8月1〜7日は「世界母乳育児週間」。母乳で育てると、赤ちゃんが病気になりにくくなり、母親も産後の回復が早まるなど、さまざまな効果があることが知られるようになった。しかし「母乳が思うように出ない」と悩んだり、授乳中は我慢しないといけない食べ物があると言われたり、ストレスをためる母親は多い。スムーズに始め、長続きさせるポイントを専門家に聞いた。 (小中寿美)


 「脂っこい食べ物で母乳の通り道の乳管が詰まることは一切ない。何を食べても大丈夫。ただ貧血や骨粗しょう症を防ぐため、鉄やカルシウムは十分取って」


 今月上旬、名古屋市千種区の星ケ丘マタニティ病院で開かれた「プレママおっぱい教室」。母乳育児支援に努めている小児科医、瀬尾智子さん(61)の話に妊婦十人が耳を傾けた。参加した一人は「甘い物は控えないといけないと思っていた。ストレスをかけないことの方が大事と分かり、気が楽になった」と話した。


 厚生労働省の二〇一五年度の乳幼児栄養調査では、母乳だけで育てられている赤ちゃんの割合は十年前より増加したものの、生後一カ月で51%、三カ月で55%。一方、妊娠中に「母乳で育てたいと思った」と答えた母親は九割を超えており、希望よりも結果は少なくなっている。母親や赤ちゃんの事情で続けられないケースもあるが、瀬尾さんは「本来七〜八割の赤ちゃんは母乳だけで育てられるはず」とみている。


 十分な量の母乳を出すには「赤ちゃんに吸ってもらうこと。しかも産後早く始めるほどいい」と言う。母乳を作るのは乳房にある乳腺。出産を終え、赤ちゃんをつないでいた胎盤が体の外に出ると「おっぱいのスイッチ」が入り、母乳が作られ始める。一方、赤ちゃんは生まれて一時間もたたないうちから自分で乳首を探り当てて吸う。すると、母親の脳に吸われた刺激が伝わり、母乳を作るホルモンが分泌される。


 母乳が本格的に出るのに四十八〜七十二時間ほどかかるが、焦る必要はない。出生時の体重が十分な赤ちゃんの場合、その間の栄養を持って生まれているからだ。口を動かしたり、手を吸ったり。赤ちゃんのサインに合わせ、欲しがるだけ吸わせる。これを頻繁に続けると、乳腺から脳に多くの信号が送られ、母乳の量も増えてくる。


 もう一つのポイントは抱き方と飲ませ方。最初は赤ちゃんも不慣れで授乳時間は一回三十分、一日計六時間にも及ぶ。母親が座るいすの背もたれが倒せれば倒し、背中や腰にクッションを当てて楽な姿勢を取る。おなか同士がくっつくように抱き、赤ちゃんの下あごが乳房につくと、自分で吸い付いてくる。母親が前かがみになると赤ちゃんの口は離れてしまう。


 瀬尾さんは、薬や食べ物の影響についての質問をよく受ける。母親が薬を飲んでも、母乳から出る量は極めて少なく、抗がん剤など一部を除けば、ほとんどの薬が影響ないとされる。カフェインはコーヒーで一日二〜三杯、授乳が三時間以上空いてきたら、ビールも缶一本、ワインならグラス一杯まで大丈夫という。


 母親が最も悩む「母乳が足りているか」との疑問には「(赤ちゃんが一日に)おしっこ六回、うんち三回していれば足りている」と瀬尾さん。「いつまで続けたらよいか」と聞かれたら「免疫が発達してくる二歳すぎまで続けるのが理想的」と答えている。免疫は母乳を続ける限り、赤ちゃんに届く。仕事復帰で断乳する母親が多いが「やめてしまうと病気をもらいやすくなる。夜だけでも続けると、赤ちゃんの安心感にもつながる」と助言する。


引用元:
母乳育児 スムーズに始め、長続きさせるポイントは?(東京新聞)