産生」不足。鉄が欠乏すると、全身の細胞のエネルギー産生工場であるミトコンドリアの機能が低下します。神経をはじめさまざまな細胞や臓器の機能が影響を受け、疲れや冷え、頭痛などの一因となります。3つ目は「美容」への影響。鉄は皮膚や血管のコラーゲン、髪や爪のケラチンの代謝に関与しているため、鉄が欠乏すると、肌の乾燥や弾力性の低下、アザ、抜け毛、爪の扁平化や割れやすさに繋がります。






 女性の鉄欠乏からくるココロの不調について、奥平先生は心配しています。
「男性より女性は2倍の高さでうつ病にかかりやすいからです。これは世界的な傾向です。また特に妊娠・出産が注意すべき時期となります」(奥平先生、以下同)

 女性は男性よりもうつ病のリスクが高く、しかもそれが人生の一大イベントである、妊娠・出産時に影響を受けやすいとは、どういうことでしょうか。

■赤ちゃんが授かる前にこそ「鉄」

 鉄欠乏症がまねく妊娠・出産時の影響は大きくふたつ。ひとつは、胎児の健康。そして母親の妊娠・産後うつです。






「赤ちゃんが授かってから鉄を摂るのでは遅いのです。妊娠がわかったときには、胎児の脳などの中枢神経系がすでにつくられているからです。鉄は細胞分裂に必須のミネラル。胎児の中枢神経系の発達や成長に欠かせません」

 妊娠すると鉄は胎児に優先的に送られます。たとえ母胎が貧血になってでもです。しかし胎児の発育に必要な十分な鉄が母体にないと、胎児の発育に影響が出る可能性もあると言います。
 しかも鉄は簡単に貯蔵できる成分ではないのです。

「サプリなどで服用しても、月に貯まるフェリチンは多くて10ng/ml。すぐに鉄が満たされるわけではなく時間がかかります。妊娠したいと思ったら、まずはその準備期間として十分に鉄を貯めてから、妊娠に臨んでください」

 血液中のフェリチンとは、「貯蔵鉄」のこと。普通の貧血検査では「ヘモグロビン」などの値を見ますが、奥平先生は、フェリチンの値を見逃さないよう著書でもくり返し述べています。

「母体のフェリチン値の多くは50ng/ml以下ですが、産まれてくる胎児の臍帯血のフェリチン値は150〜200ng/ml程度。急速に成長する胎児における鉄の必要性が示唆されます」

 「今はまだ赤ちゃんの予定はない、と思っている人も、いつ迎えてもいいように日常的に鉄を補給して欲しい」と奥平先生はいいます。






■妊娠・産後うつにも「鉄」が影響

 テケジョの悲劇は、胎児の健康への影響だけではありません。妊娠や育児がつらいものになってしまう可能性があります。

「妊娠するとホルモンバランスが大きく変わるので、ある程度の気分の浮き沈みは起こります。うれしいはずの妊娠なのに、不安定な心の状態が続く場合は、鉄欠乏も影響する『妊娠うつ』かもしれません。また、産後の深刻な気分の変動を『産後うつ』と呼びます。こちらも出産によるホルモン濃度の急激な低下に加え、鉄欠乏も発症に関与していると考えられます」

「貯蔵している鉄が少ないと、妊娠中も出産後もとても疲れやすく、ささいなことでイライラしたり、ゆううつになります。そのため、妊娠や子育てがとてもストレスに。妊娠はうれしいけど、子どもはかわいいけど、生活や育児がつらい、だるいと悩んでいる方の中に、鉄欠乏が原因の人が見受けられます」

 妊娠うつや産後うつは約1割程度※1)の女性が発症すると言われています。「倦怠感」「不眠」「ゆううつ」「食欲不振」などが主な症状。さらにこんな状態になるそうです。

・今まで楽しめていたことが楽しめない
・思考力や集中力が低下する
・妊娠や出産、育児、新生活に不安を感じる
・自己評価が極端に低下して、親になる自信がない、母親失格だと思い込む
・育児や家事をする意欲がない
・赤ちゃんが可愛くない、赤ちゃんを傷つけてしまいそうと感じる

■多くの産婦人科医が見逃すフェリチン値

 産後うつ病は、一過性のものとあなどってはいけません。東京都23区の妊産婦の自殺を調べたところ、約3分の1が産後うつ病であったそうです※2)。
 まれに、産後うつ病よりもさらに重度で幻覚や妄想もみられるような産後精神病が発生する場合もあります。しかも産後うつ病にかかった場合、約3〜4人に1人の割合で再発するという結果も出ています。

「多くの産婦人科では、隠れ貧血を見抜くために必要なフェリチンは測定していません。鉄欠乏の諸症状があるにもかかわらず、ヘモグロビンなどの値から、『貧血はないので、鉄は足りています』と説明されてしまうことが少なくありません。鉄の適切な補給なしに妊娠・出産をすれば、ほとんどの人が、貧血にまでいたらなかったとしても、『鉄欠乏状態』になります」

 鉄は、母親のココロや体、美容を守るためだけではなく、産まれてくる子どもを守るために必要な栄養素です。女性は、鉄の知識を持っていても絶対に損はないでしょう。






 しかし、ただやみくもに、鉄サプリを摂ればいいのではないそうです。
「単に鉄を補給するだけでうまくいく人もいれば、鉄剤を補給しても胃腸にさわって飲めない人、または炎症体質により鉄をうまく吸収・利用できない人もいます。あなたはどのような体質か、出産を考えているのなら、鉄への理解を深めておくといいと思います」

 通常の血液検査の結果から「鉄欠乏」の可能性を読み解くこともできるそうです。まずは、先生の著書を入手してチェックしてみましょう。

※1)  Howard LM, Molyneaux E, Dennis CL, et al: Non-psychotic mental disorders in the perinatal period. Lancet 384: 1775-1788, 2014
※2)竹田省: 妊産婦死亡“ゼロ”への挑戦. 日産婦誌, 68(9): 1815-1822, 2016

文=武藤徉子 マンガ・イラスト=いしいまき


引用元:
「テケジョ=鉄欠乏女子」の妊娠・出産・子育てが危ない!? その弊害って…?(ダ・ヴィンチニュース)