<心臓のスーパードクターが語る:東邦大学大橋病院・尾崎重之教授(4)>


 20代のB子さんは、生まれつき大動脈弁が二尖弁(せんべん)で、大動脈閉鎖不全症の状態。そのため1度中絶。それでも、B子さんは赤ちゃんを抱くことを実現すべく、二尖弁の手術を希望され、私の外来を受診されたのです。

 3枚あるはずの大動脈弁が、2枚しかない二尖弁なので、この場合、人工弁にするか、弁を形成して血液が逆流しないようにする手術をします。人工弁に置き換える手術には2つあります。「機械弁」と「生体弁」です。

 機械弁は壊れることなく30年と長持ちします。ただ、異物なので血栓ができるのを抑える抗凝固薬を一生飲む必要があります。薬を飲むため、出産はできません。生体弁は、ブタの大動脈弁やウシの心臓を包んでいる心膜でできています。生体弁でもいいのですが、妊娠・出産をすると極度に劣化します。だから、出産をあきらめる方も多かったのです。

 しかし、B子さんは私が開発した「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」をしっかり理解し、受診されていました。心臓を包んでいる心膜を部分的に取り出して、それを大動脈弁に形成する手術です。だから、自己の組織なので薬を服用する必要はなく、また、生体弁のように妊娠・出産で劣化することもありません。

 B子さんは私の手術を受け、大動脈弁は問題のない弁になり、退院されました。その後、B子さんは妊娠され、赤ちゃんを無事に抱くことができました。赤ちゃんを見せに、わざわざ来られ、外来は笑顔でいっぱいになりました。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)


引用元:
大動脈疾患でも出産できた/ハートで決まる健康長寿(日刊スポーツ)