1月、関西地方に住む会社員の佐藤栞(47)=仮名=は定時で仕事を切り上げ、かかりつけの産婦人科に向かった。電車を乗り継いで約1時間。自宅と方向が違うこの場所に月1回は通う生活を、もう2年以上続けている。いつか結婚した時に備えて卵子を保存するためだ。
栞が初めて採卵手術を受けたのは2015年の春だった。注射を打って強制的に排卵数を増やすのではなく、より自然に排卵を促す方法を選び、この時採取したのは2個。体の負担を考えて間隔を空けながら繰り返し、現在は10個の卵子を保存している。
12年のテレビ番組で卵子凍結を知った。芸能人が高齢出産するニュースを見て漠然と「40代でも産める」と信じていた栞にとって、卵子の老化は衝撃だった。
新しい技術への不安からなかなか踏み出せなかったが、年齢が迷いを断ち切った。もう40代も半ばに差し掛かる。母親は心配したが「それでもやりたい」と決断した。
これまで400万円近くを費やしたが、その価値はあると信じている。「何もしなければ卵子は老化する一方。少しでも若い状態で保存することで、やれるだけのことはやったと思える」
40代の卵子凍結については賛否が分かれる。高齢での妊娠・出産は流産や染色体異常のリスクが高まり、母体への負担も大きい。日本生殖医学会は健康な女性の卵子凍結について「40歳以上の採卵、45歳以上の凍結卵子の使用は推奨しない」との見解を示している。
国の定めはなく、年齢制限は医療機関ごとの判断だ。40代でも卵子凍結を実施しているオーク住吉産婦人科の医師船曳美也子(57)は、受け入れる理由として「個人差の大きさ」を挙げる。
「生殖機能は閉経の約10年前から低下するが、30代で閉経する人もいれば50歳を過ぎても閉経しない人もいる。40代でも妊娠するケースはある」。ただし、年齢を重ねるほど妊娠の可能性が低くなるのは確かだ。
栞も葛藤している。いつまで採卵を続けるのか、卵子の保管期限をどうするのか。「体の負担や危険を考えると年齢を制限するのも理解できる。もっと早く知っていれば…」。後悔しても時間は巻き戻せないから、自分にとっての最善を尽くすだけだ。(
引用元:
いつか母に 卵子凍結のいま/3 自分にとっての最善を 40代半ば、葛藤抱えて /徳島(毎日新聞)