「産科から退院したら『今日の飯、何?』」「家ではスマホ、外では子煩悩」。無理解な夫に妻たちはキレる寸前だ−−。TBSの金曜ドラマ「コウノドリ」で描かれる自称イクメンに母親たちが憤り、「#うちのインティライミ」というタグとともに、産後のつらさに共感してくれない夫への怒りと不満をSNSで吐き出している。
「産後うつギリギリの女性は、じつは8割」。こんな結果が、産前・産後のケアや啓発活動を行うNPOマドレボニータの調査で明らかになった。SNSには子どもが生まれ、幸せいっぱいの写真が多数投稿されている。しかし内心、「母親なんて無理」「離婚したい」「会社を辞めてしまいたい」と追い詰められる女性は多い。放置すると離婚、離職につながりかねない産後うつの実態とは。
「寝てばかりの妻」は本当は眠っていない?!
「毎晩残業して帰ると、嫁はもう寝ちゃってるんですよね」
電撃の社内結婚でみんなを驚かせた部下が、飲み会の席でぼやいた。今年の春、子どもが産まれ、奥さんは育児休暇中だ。
「一日家にいるのに、流しには汚れた皿が山積み。子どものおむつもちゃんと替えていないみたいだし。たまに起きてくるかと思ったら、『あんたはいいよね、外で好き勝手にできて』って、充血した目で僕をにらむんですよ」
そうそう、自分にも覚えがある、と課長は心中深くうなずいた。子どもが産まれたとたん、妻は感情の起伏が激しくなった。一時的なホルモンの乱れかなと思ったが、事はそう簡単ではなかった。部下夫婦のことが心配になったのは、その時の苦い経験があるからだ。
「あのさ、奥さん、本当に眠ってるのかな……」
マドレボニータの事務局次長、太田智子さんは、「出産後の母親をまず襲うのは“不眠”なんです」と話す。
夜中に何度も授乳したりあやしたりしなければならず、睡眠が細切れになってしまう。やがて、横になっても目がさえて眠れなくなるのだ。そのうち無気力になり、子どもが泣いていても抱くことすらできなくなったりする。「母親失格だ」「私にはもう育てられない」と罪悪感や悲哀感も募る−−。
「産後うつ未満」の妻が8割の現実
マドレボニータが2016年8月、産後女性1042人を対象に実施した調査によれば、出産後2週間〜約1年以内に「産後うつ」の診断を受けた人は4.6%だったが、「診断は受けていないが『産後うつ』だったと思う」(30.4%)、「『産後うつ』の一歩手前だったと思う」(46.7%)を合わせると、77.1%がうつスレスレの「産後うつ未満」を経験していた、という結果になった。「寝てばかり」と思っていた妻が、じつはろくに睡眠を取れておらず、うつ状態に陥っているケースはままあるのだ。
マドレボニータの産後ケア教室で、バランスボールでエクササイズをする参加者=マドレボニータ提供
マドレボニータの産後ケア教室で、バランスボールでエクササイズをする参加者=マドレボニータ提供
「産後うつ未満」を、出産後の一時的な問題と切り捨てることはできない。「産後のメンタル悪化は妻だけでなく、夫にとっても、また職場にとってもその後、大問題につながる」と太田さんは警告する。
出産妻、夫への愛情は34%に急落
第一の問題は、夫婦関係に大きな亀裂が入ることだ。
ベネッセ教育総合研究所の調べによれば、パートナーに愛情を感じる割合は、妊娠期は夫、妻ともに74.3%。ところが、出産後は妻の夫に対する愛情が急激に冷め、子どもが0歳のときは45.5%、1歳では36.8%、2歳ではなんと34%まで落ち込む。夫も妻の気持ちが疎遠になるにつれ、愛情の度合いは減るが、子どもが2歳で51.7%程度と、減少スピードは妻より緩やかだ。
前出のマドレボニータの調査では、夫への嫌悪をあらわにする自由回答が多数寄せられた。
「夫は産前産後で生活のペースは変わらないけど、私はすべて赤ちゃんに合わせた生活。『あなたはいいよねー』とひがむようになりました」
「私が悲しくなったり落ち込んだりしている横で、子どもが可愛い、可愛いとテンションが上がっている夫。(産後うつについても)『ホルモンの関係でしょ』と、知っていますよ、だから何?という感じで返答された」
