元気な赤ちゃんを「産み」「育てる」ために、今から実践できることとは?
母体の栄養はとても大事
セミナーは日本DOHaD学会代表の福岡秀興さん(早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構)の挨拶から始まりました。
DOHaDという、まだ耳慣れない言葉はDevelopmental Origins of Health and Diseaseの略語で、「受精時や胎芽期、胎児期の子宮内および乳幼児期の望ましくない環境が病気の素因となり、出生後の環境との相互作用によって病気が発症する」という考え方を表す言葉です。最近大変注目されています。
「出生体重2500g未満で生まれた赤ちゃんを『低出生体重児』といいますが、今増えており、その数は年に約10万人です。日本では昔から『小さく生んで大きく育てる』のがよいといわれてきましたが、実はあまり望ましくない考え方なんです。小さく生まれた低出生体重児は、糖尿病、メタボリック症候群や骨粗しょう症、高血圧、認知症などになるリスクが高まるという報告が多く出てきました」(福岡さん)
低出生体重児が増えている背景にあるのが、妊娠可能な年齢の女性の「痩せ」や、妊婦さんの「低栄養状態」です。現代の飽食の日本で、「低栄養状態」とは驚きますが、何年にもわたってダイエットして栄養が偏っていたり、妊娠中も体重増加を気にするあまり食事を制限して……といった人がいるのも事実です。
「実は、妊娠中だけでなく、妊娠する前の受精周辺期、特に妊娠する約100日前からの栄養状態が重要なのです。赤ちゃんの脳や神経などの重要な器官は、妊娠直後から形成され始めます。ですから受精時期に、お母さんの体に必要な栄養が足りていることが大切。そして、妊娠中の栄養状態は赤ちゃんの体重に影響します。低体重で生まれた赤ちゃんの健康のリスクは、将来的に自分、子ども、そのまた子どもと3世代にわたって影響を与えてしまうことも分かってきました。ですから、母体の栄養はとても大事であるといえます。元気な赤ちゃんを産みたい人は、赤ちゃんのためにもしっかり栄養を取ってくださいね」(福岡さん)
妊活には自分の心身と向き合ったライフプランが必要
続いて登壇したのは、順天堂大学産婦人科学講座特任教授の竹田省さん。「妊活の心と体づくり―心と体を知ってライフプランを!―」をテーマにお話いただきました。
女性が「赤ちゃんが欲しい」と思ったとき、心身の健康とライフプランは切っても切れない関係にあります。ところが、女性の社会進出が進むにつれ、「晩婚化」「晩産化」「少子化」が増え、「順調なライフプラン」が立てづらくなっているのです。
「2015年の女性の平均初婚年齢は29.4歳、平均初産年齢は30.4歳でしたが、都会ではもっと年齢が高くなっています。将来的には『高齢出産』である35歳以上で出産する人が、半数近くになるでしょう。一方で不妊治療は卵子・卵巣の凍結技術の発達、無精子症の治療、海外では子宮移植による妊娠も可能になるなど、どんどん進化しています。50代以上で出産する女性も年間数十人はおり、私も54歳の女性を担当したことがあります」(竹田さん)
医学の進歩により、年齢を重ねても出産できる人が増えているのは喜ばしいことではありますが、いくら技術が進歩しても20、30代に比べて出産率ががくんと減ることは変わりませんし、高齢出産は母体も赤ちゃんもさまざまなリスクが高まります。
「年を重ねるにつれ、女性ホルモンのエストロゲンに依存した疾病である子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症などになる女性が多くなります。これらは不妊の要因にもなりますので、『年齢による卵子の老化』と『自身の疾病』という不妊のリスクを二つ抱えることに。また、妊娠したとしても高血圧や糖尿病などの合併症、前置胎盤や早期胎盤剥離になる確率も高いのです。危険を伴う分娩では帝王切開率も上昇します」(竹田さん)
