乳がんで6月に亡くなったフリーアナウンサーの小林麻央さん(享年34)もブログで医療用ウイッグを利用している姿を見せたが、女性にとって外見の悩みは大きいもの。抗がん剤治療での脱毛、乳房の切除手術などに対するケア製品が近年増えている。一方で、ケア製品が医療費の補助対象として認められるケースは少なく、負担軽減を求める声も上がっている。

7月下旬、大阪市北区にある医療用ウイッグ専門店「ワンステップ」。2度目の来店となった兵庫県在住の女性(32)はウイッグのメンテナンスに訪れ、「肌荒れもないし、問題なく使えています」と満足そうに話した。

 女性が左胸に違和感を覚えたのは昨年12月。5ミリほどのしこりが二つ。「悪いことって自分で分かるもの。心臓が痛くなった」。予感は的中。乳がんだった。

 悩んだ末に全摘出手術をしたところ、がんの悪性度が高く、リンパ節にも微小転移。女性は抗がん剤治療を余儀なくされた。「吐き気とかしんどいのは何日かで収まるが、脱毛が一番こたえた」。見た目が変わってゆく自分を鏡で見るのも辛かったが、それを周囲に知られたくなかった。

 出合ったのが同店のウイッグだった。オーガニックコットンを使い、吸水性や通気性などの機能面も充実するが見た目の質も高い。一度もカラーリングしていない女性の人毛100%を使い、3段階の長さを選択可能。それを個人差に合わせてカットする。

 「今までと変わらない自分になれた。知っている人も全然分からないと言ってくれるし、全く怪しまれることもない」。周囲に気を使わせることもなく、治療を続ける上で大きな支えになっている、と女性は話す。

 国立がん研究センターがん対策情報センターによると、乳がんの罹患(りかん)者数は約7万4千人(2012年統計)。今や女性の11人に1人が生涯で乳がんを罹患する時代だ。

 年齢層を見ても30代から罹患者が増え、働きながら治療を続け、社会復帰を目指す女性は多い。外見の悩みを解消するため、ウイッグに限らず、人工乳房や乳がん患者用下着など見た目には見分けがつかない質の高いケア製品が登場している。

 「ワンステップ」を経営するグローウィングの岡本紗和さん(27)は「精神的なケアや治療に専念することにつながる。治療の過程で大きな役割を果たしている」とウイッグの利点を挙げるが、まだ医療用として認められず、購入費は保険や助成の対象外になることが多いという。

 ウイッグの助成金制度を設けている自治体は少なく、県全体で行っているのは山形と鳥取のみ。「社会的にも医療用としてもっと認められてほしい」と岡本さんは願う。

 「ウイッグがあるから安心して毎日過ごせる」と明るい表情を見せる女性。抗がん剤治療に少なくとも1年、その後ホルモン治療は5年続く。長い闘病生活は心身に当然こたえるが、ケア製品が心の支えにもなっている。


引用元:
乳がん患者のケア製品 費用補助、対象拡大を(大阪日日新聞)