「抱っこ、授乳…」その認識は正しい?

体とこころを動かす「脳」は、3歳までに約80%完成する。「こころ」が育まれる環境も、脳がつくられる胎児期の初期から始まり、3歳ころまでにその基礎がほぼできあがる――。

新生児医療に30年以上たずさわり、小児科医としても多くの子どもたちと接してきた福岡新水巻病院周産期センター長の白川嘉継氏は、「発育のルール」とも言えるような共通点を実感し、乳幼児の子育てについて悩み、苦しむ多くの親たちの力になってきた。

長年の経験をもとに、「子育ての道しるべ」として『人生の基盤は妊娠中から3歳までに決まる』を刊行した白川氏が、「0歳児の育て方」について解説する。

「人の表情を読む能力」発達のピークは「生後6カ月」

元気に生まれてきた赤ちゃんの顔を見て、無事に生まれてきたことにホッとしたと同時に「子どもが健やかに育つためには何が必要か」「子どもの幸せのために何ができるのか」という不安や心配な気持ちも、どんどん大きくなっていきますよね。

それに、0歳児の赤ちゃんだと、まだ言葉を話せない時期なので、自分のしたことが、思ったとおりに赤ちゃんに伝わっているのか確認ができないことも多いと思います。

しかし、この時期の赤ちゃんは、まわりの人の表情を読む能力が発達していて、生後6カ月頃、視覚能力は最も高いと考えられています。また、生後6カ月頃からは「随意的な模倣」が始まります。つまり、相手の行動や表情から「その人の心を知る能力」を獲得していくのです。

その後は、生後9カ月頃から親が赤ちゃんを模倣する、すなわち「模倣されること」の認識が始まります。

このように、この時期に赤ちゃんとどう過ごすかで、赤ちゃんに「他人の表情を見分ける能力」がきちんと育つかどうかにも、大きくかかわってくる可能性もあるのです。

では、「0歳児の育て方」として、どのようなことにとくに気をつければいいのか。さまざまな注意点がありますが、その中からいくつか紹介しましょう。
まずは、「できるだけ赤ちゃんのそばにいる」「赤ちゃんを放置しない」ことが大切です。

赤ちゃんは親がいないと「恐怖」を感じる

【1】赤ちゃんを「放置」せず、できるだけそばに

生後間もない赤ちゃんでも「親がそばにいるか、いないか」を感じています。生後9週の赤ちゃんと親を5分間別々の部屋にいてもらったところ、赤ちゃんの額の温度が1℃近く下がったというデータがあります(小林登「赤ちゃんの心をサーモグラフィで測る―母子分離による顔面皮膚温度の変化と愛着」『周産期医学』第26巻、1号)。

また、親ではない人と5分間同じ部屋にいてもらった場合でも同じような状態になったのですが、親がそばにいる状態だと、親ではない人が同じ部屋にいても額の温度に変化は出なかったのです。

額の温度が下がったというのは、血管の収縮か血流の低下を意味しており、赤ちゃんが緊張状態になったことを示しています。つまり、「親がいない=放置された」ことに対して、本能的に恐怖心が生じたと思われます。

このように、赤ちゃんは5分間親と離れただけでも緊張や恐怖を感じています。共働きでずっとそばにいられない方々も多いと思いますが、時間が許される限り、赤ちゃんのそばにいることを心がけてみましょう。

【2】赤ちゃんとの「スキンシップ」はとても大切

さまざまな研究から、「こっちを見て」と注意喚起して泣く赤ちゃんを放置することで赤ちゃんに強いストレスがもたらされること、また「スキンシップ」が重要であることが証明されています。

一昔前は「抱きぐせがつくから、抱っこはしすぎないほうがいい」ということも言われ、この「抱きぐせ」という言葉に振り回された人も少なくないと思います。

しかし、最近では、母親と子どもを引き離す手段として使われたと思われる「抱きぐせ」という言葉は使われなくなっているのです。
赤ちゃんの場合も、「スキンシップ」というのは、人のぬくもりを伝える行動として、とても効果的な行動です。

赤ちゃんにとって「触覚刺激」は大きな効果がある

新生児に触覚刺激を与えると、刺激を受けた脳領域だけでなく周辺の脳領域なども活性化するということが、京都大学・明和政子先生らの研究でも明らかになっています。

さらに、赤ちゃんの体を触るタッチケアによって、「発育がよくなる」「入眠までの時間が短縮する」「赤ちゃんのストレスホルモンが減少する」などの報告もあります。

ラットの実験においては、「穏やかで面倒見がよい親ラット」のもとで育った子ラットは、遺伝子の「メチル基」の多くがとれて遺伝子が活性化され、成長すると自身も穏やかで思いやりのあるラットになりました。

しかし、「養育に消極的な親ラット」のもとで放置されて育った子ラットは、遺伝子にさらに「メチル基」がついて遺伝子が活性化されず、神経質で冷淡なラットになることが知られていました。

つい最近、人間でも同じようなことが証明され、生後5週目のときに「親と接触の多かった子ども」と「少なかった子ども」を、4歳6カ月時に遺伝子のメチル化の状態を調べたところ、同じような差が見られたのです。

赤ちゃんにとっての触覚刺激は、成人と比べられないほど大きな効果があります。赤ちゃんとの「スキンシップ」をできるだけ多くとることは、とても大切です。最後にもうひとつ、「授乳時には、スマホやテレビではなく赤ちゃんの顔を見る」ことです。

【3】「授乳時」も、赤ちゃんの顔を見ながら

日本小児科医会の報告によると、約7割の母親がスマホやテレビを観ながら授乳をしているそうです。ついついやってしまいがちなのですが、じつはこの状態の授乳では、授乳する母親側に十分なオキシトシンが出ない可能性があるのです。

「信頼のホルモン」と呼ばれる神経伝達物質「オキシトシン」は赤ちゃんとの関係性を深めるのにとても大切です。そして、関係性が深まり、赤ちゃんを護ろうとする思いが、赤ちゃんの脳の発達にも重要です。

この時期の赤ちゃんは、「新生児模倣」と呼ばれる「親の表情のマネをする」ようになるのですが、この何気ない「親の表情のマネ」も親が赤ちゃんを大切に思い、護ろうとする意欲を高めます。

授乳するときは、赤ちゃんの目を見てやさしく語りかけながら授乳するようにしましょう。どう語りかけたらいいかわからないときは、わらべ歌などで歌いかけることでもいいと思います。

「ちょっとしたこと」で、上手な接し方はできる
赤ちゃんは誕生の瞬間から、いっせいに多くの刺激を受けはじめます。基盤となる機能は生まれる前から準備されているものもありますが、生まれたあとの周囲の刺激によって、環境に順応しながら成長していきます。

30年以上、小児科医として新生児医療にたずさわっていますが、たくさんの赤ちゃんや子どもたちと接して「3歳までの育て方で、子どもの人生は大きく変わる」ということをとても実感しています。

本記事でも紹介したように、ちょっとした心がけで、0歳児と上手に接することは十分可能です。

ぜひ、「3歳までの子どもと上手に接するコツ」を覚えて、親子が笑顔で幸せに過ごせるようになってほしいと思います。




引用元:
医師が警告!「0歳児」の育て方、ここに注意(東洋経済オンライン)