足のまひや、尿意が感じられないなどの障害が出る二分脊椎症は、赤ちゃんの先天性奇形の中で唯一、葉酸を摂取することで予防ができる。国は二〇〇〇年に都道府県に通知を出し、妊娠可能な年齢の女性がサプリメントで葉酸を摂取することを推奨したものの、発生頻度は減っていない。認知度が低いとみられ、研究に携わってきた医師らは、高校の教育で葉酸について教えることなどを国に求める署名活動を始めた。 (稲田雅文)


 昨年十二月中旬、患者や家族でつくる日本二分脊椎症協会東海支部が愛知県豊川市で開いた座談会には、障害がある子どもを持つ父母十人が参加した。小学校低学年の女児を持つ母親が「どうやって導尿(カテーテルで尿を体外に排泄する方法)を教えていますか?」と質問するなど、生活上の悩みを打ち明け合った。


 話題が集中したのは、おしっこの悩み。尿が出る感覚がなく、一定時間おきに自己導尿をする。学校では導尿のためのスペースが必要で、配慮を求めなければならない。


 二分脊椎症は、背骨の一部が開き、脊髄が外に出て損傷したり、他の組織と癒着したりする病気。程度は個人差があり、妊娠中の超音波検査で脊椎の異常が見つかり、産後すぐに背中を閉じる手術が必要になる人もいれば、成長期になって症状が出る人もいる。


 会場で遊んでいた子どもたちの障害もさまざま。足に装具を着けて歩ける子もいれば、車いすに乗る子も。水頭症を併発することが多く、知的障害や学習障害が出る場合もあり、話題の一つになっていた。


 葉酸に関する厚生労働省の研究班の代表を務めた熱田リハビリテーション病院(名古屋市)の近藤厚生(あつお)医師は「母子手帳に葉酸の情報が掲載されているが、手帳を受け取る時期から摂取しても遅い。妊娠を希望する人は妊娠する前から葉酸の摂取を始めるべきだ」と指摘する。


 近藤医師によると、一九九一年に発表された英国の研究では、葉酸のサプリメントを摂取することで、二分脊椎症を含む「神経管閉鎖障害」の72%を予防できたことが判明した。


 葉酸は、ホウレンソウやブロッコリーなどの緑黄色野菜や果物、レバーなどに含まれるビタミンBの一種。神経管がつくられるのは妊娠六週ごろまでで、予防のためには、妊娠一カ月前から妊娠三カ月まで、一日〇・四ミリグラムを摂取することが望ましいという。

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◆「穀物に添加」求め署名活動


 近藤医師によると、米国やカナダなど八十一カ国では、穀物に葉酸を添加する政策を実施しており、二分脊椎症の赤ちゃんの発生率は政策実施前に比べ二〜四割減ったという。国内では分娩(ぶんべん)一万件当たり五〜六人程度生まれ、国が通知をした〇〇年以降も横ばいのまま推移している=グラフ。過去に国内で実施された調査では、葉酸について正しい知識を持っていた女子学生は10%程度しかおらず、妊婦が適切にサプリメントを飲んでいた率も、調査によってばらつきがあるものの10〜30%にとどまった。


 このため、近藤医師らは高校の学習指導要領に葉酸の効果を記載するとともに、米と小麦粉に葉酸を添加するよう求める署名活動を昨年十一月に開始した。近藤医師は「葉酸の添加政策で神経管閉鎖障害の40%が予防でき、年間百七十億円の医療費削減につながると試算している。国として対策に乗り出すべきだ」と訴える。


 署名活動への協力も呼び掛けている。署名用紙は、近藤厚生医師宛て=〒456 0058 名古屋市熱田区六番一の一の一九、熱田リハビリテーション病院=に郵便で請求できる。


引用元:
妊娠前から葉酸摂取を 赤ちゃんの「二分脊椎症」予防に効果(東京新聞)