薬の副作用による脱毛といえば、真っ先に抗がん剤が思い浮かぶのではないでしょうか。脱毛の頻度は確かに抗がん剤が最も多いのですが、薬剤による脱毛はそれ以外のさまざまな薬で起きています。それらは手軽に利用できる市販の一般薬だったり、髪の毛とは結び付かない病気の治療薬だったりします。女性の薄毛や脱毛には、このような薬が原因とみられる症例があります。抗がん剤以外の、身近な薬の副作用による脱毛を取り上げてみましょう。

生理時に鎮痛薬を多量に飲んでいた女性

 薄毛の悩みで受診した20代の女性。診察しても原因がはっきりしません。そこで、何か薬を飲んでいないか聞いてみました。「病院には行ってないし、毎日、飲んでいる薬はありません」と言います。そこで、今度は質問を変えて「生理痛や頭痛はありますか? なにか痛み止めは飲んでいますか?」と問い直すと「痛み止めの薬なら、たくさん飲んでいますよ」。

 髪の診察でどうしてそんな質問をされるのか驚いた様子だったので、「お薬で髪の毛が抜けることがあるのです」と伝えました。すると、生理痛がつらくて、いつも鎮痛薬を指定の用量以上飲んでいると話してくれました。

市販の鎮痛薬や胃薬でも脱毛は起きる

 薄毛で受診する女性の中には、この患者さんのように市販の鎮痛薬を飲んでいるケースがしばしばあります。脱毛の原因と考えられるのは、その中に配合されている抗炎症成分の「アセトアミノフェン」や「イブプロフェン」です。これらは、一般薬の鎮痛・解熱薬や風邪薬(総合感冒薬)などによく使用されています。また、同じ一般薬では、H2ブロッカーといって胃酸の分泌を抑える成分として胃薬に使われる「シメチジン」や「ファモチジン」でも脱毛が起きます。

抗菌薬やピルで脱毛になることも

 頭頂部が薄くなってきた時は、抗菌薬を使っていないか患者さんに聞くこともあります。「イソニアジド(抗結核薬)」「エタンブトール塩酸塩(同)」「ゲンタマイシン(他の抗菌薬が効きにくい緑膿菌などにも強い抗菌力がある)」などを使用している場合は、これらが脱毛の原因の一つに考えられます。

 また、低用量ピル(経口避妊薬)を飲んでいる若い女性に、薬剤性と思われる脱毛が起きることがあります。脱毛は、ピルを飲んでいるすべての人に起きるわけではありません。もともとの素因などの影響も考えられますが、薬による頻度不明の脱毛がみられます。

自覚症状の特徴とは

 薬剤によって毛髪が抜けると、頭頂部が薄くなって髪の毛がまばらになる「びまん性脱毛」が見られます。抗がん剤の副作用のように髪の毛が一気に抜けることはなく、薬を使い始めて数カ月後から徐々に薄くなってきます。患者さんからよく聞く自覚症状は、「髪の毛のボリュームが変わってきた」「洗髪後の抜け毛が増えた」「ドライヤーで乾かした後、床に落ちている髪の毛が増えた」というもので、女性は早いうちから髪の変化に気づいているようです。

 しかし、その段階で周囲の人に相談しても、「大丈夫だよ」と言われてしまいます。気になってどうしようと思っているうちに頭髪全体が薄くなり、周囲の人にも薄く見える頃には、ご本人もかなり深刻に悩んでいるはずです。

ほとんど知られていない 薬による脱毛

 抗がん剤以外の薬で脱毛が起きることは、ほとんど知られていません。「まさか鎮痛薬や胃薬で脱毛なんて」と患者さんに驚かれたり、そもそも薬が原因と思っていないため、患者さん自身が薬を飲んでいても、その意識すら乏しかったりします。

 薬による脱毛は、ドラッグストアなどで購入する一般薬、病気治療の目的で医師から処方される薬のどちらでも起きます。市販の風邪薬ならば、1週間程度の使用なのでそれほど神経質になることはないと思います。しかし、生理痛や頭痛がひどい女性では、鎮痛薬を多量に飲み続けていることがあります。また、慢性疾患などで、治療のために継続的に薬を使用している方でも、薬によっては脱毛が生じることがあります。まずは、身近な薬も脱毛の原因になると知ってもらうことが大事だと思います。


引用元:
抗がん剤だけじゃない 生理痛の鎮痛薬でも脱毛(毎日新聞)