一昔前は20代で出産する女性も多かったことから、悪化した子宮内膜症や子宮筋腫などを抱えている例は多くなかったといいます。
「妊娠・出産をすると黄体ホルモンが大量に分泌されます。この量は、子宮内膜症や子宮筋腫の治療薬である黄体ホルモン製剤の約50倍の効果があることから、妊娠・出産がこうした病気の一種の治療の役割を果たしていました。ところが今は高齢で妊娠・出産する人が多いことから、子宮内膜症や子宮筋腫が悪化した中でのお産が増えています」(竹田さん)
例えば子宮筋腫の場合、妊娠を望むケースでは子宮を温存しての手術が可能です。竹田さんが担当した患者さんでは、31歳の未婚女性で、合計10kgもの筋腫を切除したケースもあったそうです。ただ、子宮にメスを入れると、その後のお産は帝王切開になる確率が高くなります。
「晩産化が進む現代の女性は、『産みたい』と思った時に健康状態が万全ではない可能性があります。子宮内膜症などの婦人科系の病気、高血圧、糖尿病などの疾病がある場合は、妊娠前に治療しておくのがベスト。産みたいと思った時にすぐに妊活できるよう、早めに産婦人科で治療の相談をしてください。セカンドオピニオン外来もありますので、自分の納得する治療方法を探すこともできます」(竹田さん)
体の健康とともに重要なことは
また、体の健康とともに重要なのがメンタル面です。妊娠した女性がうつ病を発症する割合は5%、産後3カ月までの間にうつ病になる割合は5%だといわれています。つまり、1回の妊娠を機にうつ病になる人が、10人に1人はいるということです。
「女性は生涯のうちに20%の人がうつ病になるといわれています。その原因の一つとなるのが、女性ホルモンであるエストロゲンの減少です。エストロゲンの分泌が急激に減る、出産後と更年期は特に危険なんです」(竹田さん)
イギリス・ブリストル大学の研究で、母親がうつ病だと、その子どもの発達、発育に悪影響を及ぼすという報告があるそうです。うつ病はなるべく早く見つけて治療する必要があることから、産後うつなどの支援ができるように、現在、厚生労働省が「子育て世代包括支援センター」を平成32年(※)までに全国展開する計画を進めています。
※2017年8月発表当時・子育て世代包括支援センター業務ガイドラインより
「病気やうつ病になるリスクを減らすためにも、ぜひ普段から栄養と食事には気を付けてください。子宮内の栄養状態が赤ちゃんのその後に影響することは福岡先生の話にもありましたが、特に妊娠初期の胎児が神経をつくる際に必要な葉酸、母子の貧血を防ぐ鉄分、ビタミン類などは十分に取ってください。赤ちゃんは一つの受精卵から爆発的に成長しますから、栄養分が足りないと成長が間に合わなくなってしまいます」(竹田さん)
アメリカやカナダではパンや食品などに葉酸が添加されたものが多く売られており、あまり意識しなくても女性は葉酸不足が回避できています。日本ではサプリメントなどを利用するとよいでしょう。
妊娠を希望する女性向けのサプリメントを発売するバイエル薬品の冨岡千織さんによると、一般女性に推奨される葉酸推奨摂取量は240マイクログラム、妊娠中の女性は480マイクログラムです。ところが妊娠を希望する妊娠前の女性では640マイクログラムもの摂取が必要になります。
「なぜ妊活中の女性により多くの葉酸が必要かというと、栄養素が体内に蓄えられるのには時間がかかるためです。妊娠前から葉酸を十分に摂取しておくことが大事なんですね。640マイクログラムをイチゴで食べようとすると約36粒分にもなります。弊社では『エレビット』という栄養機能食品を発売しておりますので、活用していただければと思います」(冨岡さん)
働く女性は栄養・睡眠・運動不足の三重苦
ここまでのお話で、「母体の栄養状態」が健やかなお産には必須であることが分かりました。では、実際に働く女性たちは将来、母となるための栄養が足りているのでしょうか。足りていないとしたら、今日からできることはあるのでしょうか?