「里帰り後、自宅に戻ると、夫の言動すべてにいらだちを感じるようになり、同じ部屋にいることすら嫌になった」
「子育てを人ごとにしている」「つらさを共感してもらえない」など、妻の不満はたまりにたまっているようだ。そんな妻に「産後うつごっこしてるの?」などと、心ない言葉を吐いてしまう夫もいる。
産後ケア教室の一コマ。参加者が2人1組になり、テーマを決めて話し合う=マドレボニータ提供
産後ケア教室の一コマ。参加者が2人1組になり、テーマを決めて話し合う=マドレボニータ提供
「子どもが産まれてから、いきなり子育ての責任が降りかかり、妻がやらねばならないことは一気に増えています。一方、内臓をはじめとする出産後のダメージは全治1カ月に相当するレベル。本当なら、横になって休養をとるべき時期なのですが。夫はこの現実を知らないので、『家にいて楽をしているのに、何が不満なんだろう』と戸惑ってしまう。妻も自分に何が起きているかわからず、混乱しています。『仕事を休んでいるのだから、自分がもっと頑張らなくては』と焦るものの、体がついていかない人もいます」
厚生労働省の「母子世帯等調査」(2011年)によれば、母子世帯になった時の末子の年齢で最も高いのは、0〜2歳児で34.2%。乳幼児を抱えるカップルがかなりの確率で破局の危機にさらされていることがわかる。日々、最前線で働き続ける夫としては、育児や妻の体調を考える余裕はないのかもしれないが、プライベートがガタガタになれば仕事どころではなくなるだろう。
SNSの写真が語らない「出産離職」の真実
第二の問題は、産後うつや産後うつ未満に陥った妻が、職場復帰することなく、退職に至る可能性があることだ。
国立社会保障人口問題研究所の「出生動向基本調査」(2015年)によれば、出産退職する妻は減少したものの、第1子出産前後の就業継続者の割合は38.3%にとどまる。
このうち、産後うつ未満の女性がどれほどいるか定かではないが、母子ふたりきりのブラックボックスで日々を過ごすうち、自信をなくした妻が将来のキャリアを見失ってしまうこともあるだろう。
「産休、育休の制度は整っていても、『ご家庭のことは自己責任で』と産後のメンタルケアについてはノータッチの企業がほとんど。同僚も、家族水入らずで過ごしたいだろうから、と連絡を取ることを控えていたりします。実は、SNSの写真の幸せいっぱいな様子とは裏腹に、社会から孤立しているとも知らずに−−」(太田さん)
「#うちのインティライミ」とならないために
「産後うつ・産後うつ未満問題」解決のキーパーソンは夫だ。
「じつは、妻のかわりに家事、育児全般を夫が無理に背負う必要はないのです。今は家事、育児に関するサービスも充実してきています。夫がそれらのサービスを効率的に活用するためのコーディネーター役に回ったほうが、事態が改善されることが多いのです」と太田さん。具体的には、以下のようなことについて検討、手配しておくといいだろう。
・産後の妻の体調ケア
・産後1カ月間の家事(必要なら出産前にヘルパーを手配)
・上の子どもの日中の過ごし方(保育園や幼稚園、一時保育、または親類に世話してもらうなど)
・保育園探しや見学、送り迎えの役割分担など
・復職後の家事、育児の分担、タイムスケジュールなど
保育園の情報は、見学前にネットなどで収集したり、各自治体が配布している「手引」にも目を通しておきたい。保活終盤なのに「認可保育園と認可外保育園って、どう違うの?」などと基本的な質問をして、「何もわかってないのね!?」と妻を失望させてしまう夫も多いようだ、と太田さん。
上司の対応も問われる。飲み会で、「男が子育てに口を出すもんじゃないぞ」などと、帰ろうとする部下を2次会に誘ったりしていないだろうか。それより、「ちゃんと眠れてる?って、奥さんに聞いてやれよ」と、ケアを促す上司でありたい。
引用元:
ドラマ「コウノドリ」の自称イクメンと産後うつ(毎日新聞)