2015年、千葉県浦安市が少子化対策の一環で打ち出した取り組みが世間を驚かせた。市が順天堂大浦安病院に補助金を交付し、市内に住む健康な女性の卵子凍結を研究してもらうというものだ。健康な女性の卵子凍結を行政が支援するのは珍しく、国内外から取材が殺到した。
補助は15〜17年度の3年間で最大9000万円。病院は本来なら約40万円かかる費用を免除しており、これまでに約20人の女性が凍結を実施した。
浦安市の取り組みには特徴がある。研究対象者の年齢を34歳までに限定した。年齢制限を提案した同病院先任准教授の菊地盤(49)は「年齢を区切ることで、若いうちの行動を意識してほしかった」と狙いを語る。
厳しく線引きした背景には、妊娠と年齢の相関関係を軽視しがちな風潮への危機感がある。菊地が「日本は世界一の体外受精大国」と言うように、不妊で悩む人は増え続けている。問題は不妊治療を受ける女性の年齢のピークが40歳を過ぎていることだ。
35歳以上の出産はリスクが高い「高齢出産」とされる。日本産科婦人科学会の14年のデータによると、体外受精は34歳以下なら約2割が成功するが、40歳以上では1割に満たない。不妊治療と卵子凍結に40代が殺到する現状に歯がゆい思いを抱える菊地は、日本の妊娠適齢期に関する意識の低さを指摘する。
「学校で教える性教育は避妊ばかりで、卵子の老化や不妊については教えてこなかった」と菊地。知らずに年齢を重ねた女性たちが生殖医療に頼ることを責める気はないが、若くない卵子を凍結しても効果は低い。「なるべく早い方が良い」というメッセージを込め、年齢制限を設けた。
出産のタイムリミットに気付いていても適齢期に産めるとは限らない。立場が不安定で賃金も低い非正規雇用の若者の増加や長時間労働などの影響で、晩婚化や晩産化は進む一方だ。
浦安市の取り組みでも、卵子凍結を希望して説明会に参加した女性の3分の1が、仕事を理由に通院を諦める。「それこそが日本の問題。若いうちに産めるよう、社会全体で考える必要がある」。子どもを望む女性と日々向き合う菊地は、そう痛感している
引用元:
いつか母に 卵子凍結のいま/6止 研究対象は34歳まで 若いうちの行動促す /徳島(毎日新聞)