言葉の発達が進む3歳ごろになると、ウンチやおしっこ、おしりやおちんちんといった言葉を口にするたび子どもが笑うことがある。「ぼくは男の子」と認識したり、「女の子だからお料理するんだよ」などと言い出したりもする。まずはウンチやおしっこを面白がるわけを探った。【生活報道部・稲田佳代】


 「とても良いものであり、汚いものであるという両方の意味を持つのが面白いのでしょう。ウンチはいまだに自分の体の中のもの、という意識もあります」。こども・思春期メンタルクリニック(東京都新宿区)の精神科医で白百合女子大の木部則雄教授(精神分析)は、ウンチやおしっこで幼児が笑う理由をそう説明する。両価的とは、一つのものごとに対して相反する感情を同時に持つこと。幼児は自己の内部と外部や、自己と他者を識別する境界が発達途上にあることも関係する。

 親にとって、毎日健康的にウンチやおしっこが出るのは望ましいことだ。おむつを外すトイレトレーニングの過程では、排せつできると「出たね、さすがだね」などと褒めちぎる。一方、便器の中に手を突っ込もうとする我が子に「汚いからダメ!」と注意した経験は、どの親にも一度はあるはずだ。これは、ウンチが自分のものという意識の表れでもある。

 しかし、排せつ物は感染症を媒介することもあり、年を重ねるにつれ「汚い、くさいもの」という価値観で占められていくのが普通だ。大人にとっても健康のバロメーターに違いはないが、「いいウンチが出たよ!」と他人に見せることはまずない。健康の証しである「良いもの」の時期と、「汚いもの」と忌避される時期のはざまで、矛盾を面白いと感じているという。

 さらに、排せつする器官であるおしりやおちんちんも、同じように面白さの対象になる。この頃は男性と女性、大人と子どもの体の違いについて質問することも多い。違いがある部分だからこそ、自然と関心を持つ面もあるようだ。

 「自分は男の子だ」「女の子だ」という意識は「性自認」と呼ばれるが、どうやって生まれるのか。木部教授によると、子どもは男女の体の形の(解剖学的)差異について、非常に早い時期から分かっている。一説には生後数カ月で既に認識しているとも言われている。また、生物学的な因子がもたらす体や思考、行動の差異についても、言葉を持つ前から気づき、「漠然としたイメージ=前概念」を作りあげているという。

 その状態で大人から「あなたは男の子」と言われると、前概念に名前がつき、生物学的な性に即した文化的な性(ジェンダー)にも結びついていこうとするようになる。ただし、発達障害があったり、ホルモンや染色体異常の影響があったりして性自認がはっきりしないことや、体の性と一致しない場合もある。

 赤ちゃんは生まれてすぐおっぱいに吸い付くが、これも、おっぱいという期待のような「前概念」があり、実際におっぱいに出合うことで、おっぱいという概念ができていくらしい。大人からすると、赤ちゃんが潜在的にイメージを持っているということが不可解だ。木部教授は、乳児が自分の母親と他の母親の母乳のにおいをかぎわけて、母親の母乳の方へ顔を向けるという実験結果も挙げ、「不思議なことに、子どもは胎児の時からすごくたくさんの能力を持っている。言語化ができるようになる前に、たくさんのことが起きているということだと思う」と感慨深く話す。


引用元:
どうしてウンチやおしっこは面白い毎日新聞?(毎日新聞)