更年期に表れる症状は200種類以上と言われるほど多種多様だ。今回は、東京歯科大学市川総合病院産婦人科教授の松潔さんに、よく見られる症状や更年期障害の診断、見極めが必要な病気などについて聞いた。


Q.更年期と言えば、ほてりや動悸どうきなどの症状が思い浮かびますが、実際、どんなものが多いのですか? 私のように50歳前後で不調があると、「更年期のせいじゃない?」と言われがちですが、何か別の重大な病気が隠れているのではないかと不安を感じている友人もいます。



家庭問題や職場環境、性格なども要因に

 50歳くらいの女性が「疲れやすい」とか「眠れない」「頭が重い」などの不調を訴えると、「更年期障害じゃないの?」と言われることが多いようですね。でも、そうした不調のすべてが更年期障害というわけではありません。

 日本産科婦人科学会では、「更年期に現れる多種多様な症状の中で、器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼び、これらの中で日常生活に支障を来す病態を更年期障害とする」と定義しています。

 簡単に言うと、更年期に表れる症状のうち、別の何らかの病気による症状でないものが更年期症状であり、そのうちの日常生活に差し障りがあるものを更年期障害と呼びます。

恵子:生活に支障があるかないかが、「更年期症状」と「更年期障害」の違いなんですね。

 そうですね。更年期障害の原因については、卵巣機能の低下によるエストロゲン欠乏という「ホルモン的要因」が重要な要素です。しかし、それだけではありません。

 親の介護や子どもの自立といった家庭の問題や職場の人間関係などの「社会的・環境的要因」や、もともときちょうめんな性格などの「心理的・性格的要因」が複雑に絡み合って、多様な症状として表れていると考えられています。

恵子:職場や家庭環境、その人の性格まで関係するなんて驚きです。私の場合、50歳頃から突然めまいがしたり汗をかいたりするようになったのですが、一般的に、更年期症状・更年期障害にはどんなものが多いんですか?

 代表的なものに、恵子さんも経験している発汗やほてりなどの「ホットフラッシュ」、それに不眠や抑うつなどが挙げられますが、この症状があれば更年期障害だと言い切れるものはないのです。それだけ様々で、表れ方も十人十色と言えます。

 ただし、こうした症状は70歳以降の高齢者や20〜30歳代の若い世代でもみられることがあります。その場合は更年期障害とは言えず、ストレスなど別の原因があるとみられます。

 少しおさらいになりますが、「更年期」とは閉経の前後5年間のことでしたね。日本人の場合、大体40〜60歳頃があてはまります。この時期から症状が表れることがポイントです。

表れ方は十人十色、時間の経過で症状も変化

 症状を大きく分類すると、下記の表1のように「自律神経失調症状」「精神的症状」「その他の症状」の3種類に分けられます。


 また、表れる症状は、時間の経過に伴って変化します。

 閉経前後ではホットフラッシュなどの自律神経失調症状(血管運動神経症状)が多く、閉経後1〜2年でピークを迎えます。少し遅れて倦怠感けんたいかんや抑うつ、不眠などの精神症状が出てくるようになりますが、個人差が大きく、こうした症状を感じない人もいます。

 閉経後1〜2年すると、腟ちつ乾燥感や尿漏れなどの泌尿生殖器の不快感が出てくるほか、骨量低下や動脈硬化などが徐々に進行します。10年ほどたって更年期も忘れた頃になって、骨粗しょう症や動脈硬化症といった病気として表れてくることもあるので、早い段階から進行を予防することが大切です。

 どういう症状が多いかについては、データの取り方によって違いがあるかもしれません。図1は、更年期外来初診時にどんな訴えがあったか、慶応大学病院(東京都新宿区)での調査結果ですが、日本ではこのグラフのように「疲れやすい」「肩こりがある」が多く、精神的な症状の訴えが目立つと指摘されています。

恵子:本当に、いろんな症状があるのですね。私の場合、「来た来た! これがホットフラッシュってやつね」と自分で勝手に思い込んでいるだけですけど、更年期障害の診断ってどうするのですか?

 更年期になったら誰もがみんな不調に悩まされるというわけではありません。ほとんど気にならないか、症状はあるけれど生活に支障がない程度の人が多いのです。ちょっと気になる程度なら、必ずしも病院に行く必要はないかもしれませんね。

 しかし、生活に支障がある症状が続く場合には、治療を受けて改善を図ることで、生活の質を良くすることが大切になってきます。

 更年期障害の診断は、一定の条件を満たせば確定するような明快なものではなく、その症状が別の病気によるものかどうかを見極め、その可能性を除外できた後に診断されるのが特徴です。この年代になると、更年期の不調によく似た症状が出る病気も多いので、それを見落とさないことが大事なのです。

うつ、倦怠感、不正出血…よく似た症状の病気に注意

恵子:更年期の不調と間違いやすい病気って、どんなものがあるのですか?

 ゆううつになる、意欲がわかない、体もだるい――など、更年期障害には精神的な症状が少なくありません。まず精神的な疾患かどうかを見極めることが大切です。

 エストロゲンレベルの低下に関連して、更年期には睡眠障害や気分の落ち込み、不安、いらいらなどが増えてきます。また、この時期には家庭や職場での悩みも多くなりがちで、うつに陥ってしまうことも珍しくありません。更年期の不調に、本格的なうつ病が重なっていることもあり、そのような場合は心療内科や精神科での専門治療が不可欠になります。

 更年期の不調に似ているのが、甲状腺機能異常です。主に、甲状腺ホルモンの分泌が不足する「甲状腺機能低下症」(橋本病など)と、甲状腺ホルモンが多すぎる「甲状腺機能亢進亢進こうしん症」(バセドウ病など)があります。前者では冷えや倦怠感、後者ではのぼせや発汗など、更年期症状と同じような症状を示すことがあります。

 そのほか、子宮頸けいがんや子宮体がんなどの婦人科がんの初期のサインは不正出血ですが、これを更年期の月経不順と思い込んで放置してしまうケースもあり、注意が必要です。


引用元:
<更年期>症状と間違いやすい病気(読売新聞)