働く女性の現状とそこから見えてきた課題についてお話しいただいたのは、予防医療コンサルタントの細川モモさん。細川さんは2011〜2015年、ミス・ユニバース・ジャパンオフィシャルトレーナーを務めるとともに、母子健康にまつわる研究から啓蒙活動まで行う「ラブテリ トーキョー&ニューヨーク」を主宰しています。
その中の取り組みの一つとして、2014年からスタートし、20〜30代の働く女性・約2300人の健康状態を調査した「まるのうち保健室」があります。そこから誕生した働く女性のリアルレポート「働き女子1,000名白書」によると、働く女性は圧倒的に「栄養・睡眠・運動が足りない三重苦」状態だと分かりました(以下、細川さんの講演中のデータは「まるのうち保健室」による)。
「私たちの調査結果では、約4割もの女性が朝食を取っていませんでした。一食分のカロリーが抜け落ちてしまうため、平均摂取カロリーは1479kcalという結果に。これは70代の高齢者よりも、小学5〜6年生よりも、糖尿病の治療食よりも低いカロリーです。睡眠時間は世界でもトップクラスの短さで5〜6時間、運動も『全くしない人』が半数を占めていました」(細川さん)
女性が朝食を抜く理由はさまざまですが、まずは忙しくて朝食に向き合う気力がないこと。夜遅くに食事をするため、「胃もたれして、朝食が食べられない」といった例もあるそうです。また、美容意識の高さから、グリーンスムージーや野菜ジュースといった「一見ヘルシー」な朝食を取っている人も多いようです。
「スムージーには血液や筋肉などの主な材料となる『たんぱく質』があまり含まれていません。朝食欠食やたんぱく質が不足した結果、痩せ形の女性が増えています。また、5人に1人が無月経の状態でした。月経がなく、排卵が起こらないと妊娠はできませんから、どんなに忙しくても自分の月経の状態とは向き合うようにしてくださいね」(細川さん)
細川さんは自己管理のために「体重計ではなく体組成計に乗ること」も大事だといいます。体重だけでなく、日ごろから体脂肪率、筋肉量、BMI値などを把握しておくことが大事なのです。
「順天堂大学らと卵巣年齢(AMH:抗ミュラー管ホルモン)の低下要因について共同研究を行った結果、20代女性の卵巣年齢が40代女性と同等の数値まで低下している場合、『痩せ過ぎ』が原因でした。20代女性が体脂肪率17%を下回ると月経不順・無月経リスクが高まり妊娠率が低くなります。ただ、太り過ぎも問題で体脂肪率30%を超えると排卵障害のリスクが高まり、妊娠しづらくなります。また、30代女性の卵巣年齢が40代女性と同数値だった場合はビタミンD不足が要因でした。ビタミンD不足は魚を食べたり、日光浴をしたりして改善できます」(細川さん)
貧血を防ぐために朝食を取って
また、「働き女子1,000名白書」によると、日本人女性のおよそ4割が「献血(※)ができないほどの貧血」だそうです。※400ccの献血
「母体の貯蔵鉄は新生児のそれと比例します。お母さんからもらった鉄分が少ないと、赤ちゃんも生後4カ月ぐらいで『鉄欠乏性貧血』になる恐れがあります。離乳食でも十分な鉄分が取れないと、5歳ごろに運動機能や認知能力、精神機能が低下するといった研究報告も出ています。鉄分には血液中に含まれるヘモグロビンと、主に肝臓に蓄えられているフェリチン(貯蔵鉄)がありますが、妊娠前に一度はフェリチンの検査をしておきましょう。そして、貧血は必ず治療しておくようにしてください」(細川さん)
「鉄分にはひじき、卵や乳製品に含まれる『非ヘム鉄』と赤身の肉や魚に多い『ヘム鉄』がありますが、吸収率は非ヘム鉄が2〜3%なのに対し、ヘム鉄は20〜30%と段違いです。同じ鉄分を取るならヘム鉄から、そして非ヘム鉄はタンニンと結び付くと吸収を阻害されるので、食事中の緑茶、コーヒー、紅茶、ウーロン茶は避けたほうが賢明です」(細川さん)
女性は毎月の生理で約22.5mgもの鉄分が失われるため、「毎日」鉄分を補給するのが望ましいといいます。
健やかな妊娠・出産をはばむ「痩せ」と「貧血」を防ぐため、細川さんが推奨しているのが「朝食を取ること」です。
「朝食を抜くと、血糖値の乱高下が起こりやすくなります。また昼・夜にドカ食いしたり、おなかが空いてお菓子を食べ過ぎてしまったりするので、糖尿病のリスクが高まります。反対にバランスのよい朝食を取っている人は疲れにくく、気持ちのアップダウンが少なく、骨密度も高く、日中のパフォーマンスが高い、という結果が出ました。ぜひきちんと朝食を取って、栄養砂漠・カロリー砂漠から抜け出し、未来のために備えてください」(細川さん)
妊活についてはさまざまな情報があふれ過ぎるあまり、基本的で最も重要な「必要な栄養を取る」ことを忘れがちになります。
自分の栄養状態が3世代にもわたって影響すると思うと、一食、一食を大切にしたくなりますね。
引用元:
知っておきたい妊活の正しい知識と今日からできること(日経ウーマンオンライン)